第10話:アル・デュークの人形
アスカは、俺に証拠を見せると言った。俺は、アスカがアンドロイドである証拠を見せてもらうつもりだった。なのに俺は、アスカに連れられて駅前の繁華街に来ていた。たかが、証拠を見せる為になんでこんな所に連れて来られるのか、俺は、少し不思議だった。アスカは、道の角に立ち、繁華街の道を行き来する人たちの顔をじっと眺めて、何を探している様子だった。
「何をしているんだ?」
「燐が納得できる様な証拠を探しているのだ」
「……」
ちょっと、心配になってきた。この少女は、本当に大丈夫なのだろうか。そんな事を考えて居るとアスカが俺の服をクイクイと引っ張った。
「アレを見ろ」
アスカは、小さな声でそう言うと、繁華街を歩く一人の男を指差した。あの男……見覚えがある。たしか同じクラスの佐伯……義雄とか言う奴だ。あまり、言葉を交わした事のない、俺にとっては、ただのクラスメートと言う存在。
「アイツがどうしたんだ?」
「アレは、人ではない。今、それを証明してやる」
アスカは、そう言うと、すぐさま佐伯の居る方へ駆け出した。
「おい! 待て!」
俺のその声を無視して、アスカは、佐伯の後を追いかけていく。しかたなしに俺も駆け出した。
「チッ、何だって言うんだ」
アスカが後一歩と言う距離にせまった所で佐伯は、近付いていくアスカの姿に気が付いたようだ。アスカの姿を見据え、驚いた表情を浮かべてたのだ。そして、何故そうしたのか解らないが佐伯は、アスカから逃げ出す様に走りだした。そして、ビルの裏路地へと潜り込んでいった。アスカも続いて裏路地へと入って行った。しかし、佐伯もアスカも何て走るのが速いのだろうか。俺の全速力では、とても追いつけそうになかった。俺が裏路地へ近付くにつれて、激しい金属音が聞こえてきた。
カン・キン・キュイン
何か金属同士が激しくぶつかる様な音だ。そして、俺がその裏路地へとたどり着いた時には、何もかも終わっていたのだ。
「はあ、はあ、はあ」
全速力で走ってきた為に興奮状態の身体を落ち着かせる為に俺は、激しく呼吸を繰り返した。そして、空気を吸い込む度にする血生臭いに俺は、むせかりそうだった。ようやく、酸素が行き届いた脳で俺は、状況認識を開始し始めていた。
「なんだ……これは、なんだ?」
裏路地に在ったのは、赤い血の海と佐伯の遺体。足元には、身体から弾け飛んだ佐伯の頭が俺の顔を睨みつけていた。そして、その血の海の中心には、アスカが真っ赤な返り血を浴びた姿で存在していたのだ。
「これは、なんだ? アスカ、これは? 殺したのか? 答えろ!! アスカ!?」
俺は、叫んでいた。冷たい視線で俺を見据えるアスカを前にして、俺は、強く力強く叫んた。
これは、怒りだったのだろうか。いや、違う。焦り? 驚き? それとも、恐れ? いや、どれも違う。俺は、ただ悲しかったのだ。同じクラスの同級生が殺され、俺の目の前にその死体が存在していた事に。
「燐、こいつは、私が殺した。いや、正確には、壊した」
アスカが佐伯を殺した事を平然と告白した。佐伯の返り血で真っ赤に染まったTシャツを身に纏った姿で冷静な口調で言うその言葉には、何の感情も持ち合わせていないようだった。
「アスカ!! お前!!」
「燐、何を興奮しているのだ? これを良く見ろ」
アスカは、俺の激しい声を遮るように冷静にそう言って、頭に無い佐伯の身体を指差した。頭の無くなった首から覗く金属の骨、その金属の骨の中から、バチバチと、電気がショートする様な火花飛び散っていた。そして、その火花が飛び散る度に佐伯の身体がピクピクと痙攣をする。これは、いったい何だ。人間の身体には、こんな黒光りする金属の骨なんて無いはずだ。火花だって、飛び散るのは、おかしい。佐伯は、佐伯の身体は、人では無いのか。
「燐、ようやく落ち着いたか? この赤い血の様なモノは、擬人血液だ。成分は、人間の血と同じ。よく、出来ているだろう?」
「何だって言うんだ。佐伯は、いったい」
「言っただろう? こいつは、人間ではない。私と同じ、アンドロイドだ」
アスカの言うとうり、佐伯は、人間では無かったようだ。こんな金属の様な骨をした人間は、居ない。こんな火花を飛び散らせる身体を持つ人間は、存在しない。しかし、同級生、クラスメイト、顔見知りの奴がアンドロイドだったなんて。だが、気になる。何かが変だ。
「まてまて、どうして、お前の同じアンドロイドを壊した? 仲間をどうして壊す?」
俺がそう聞くと、アスカは、静かに俺を見据え、語り出しだ。
「いいだろう。こうなっら、最初から解り易く説明してやろう」
「……」
「私が異星人に作られたアンドロイドである事は、以前話したな? この地球に来ている異星人は、2種族存在する。私を作ったのは、その内の1種族セムリアと呼ばれる異星人だ。もう一つの種族は、アル・デュークと呼ばれている。この壊れたアンドロイドは、アル・デュークのモノだ」
「まさか……敵対しているのか? アルなんとかと言う奴と」
「ああ、その通りだ。だがアル・デュークは、我々セムリアの敵であると同時にこの星の人類にとっても敵だ。つまり、共通の敵だな」
「なぜだ? おかしい。何故、アル・デュークは、敵なんだ? セムリアは、俺達人間の味方と言うわけでもなさそうだ」
アスカの話す事は、とても信じられたものではないが、佐伯の機械の身体を見せられた後では、もう信じるしかなさそうだ。
「セムリアは、地球人類に対して友好的だ。お前達人類の代表とも盟約を交わしている」
「なんだ? 人類の代表って誰なんだ?」
「知らぬのか? アメリカ合衆国大統領とか言うらしいぞ」
あはは、なるほど。人類の代表を名乗るなんて、アメリカらしいと言えばらしい。
「そうか、セムリアは、地球人類に対して友好的なのは、わかった。それで、アル・デュークは、違うんだな?」
「ああ、そうだ。不思議に思うだろ? 何故、2つの種族が地球にやってきたのか。」
「理由があるんだな?」
「うむ、セムリアもアル・デュークもこの地球にやって来た理由は、同じだ。どちらも、種の限界から、逃れる為だ」
「……それは、本当なのか?」
「共に種としての限界を迎えてる。セムリアは、この地球の知的生命体である人間の中にその血を残す事を選んだ。だが、アル・デュークは、
人間を自分達の薬や食料として搾取し続けている。アル・デュークにとって、人間は、種の限界を超える為の薬でしかないのだ」
「だから、壊すのか? だから、アル・デュークは、人間をアンドロイドに置き換えるのか?」
「そうだ。搾取した人間をアンドロイドに置き換えるのは、アル・デュークが人間社会をコントロールする為の手段だ」
「自分達の都合の良いようにアル・デュークは、人間社会、いやこの町もこの国もコントロールしていると言うのか?」
俺がそう聞くと、アスカは、無言でコクリと頷いた。アスカの言った今まで事が本当なら、大変な事だ。この町の何割かの人間がアンドロイドかもしれないと言う事だ。佐伯の様にクラスメートの中にもまだアンドロイドが居るかもしれない。
「それは、セムリアにとっても人間にとっても都合の悪い事だ。だから、見つけしだい排除するようにしている。幸い、アンドロイドとしてのスペックは、私の方が数倍上だ。負ける事は、ありえない。燐、もしアル・デュークのアンドロイドを見つけたら私に知らせてくれ」
アスカは、そう言って足元にある佐伯だったアンドロイドの身体を腕を掴み持ち上げた。そして、アンドロイドの身体を引きずりながら、路地を出て行こうとする。
「アスカ、何処へ?」
「この壊れたアンドロイドの身体を処理してくる」
アスカは、冷静にそう言って路地裏の奥へと消えていった。
不思議な事があるものだ。アスカの話は、とても信じられない事ばかりだ。宇宙人、アンドロイド、種の限界。どれも、安っぽいSF小説などに出てきそうなネタでは、ないか。
だが、あんな佐伯だったモノを見せられた後では、それを信じるしかない。あれは、それだけの説得力がある。しかし、アスカの話を全て信じた訳ではない。アスカ自身がアンドロイドであると言う事は、認めよう。元々人間離れした奴だ。
それは、納得できる。その他の話については、まだ認める訳にはいかない。それを認めてしまうには、まだまだ判断材料が少なすぎるのだ。とりあえず、保留と言う事にしておく事にした。
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