第9話:アンドロイドの証明
問題がある。母がそう決めたのなら、居候する事は、認めよう。しかし、少女の非常識な言い分を認める訳には、いかない。同じ屋根の下で生活をするのなら、なお更の事。何処までが真実で何処からが嘘なのか、ハッキリさせようじゃないか。
俺は、アスカを自分の部屋に呼び出した。無論、色々不可解なアスカの言動を問いただす為だ。アスカは、俺の部屋のほぼ中心辺りで、座布団の上に正座をして、お茶を啜っている。こんな姿を見れば、何処に正座をしてお茶を啜るアンドロイドが居るのかっと疑問が沸いてくる。
「アスカって名前なんだって?」
「お前の母親がそう呼んでいるだけだ」
「それじゃ、本当の名前は、なんて言うんだ?」
本当のところ、名前なんてどうでも良かったが、母が付けた名前で呼んで良いのかどうか、迷っていた。
「そんなものは、無い」
「名前が無い? そんな事は、無いだろう?」
「私は、アンドロイドだ。まだ、名前がなかった。お前の母親がアスカと呼ぶなら、それで良い」
「冗談言ってんじゃない」
俺がそう言うとアスカは、本気だと言わんばかりに俺の顔を睨みつけた。
「たく。それじゃ、お前アンドロイドなんだろ?」
「その通りだ」
「じゃあ、何故食事する必要性があるんだ?」
夕飯の時からずっと疑問に思っていた事だ。アンドロイドが普通人間と同じ様に食事なんて、馬鹿げてるとしか言い様がない。
「アンドロイドだって、活動するには、エネルギーが必要なのだ。その為には、人間と同じ様に食事でエネルギーを蓄える事が効率的だ」
本気なのか、嘘なのか解らない事をアスカは、平然を言ってのける。
「クッ……次だ! お前がアンドロイドだって言う証拠を見せてみろ!」
アスカは、ムッとした表情を浮かべるとスッとその場で立ち上がった。
「今すぐ見せる訳には、いかない。明日、私に付き合え! お前が望む証拠とやらを見せてやろう」
「本気で言ってのか?」
「ああ」
アスカは、力強く頷いて見せる。どうして、こんな事になるかな。俺は、どうにかしてアスカに嘘を暴いてやろうと思って居た。それなのに、アスカは、自信たっぷりに証拠を見せてやると言う。こうなったら、トコトン付き合ってやる。そして、真実をこの目で見極めてやるのだ。
ジリリリリリン、ジリリリリリン
俺の頭の近くで鳴り響く爆音に気が狂いそうだった。もう朝だ。目覚まし時計の音を止めるべく手探りでアラームのスイッチを切る。起きなくちゃいけないと頭で解っていても身体の方は、まだ睡眠を欲しているようだ。まてよ。今日は、……そうか。今日は、学校は、休みのはずだ。学校の創立記念日とかで休みだったのを俺は、思い出した。これで、起きる必要は、なくなった訳だ。ゆっくり、もう一度眠れる。そして、俺の意識は、再びまどろみの中へ落ちていった。
「おい! 起きろ! 起きないか! 何時まで寝るつもりだ? 今日は、私に付き合う約束をしていたではないか。燐、お前は、その約束を反故にする気か?」
突然のそんな叫び声に俺の意識は、現実へとじょじょに引き戻らせていく。
「……」
「お前は、そうやって何時も楽な方へ流されているのではなかろうな? 昨日交わした約束も忘れて、お前は、まさに犬畜生の様だぞ」
むっ……。犬畜生とは、なんたる言いぐさだ。
「わかった。わかった。起きればいいんだろ? 起きれば……」
俺は、再び眠りに落ちていきそうな脳に気合を入れてベッドから身を起した。少し強張った顔を両手でほぐしていると、さっきから、ジッと俺の顔を睨みつけているアスカの姿に気がついた。
「なんだ? そんなに睨むなよ」
「お前が悪い」
アスカは、そう言って顔を逸らす。なんだか、昨日より人間ぽいって言うか、そんなしぐさだった。アスカに姿を良くみれば、昨日のセーラー服姿とは、一変してミススカートにハイソックス、胸元の大きく開いた女性用のTシャツを着込んでいた。よくよく考えれば、なんとも色っぽい格好だ。って、言うか何時の時代のセンスだ。
「お前……その服、どうしたんだ?」
「あっ……いや、これは、今日、燐と出かけると話したら、お前の母がな」
アスカは、少し照れた様子でそういった。
驚いたね。何が驚いたかって言うと、母がこんな色っぽい服を持ってたって事だ。母のこんな服を着たすがたなんて想像したくなかった。
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