Phase 01

「次のニュースです。今朝けさ旭川あさひかわ市の公園で、少女の遺体が発見されました。身元は不明ですが、少女は市内にある星蘭せいらん中学校の制服を着用しており、北海道警察旭川方面本部では星蘭中学校に遺体の少女が在籍していないか調査を進めているところです」

 そのニュースを見て、私は少年課の相談員として胸が痛くなった。少年課という部署は北海道警察の生活安全部でも特殊な課であり、文字通り少年犯罪に関する事件を解決したり、少年が非行に走るのを未然に防いだりしている課である。つまり、被害者が子供であるケースはもちろんあるのだけれど、加害者が子供というケースも当然ある。少年法によって裁かれるのは20歳未満の男女であり、当然加害者が20歳に満たない場合は仮名による報道規制が敷かれることになる。

小越こごえくん、そんなにあの事件が気になるのか」

「あっ、先輩。お疲れ様です。確かに、少年課の相談員としてこのニュースは見過ごせません。仮に事件性のある遺体だとしたら、私の出番になってしまうじゃないですか」

「確かにそうだな。札幌ここから旭川は少々遠いが、あの遺体に関して現在所轄である旭川東警察署の刑事と連絡を取っているところだ。そのうち君に出番が回ってくるかもしれない」

「そうですか。その時は、私が自ら旭川に向かうことになりそうですね」

「少々つらいかもしれないが、これは少年事件の可能性も高い。くれぐれも口外こうがいはしないように」

 先輩からの言葉に、私は少し心がざわついていた。こんなこと、許されるわけがないのだけれど、もしかしたら加害者は同級生かもしれない。その可能性も視野に入れつつ、私は旭川方面本部からの連絡を待っていた」

 とりあえず、私は少年課の職員として、近年発生した少年事件の資料をまとめていた。最近の傾向だと、半グレといって暴走族がそのまま犯罪集団になるというケースが度々報告されているらしい。しかし、ここは北海道ほっかいどうだ。ススキノ方面ならともかく、札幌さっぽろにそんな犯罪集団がいたら私の出動回数は規定を越えてしまう。それに、北海道には他の都府県みたいに組織犯罪対策課があるわけでもない。こういう事件は全て刑事部の管轄だ。私の出番ではない。私が担当しているのは主にいじめ事件や万引き事件が中心である。そういえば、いじめといえば最近こんな動画を見たな。確か、内容は「北海道旭川市のS中学校でいじめが発生していた」とかそういう内容だった気がする。私は最近のネット動画にうといから、この手の動画は苦手なのだけれど、地元ということもあって興味本位で動画を見てみることにした。

「どーも、北の大地の暴露系YouTuberこと、どさんこ裏チャンネルでーす! 今日は旭川市のS中学校で発生したいじめ問題について暴露しちゃいたいと思います! これは、チャンネル登録者からのタレコミなんですが、旭川市でも進学校として有名なS中学校で女子中学生がいじめられているという情報を聞きつけました。その証拠が、この動画です。動画サイトにアップロードするには少々過激なので、自主規制でモザイクはかけていますが、既に動画投稿アプリで多数拡散されているので今更そんな事をしても無駄だと思うんですけどね。あぁ、これは酷い。少女が可哀想です。」

 モザイク越しに、少女の喘ぎ声が聞こえる。バイブレーターの音が聞こえることから、恐らくその手の大人の玩具おもちゃで自分の股間を刺激しているのだろう。それにしても、少女にこんなことをさせるなんて、酷くないか。私がそういう事を強要されたら、すぐに逃げてしまう。そんな事を思いながら、動画を見ている時だった。旭川東警察署の方から連絡が入ってきた。

「もしもし? 少年課の小越瑛美子こごええみこさんでしょうか?」

「はい。そうですけど……。どなた様でしょうか?」

「僕は北海道警察旭川方面本部旭川東警察署の樽見正晴たるみまさはるという所轄の刑事です。旭川市の公園で見つかった遺体の件なんですが、僕の見立てだと少年課に連絡を取ったほうが良いかもしれないということで、連絡しました」

「もしかして、いじめが絡んでいると?」

「どうしてそれを知っているんですか!?」

「今、プライベートのスマホで『どさんこ裏チャンネル』という個人配信の動画を見ているんですけど、旭川市のS中学校でいじめがあったというのは紛れもない事実です」

「矢っ張り! 地元でSが付く中学校といえば星蘭中学校しか見当たりません!」

「なるほど。でも、どうして星蘭中学校でいじめ問題が……」

「それは僕にも分かりません。とりあえず、旭川まで来てもらえないでしょうか?詳しいことはそちらで話します」

「分かりました」


 こうして、私は旭川へと向かうことになった。この一連のいじめ問題が、植物のつるのように絡み合った厄介な事件になろうとは、この時は思ってもいなかった。

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