終末のアイオーン

@serai

第1話:噂

「燐君? また、ぼーっとしてるよ。どうしたの?」


そんな声を掛けられて、俺の思考は、現実へと戻された。


声を掛けてきのは、クラスメイトの井原要と言う名前の女生徒だった。今日、学校へ着てから、やっかい者のアスカの事について考え事を行っていた。それを見て井原要は、少し不審に思ったのだろう。


この井原要と言う同級生は、少し変わり者だ。このクラスの女生徒は、たいてい幾つかのグループに分かれていて、普通どれかの派閥に属しているのだが。


井原要は、違った。

どの派閥にも属さないと言う一匹狼みたいな奴だ。とはいえ、性格に問題があるわけでもなく、少なくとも俺や真田新には、気さくに声を掛けてくる明るい性格をしている。


「ああ、一寸……考え事をしてたんだ」

「ふぇ? 考え事? ああ、そっか……燐君、噂になってたもんね」


 井原要は、俺の席の前にある机に腰掛けて、ニッコリと微笑んだ。


 嫌な予感がする。噂っていったい何なんだ。


「噂?」

「あれ? 燐君、知らないの?」

「どんな噂だよ?」


「うん、えっとね。燐君が通学途中で美少女をナンパしてたとか。そのまま、学校サボってその美少女と何処かへ消えてしまったとか。昨日の休日に繁華街でその美少女とデートしてるのを見たとか。そう言うやつ」


 井原要は、何の感情も含めずそんな事を平然と言ってのけた。 頭が痛かった。ある程度覚悟をしていたが。そんな噂が広まっていたなんて、いやこれは、当然の結果なのか。


「まてまて、そんな事、誰が言いふらしているんだ?」

「え? 新君だよ」


 俺は、ガクリと全身の力が抜けたような気分だった。


「あのやろう……」


 まったく、新の奴、変な噂を広めやがって。まあ、こっちも何の説明もしていなかったわけだが。


「私も一寸気になるだけどなぁ。本当にナンパとかしたの?」


 井原要は、少し冷たい視線を向けてそう聞いてきた。


「そんな事。俺がするはずないだろ?」

「だよねー。燐君、そんな根性ないもん」

「……それって、微妙に馬鹿にしてないか?」

「ナイナイ。そんな事ないって」


 井原要は、右手をヒラヒラさせて必死に否定してみせる。確実に心の中で馬鹿にしてるのでは、ないだろうか。


「燐、待たせたな」


 唐突にそんな声をかけて教室の中へ真田新が入ってきた。新の右手には、パンが4つとコーヒー牛乳のパックが入った袋を提げていた。新は、俺の前まで来ると、提げた袋の中に手を左手を突っ込んで器用にパンを2つとコーヒー牛乳のパックを取り出して井原要に手渡した。


「はい、かなめっち」

「やった。さすが、新君!大人気の焼きそばパンとコロッケパン、今日もゲットだね」


 井原要は、大喜びで新からパンを受け取るとヨシヨシとばかりに新の頭をなでる。


「ちょろいって。俺様にかかれば毎日ゲットできるぜ」


 新は、ご機嫌で胸を張る。そんな新を俺は、冷静に眺めてた。


「新、日々……要に手なずけられていってるな」

「良いのだよ。俺は、かなめっちの愛の奴隷なんだ」


 新は、そう自慢げに言った。そこへ、間を空けずに井原要が新の頭を叩いた。


「あいた」

「もう! 新君、調子乗りすぎ!」


 この2人の漫才は、何時もこんな感じだ。それも飽きずに暇さえあれば、俺に漫才を見せてくれる奇特なクラスメイトの2人だ。


「あっ、そうだ。新、ちょっとこっち来いよ」


 俺がそう言って手招きすると新は、不思議そうな顔で近づいてきた。そこで、俺は、新の頭を掴んでヘッドロック。


「新、お前よくも俺の変な噂を流してくれたなぁ」

「へ? 何? 痛っ! 噂? 噂って……ああ、あれ? あれか?」

「お前の想像で勝手な噂流しやがって!」

「いや、だって、真実じゃん。俺、嘘言ってないよ。イタタタ」


 まったく、反省の色がない新に俺は、更なる圧力を加えた。


「わかった。あやまる。あやまるよ。ごめんって。ごめんなさい」


「まあ、この辺で許してやる。だがな、新。二度目は、無いからな」


 俺は、新の頭を離して、そう釘をさしておく。まあ、効果は、一ヶ月といったところだ。


「ねえ、今日は、いい天気だし。久しぶりに屋上で食べよう?」

「あっ、いいね。それ賛成」


 新は、井原要の提案に直ぐに賛成の声を上げる。屋上で昼食とは、かなり久しぶりである。一応、学生に開放されている屋上は、昼食には人気スポットである。こんな天気の良い日なら、気持ちよく昼食を取れるものだ。たまには、三人で昼飯を食べるのも悪くないか。

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