第2話:クラスメイト

 今日は、良い天気だ。雲一つ無い青空とは、いかないが太陽の日射が強い。春先の冷たい風と、バランスが取れて丁度いい感じがした。アスカの事であれこれ悩んでいた自分が馬鹿らしく思えるほど気分が良くなる環境とでも言うのだろうか。井原要、真田新と俺の3人は、校舎の屋上の角にあるベンチに腰掛けて居た。


「そういえばさ。燐、一緒に居たあの美少女って、誰?」


俺が弁当の蓋を開けていると、新が突然そんな事を聞いてきた。


「なんだよ? いきなり」

「えーっ! 燐君、ナンパなんてしてないっ言ったよ。本当だったの?」


井原要も驚いた様子でそう口を挟んできた。


「だから、ナンパなんてしてねぇよ!」

「じゃあ、その美少女って?」

「あーうーっ、その親戚の子だ。従妹の女の子だ」


俺がそう言うとまるで信じてないような冷たい視線を井原要は、向けてきた。本当の事を言うわけにもいかず、とっさについた嘘だったがばれてしまったのだろうか。


「燐、ちょっと待てよ。お前に親戚なんて……」


新が余計な事を口走りそうなを察して、俺は、新の首に腕をまわして締め上げた。


「ウグゥ……燐、なんで……」

「新。居たよなぁ。俺に従妹居るの新なら知ってるよな?」

「ああ。あれ? そうかぁ。そうだ、うんうん。知ってる。知ってる」


新がそう言ってくれたので、締め上げてた腕の力を緩めてやった。これで誤魔化せたはずだ。


「えーっ、本当に? とても、怪しいんだけど」


井原要は、ジロっと俺の顔を睨みつけた。相変わらず、井原要は、鋭い。だが、ここは押し切って誤魔化すしかない。真実を打ち明けたところでキチガイ扱いされるのがおちだ。俺自身信じられない事だらけだと言うのに誰がアスカの言う事を信じられると言うのだ。


「ホントだって。今度紹介するから、信じてくれよ」


俺がそう言うとまだ納得いかない様子で井原要は、渋々と言った感じで引き下がった。


「ねぇ、今日は、暇だよね? 久しぶりに3人で遊びにいこっか?」


俺が弁当を食べ終わった所で井原要は、タイミングを計った様にそう切り出してきた。今日は、部活も無いし暇と言えば暇だった。そんな時は、たいてい放課後からの時間を持て余している。


「遊びにって何処へ?」

「カラオケでも行こうよ。ねぇ!」


井原要がそう言うと、新が身を乗り出す様にして手足をバタつかせた。


「行くに決まってるじゃん! なあ、燐!?」

「俺は、まだ行くなんて……」


俺がそう言い終わる前に今度は、新の腕が俺の首を絞め上げた。


「行くよな? な? 行くって言え!」


こっこいつは……。新の気持ちは、解るが、どうしたものか。新は、いつも冗談まじりで、井原要の愛の奴隷とか言っているが。本当に新は、井原要に好意を持っているのだろう。ここで断れば、新に一生分の恨みをかうかもしれないな。


「ああ、分かったよ。たまには良いよな。息抜きって感じでさ」

「やった。じゃあ、放課後楽しみにしてるね」


井原要は、そう嬉しそうに微笑むとベンチか立ち上がった。放課後、3人で遊びに行く事など、めったに無い。たいてい、新と二人で街をうろついてるのが常だ。感覚的に言えば、2ヶ月に一度、井原要の方から誘ってくるのだが。その日の都合で行けたり行けなかったりする。何かと新も忙しい奴なので3人予定がピッタリ合う日は、稀なのだ。





 たいていの学生は、電車通学な者が多い。よって、学生の溜まり場となるのは、その殆どは、駅前に立ち並ぶ商店街や、様々な店である。 井原要、真田新と俺の3人は、その商店街の一角にあるカラオケBOXに来ていた。薄暗い小さな部屋。丁度、井原要が歌い終わった所で俺と新は、盛大な拍手を送っていた。チラリと部屋の壁掛けの時計に目をやると、時計の針は、18時をさしている。


「もう、18時かぁ。俺、そろそろ帰るよ。親が晩飯作って待ってるからな」


俺がそう言うと2人とも不満そうな顔を見せた。まだ、歌い足りないと言った所だろう。


「ちぇっ、良いよなぁ。親がしっかりしてるところは……」


新が妬ましそうに頭の後ろで手を組んでそう言った。そう言えば、新と井原要の親は、共働きで、親が家に居ない事の方が多いと言う話だが。新は、帰れば親が待っていてくれる家が羨ましいのだろう。それについては、井原要も同じはずだ。もっとも、井原要の両親は、会社を作って居るだと言う。小さな会社であるがそれなりの利益を上げているらしい。そんな両親だからこそ、家に居ないのが当たり前の状況なのだと以前聞いた覚えがある。


「盛り上がってたところだが、悪いな」

「うん、しかたないよね」

「うむ、そうだな、どうせお前達暇だろ? 俺の家に寄っていかないか? 母に頼めば、晩飯ぐらい出してくれるしな」


俺がそう言うと井原要は、パッっと顔を輝かせた。逆に新は、考え込む様なそぶりを見せる。


「やった。燐君の家に行くの久しぶりーーー」

「新? お前は、どうする?」

「うーん、今回は、パス。一寸、野暮用があってさ」


新は、とても残念そうにそう言った。まるで、欲しい物を我慢している子供ような顔で新は、恨めしそうに俺を見る。


「そう睨むな。新、また今度誘うよ」

「ああ、そうしてくれ」


新は、ふて腐れた様子で椅子にもたれて天井を見上げる。


「あっ、俺もう少しここで時間潰していくよ。かなめっち、燐、代金は、明日徴収するから」

「そうか。なら、俺達は、もう行くぜ。またな、新」

「新君、またね」


俺と井原要は、新に挨拶をして、部屋の外へと歩き出した。ガチャンと扉が閉まる音がして、聞き覚えのある楽曲のメロディーが新の居る部屋から微かに聞こえてきた。

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