Phase 11

 自主的な謹慎から1週間が経過した。相変わらず、全国ネットのニュース番組も北海道ローカルのニュース番組も星蘭中学校のいじめ問題の話題で持ち切りだった。私の中であの事件は終わったのだけれど、誹謗中傷が大好きな日本人は相変わらず星蘭中学校に対するを行っていた。そして、私は1週間何をしていたのかというと、基本的に部屋の掃除とロボットアニメのプラモデルの組み立てを行っていた。私の息子の影響でロボットアニメが好きで、こう見えて地元の家電量販店のプラモデルコンテストで優勝した経験も持っている。そんな事はともかく、私は約1ヶ月振りに北海道警察の本部へと赴くことになった。

「小越さん、おかえりなさい。今回のいじめ問題、厄介な事件だったらしいですね。何でも旭川市教育委員会と旭川東警察署がグルになって証拠の隠滅を謀ろうとしていたと聞きました。そして、間接的に凍死体の主を死に追いやった原因となった子どもたちは当然法で裁かれないんですよね」

「暫く、そのいじめ問題の話は聞きたくない。どうせ、私は少年課失格の職員ですから」

「落ち込まないでくださいよ。小越さんの責任じゃありませんから」

「そうは言いますけど、矢っ張り私の責任です。腐敗していた権力に立ち向かいたかったという自分の血が騒いだのもありますけど、星蘭中学校を敵に回し、旭川市教育委員会を敵に回し、そして北海道警察という自分の職場をも敵に回した。こんな私に居場所なんてありません」

「大丈夫ですよ。きっと居場所はありますよ」

「そう? なら良いんだけど」

 そして、私は公安委員会から一連の職権乱用に対する処分内容を聞くことになった。具体的に言えば、私は「約半年間の謹慎処分」を受けることになった。そして、少年課という部署からも外されることになった。自らの職場に対して歯向かったから当然だろうと思っていた。けれども、矢っ張り実際に処分を受けると重みが伝わってくるようだった。これから半年間、私はどうしようか。就職活動でもすべきなのか。それとも、給料の良い今の職場で定年までこのまま働くべきだろうか。私は悩んでいた。そもそもの話、私は40過ぎのオバサンである。今の仕事を辞めた上で再就職先があるとも思えない。せいぜいコンビニやスーパーのレジ打ちが限界だろう。しかし、こんな私でも味方を完全に失った訳ではない。当然、味方もいる。


【瑛美子ちゃん、警察官として例のいじめ問題に関わっていたって本当ですか?】

【確かに私は警察に勤務しているけど、警官ではない。ただの少年課の相談員よ】

 スマートフォンでチャットをしている相手は、小学校の頃からの友人である。彼女は札幌市内の中学校でスクールカウンセラーを務めているのだけど、元々は札幌で暴走していたレディースの一員で、パトロールをしていた母校の先生から補導された事がきっかけでスクールカウンセラーになったという経緯を持っている。元ヤンの先生がヤンキー校を立て直すという学園ドラマはよくあるけれども、実際にそういう人物を友人に持っている者からすれば、ああいうフィクションは鼻で笑う茶番劇だと思っている。それぐらい、その友人と言うのは見かけによらず優しい人物なのである。

【それで、瑛美子ちゃんは謹慎処分受けちゃったワケ?】

【まあ、受けるべくして受けたようなものだし、別に良いんだけど】

【なるほどねぇ。そうだ、スクールカウンセラーになったらどう?】

【前科持ちの私が、スクールカウンセラーになれるわけがないでしょ】

【大丈夫。補導回数50回の私がスクールカウンセラーになれるんだから、瑛美子もなれるよ】

【そうなのね。検討しておくわ】

【おやすみ】

【おやすみ】

 友人からのアドバイスは、的確なんだか的確じゃないんだか善く分からなかった。けれども、謹慎処分を受けているという現状を打破するためなら矢っ張り今の仕事を辞めるべきなんだろうか。しかし、どうやったらスクールカウンセラーになれるのだろうか。とりあえず、私は検索サイトで「スクールカウンセラー なり方」を調べることにした。結果だけ言えば、教員免許は無くてもスクールカウンセラーにはなれるらしい。子供が好きで、子供同士のトラブルに真摯しんしに向き合えて、そして学校に巣食うスクールカーストを壊していく。それがスクールカウンセラーの役目である。ならば、私にとっての天職ではないのだろうか。ああ、視界がぼやけるな。この1ヶ月の疲れが、ドッと出ているのだろう。


 ――とりあえず、今日は寝るか。

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