Final Phase

 あのいじめ問題から半年が経過した。結局、私は北海道警察を辞職してスクールカウンセラーになった。厳密に言えば、スクールカウンセラーになるための勉強をしているところである。だから、無職ニートと言ってしまえばそれまでだ。スクールカウンセラーになるための研修を受けて、無事にスクールカウンセラーとして認められるためには、数々のフェーズを重ねないといけない。全部で10個のフェーズがあるとして、今はフェーズ5といったところか。つまり、あと半分残っているのだ。それにしても、あの胸糞悪い事件は今でも夢に出てきて、私の心を蝕もうとする。それだけ、心的外傷トラウマを負っているのは事実だ。


 ある日、私は思い立って鈴花ちゃんが埋葬まいそうされている旭川の墓地へと向かった。鈴花ちゃんとその母親が埋葬されているのは所謂都市型墓地であり、無機質なお墓が格子状に並んでいる。そして、私は鈴花ちゃんに対して花を手向たむけた。こんな事、何のためになるのかは分からないのだけれど、少なくとも天国にいる鈴花ちゃんは喜んでくれるのではないかと、私は思っていた。


 それから、私は札幌市内の中学校でスクールカウンセラーになった。北海道警察の少年課の職員だったことが評価されて、再就職先は直ぐに決まった。スクールカウンセラーとして毎日寄せられる相談に乗っていく私は、聖人君子だと思われるかもしれない。けれども、私がやっていることはいじめで苦しむ生徒を救うことであり、心を癒やすことでもある。そして、私の相談が子供の将来に繋がるのなら、それでいい。それにしても、学校の校舎というのは寒い。「小越瑛美子」という名前は「仮令凍える夜でも、笑みを浮かべよう」という駄洒落から来ていると親から聞いた。それが本当かどうかは分からないのだけれど、スクールカウンセラーになって私の凍っていた心が解けていったのは事実かもしれない。警察で働いていた頃の自分は「冷徹」を貫き通していたけれども、結局それは間違いだった。子供の温かい心が、私にとっての本来あるべき姿なのだ。


 ――そして、今日も私は元気に子供たちの相談に乗っている。(了)

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