1.10 相談と呼び出し
苦く甘い思い出に蓋をして、アレックスに空元気がバレバレな笑顔で口を開く。
「そんなわけだからさ。俺は今のこの生活には満足している。だから心配すんな!」
「ハジメ……。すまなかった」
「何に謝ってるんだよ。アレックスは何も悪くないだろ?」
「その、何も考えずに家族のことを聞いてしまって……」
「まあ、そうだな。悪いと思うのなら、いい王様にでもなってもらおうか。ハハッ」
俺は笑い話のつもりで、軽い気持ちでそう言ったつもりだったのだが……。
根が真面目なアレックスは、俺の言葉をそのままに受け取ってしまったようだ。
「……よし、ハジメ。宣言通りに僕は立派な王になってみせるぞ。これ以上、民たちが苦しまないで済むように、これから出来ることは可能な限り始めようと思う。まずは邪魔な者たちを排除することからかな」
「排除って、本当にこの国は穏やかじゃないなぁ……」
「役に立たないくせに僕たちの足を引っ張るからね。そんなのはいない方がいいよ」
なにやら黒い笑顔で笑うアレックス。
うん、ちょっと怖い。嘘ついた、王族の悪い顔マジ怖い。
それはそうと、俺は先ほどのアレックスのゲームの戦い方をふと思い出す。
アレックスのことを上辺しか知らないから、聞いておいた方がいいかもしれない。
「そういえば、アレックスには頼れる側近はいるのか?」
「数は少ないけど、数人いるよ。急にどうしたんだい?」
「さっきのゲームで、アレックスは仲間と足並みを揃える性格だと思ってな……」
「そうだね。僕は情報や方針は部下たちと共有して、ある程度は僕の指示がなくても動けるようにしているよ」
「それなのに邪魔な奴がいるのか?」
「僕の周りじゃなくて、父上の周りにね。僕からの書類が届かなかったりするんだ。もちろん、その逆もある」
「揉み消すような奴がいるのか。それって、かなりまずいことなんじゃ……」
「当たり前だよ。大事な仕事の書類だ。それを揉み消すなんてタダじゃすまないよ」
「でも、なんでそれを認識できているんだ? その書類は紛失してるんだろ?」
「もちろん、僕ら王族とその最側近でしか使っていない別の方法で渡しているんだ」
「なるほどな」
仕事の書類の紛失、そんなことをするのは小悪党ってところかな?
だが、そんなのが周囲に溢れてるんじゃ、仕事にならないだろうな。
伝えたいことも捻じ曲げて伝えてそうだぞ……。
はー、これだから貴族って存在は嫌になるね。
自分の利益しか見ていないから、そのしわ寄せが国民にやってくる。
とは言っても、俺に具体的な解決策なんてないがな。
まあ、俺はこの国の民じゃないし、ダンジョンのおかげでそういうのとは無縁だ。
アレックスは頭を悩ませるだろうが、頑張ってもらうしかない。
「どうにか僕が手伝える仕事を増やして、父上の仕事を減らす方向で国政に携わっていきたいんだ。それに……」
「それに?」
アレックスは少し言うか言うまいかを悩んだが、俺に悩みを打ち明けてくれた。
彼の父である国王も、俺の父親と同じで家族を顧みないらしい。
どこにでも同じ人種はいるんだなと、その言葉を聞いて軽くめまいがする。
「父上は何度も何度も、数えきれないほど毒殺の危険にあっているせいか、僕や母上と食事を共にしないんだ。自分には毒を無効化する魔道具があるからってさ」
「まあ、巻き込みたくない気持ちはわかるが……」
「だけど、なにも自ら危険の最前線に立たなくてもいいじゃないか! 僕にだって、信頼できる部下がいる。毒見だって、ちゃんとしてくれるさ! だから、僕は父上をたったひとり王宮の戦場に立たせたくない。いつまでも子ども扱いは嫌なんだ!」
「……そこまでの覚悟があるなら、直接話してみたらどうなんだ?」
「それすら奴らは邪魔してくるんだ。機会が来るのを待ってはいるんだけどね……」
あれやこれやと国王と王子の足を引っ張るとか、この国大丈夫かよ……。
さすがに腐敗した貴族たちが自由にしすぎじゃないか?
俺は不憫だなと思って、アレックスに同意してやった。
「はぁ、本当に邪魔な奴らだな」
「だろうっ!? 今は優秀な者を集めて、人事を入れ替える準備をしているんだ」
近い近い、顔が近い。
俺はアレックスの顔を押し戻しつつ、機会を逃すなよと話し合った。
解決策を提示できたわけじゃないけど、アレックスは満足そうなのでよしとする。
悩みが話せてスッキリしたアレックスを地上に送った。
ダッセルさん宅の玄関ホールにいた護衛たちが慌てた様子で近づいてくる。
「アレックス様!」
「ご無事ですか、アレックス様!?」
あっ、護衛たちのことをすっかり忘れてたな。
もしかして、ずっとここで待機していたのか……? ご苦労なことで。
俺はとあるものを渡して、挨拶もそこそこにアレックスとはそこで別れた。
護衛たちには睨まれっぱなしだったが、あいつらは解雇されるんだろうなぁ。
解雇って言うのかな? まあ、そんなことは別にいいか。
あっ、そうだ。ダッセルさんに緊急時に連絡が取れるものを作っておこう。
今まで不便だったからな。なんで今まで思いつかなかったんだろうか。
さっそく作って、使えるか実験したいな。
はぁ、今日は色々とあって本当に疲れたな……。
昔のことを思い出したせいか、ほんの少しセンチな気分だし、癒されたい。
明日は平和に過ごせますようにっと。
◇◇◇
今日こそは平和に過ごせると思ったのに、けたたましく鳴る音で起こされた。
ユイ姉はすでに隣にいない。朝の散歩にでも出かけているのかも。
温もりがないことを寂しく思いながら、連絡用に作った魔道具を手に取る。
「ふぁい、どうしたんですか……。何かありました、ダッセルさん?」
まだ寝ぼけた状態のままで話を進める。
だが、俺のそんな状態も気にせず、慌てふためくダッセルさんの声が聞こえる。
「ハジメさん、急いで商業ギルドに向かいますよ! 国王陛下から呼び出しです!」
「はー、こくおうへいかね。へいかへいか。……ん? 国王陛下だって!?」
「だから、そう言ってるじゃないですか! 急いで我が家に来てくださいね!」
ダッセルさんはそれだけ言い残して、魔道具の連絡が途絶えた。
あー、もしかして、何か緊急事態なのか? しかも、呼び出しとか……。
はぁ、今日は平和であってほしかったのに、フラグでも立ててしまったかな?
俺は特に急ぐこともせず、朝食をユイ姉たちと食べてから出かける準備を始めた。
ユイ姉は昨夜のことがあり、上機嫌だ。それを見ると、俺は少し恥ずかしくなる。
「私のハジメちゃん、どうしたの~?」
「ダッセルさんに呼ばれてるんだ。国王陛下からの呼び出しだってさ」
「じゃあ、シャンとしないとね。こっちに来て座って。髪を整えてあげる」
「うん、お願い。いつもありがとう、ユイ姉」
「うふふっ、どういたしまして~」
ユイ姉に感謝を告げて、髪をよそいきにセットしてもらう。
服装も普段着じゃなく、上質なスーツでビシッと決めてみた。
ユイ姉が「カッコいい!」と言って、発情しそうだったので止める。
「ユイ姉も来てくれるよね?」
「もちろん一緒にいくよ! お姉ちゃんがいないと、ハジメちゃんは恥ずかしがり屋さんだもんね~。お姉ちゃんが国王様の相手をするから、何も問題ないからね!」
ユイ姉が隣にいるのなら、国王陛下だろうがなんだろうが大丈夫だ。
さて、準備も出来たし、ダッセルさん宅に行きますかね~。
ちょっと待たせすぎたかなとも思うけど……まあ、問題はないだろう。
それじゃ、ちゃちゃっと用事を済ませますか! 鍵付きの部屋に転移っ!
ここから長い一日が始まるとは、この時の俺たちには知る由もなかった。
【更新停滞中】転生した俺は異世界でもゲームがしたい! ~ダンジョンで前世のゲームを布教中!~ 物部 @mononobe2648
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