1.04 お披露目します! 前編

 今日は出来上がった遊戯場を地下の住民たちにお披露目をする。

 <ダンジョンマスター>の警報を利用して、ダンジョン内のあちこちに住む住人に向けて宣伝放送をしたのだ。


 住人たちは出来上がった遊戯場の中を見てきっと驚いてくれるだろう。

 ユイ姉とナビィのおかげで、館内は空調が効いていて過ごしやすいのもいい点だ。

 その二人が協力した結果、遊戯場の二階部分はなぜか温泉施設となっている。




 そしてお披露目となる今日、遊戯場の前にはたくさんの人が集まった。

 女性の住人が七割、残りの三割はその付き添いといった感じでここにいると思う。

 女性たちは温泉施設と聞いても、当初はチンプンカンプンの反応を示していた。

 そのため、俺の簡素な宣伝放送のあとに、追加でユイ姉がこう説明したのだ。


 ――温泉には美容効果があります。ただ温泉に浸かるだけでいいのです。

 ――髪や身体を洗う液体の石鹸で身綺麗になりましょう。男が振り返りますよ?

 ――ここでしか使えない美容関係の塗り薬なども数量限定で準備しています。

 ――みんなで綺麗な肌や髪を取り戻しませんか?


 この放送を聞いた女性たちはユイ姉たちに殺到して説明を求めた。

 ユイ姉は自身の容姿を見てもらい、その効果を示した。

 その結果がこの男女比である。

 女性たちは誰もがユイ姉のように綺麗になりたいようだ。

 振り向かせたい男がいるなら尚更だし、母親たちも旦那には褒められたいはずだ。


 父親や子どもたちはまだ胡乱げにそんな母親たちを見ている。

 女性陣はみんな、子どもたちを父親に見てもらうようだ。

 その間に母親たちはゆっくりと温泉を満喫できることになる。

 温泉から出たら母親の綺麗さに子どもは驚くだろうし、旦那は惚れ直すだろうな。




 まあ、そんな女性陣は置いておいて、俺の狙いはその父親や子どもたちだ。

 女性陣をただジッと待つだけではたぶん夫婦喧嘩になるだろう。

 それくらいは長時間になると思うからな。

 だから、そういった人たちには俺の考えた遊戯場を利用してもらう予定でいる。


 女性陣はユイ姉に連れられて二階の温泉施設に向かった。

 俺は残された父親や子どもたちを相手に遊戯場内を案内していく。

 地下の住民たちはすでに顔見知りだから、俺の低いコミュ力でもなんとかなる。

 それにゲームのことなら俺は頑張れる。さあ、ゲームしようぜ!


「よし、野郎ども! 女性陣のことは一旦忘れて遊ぶぞ!」


「って言っても、ハジメの旦那よぉ。見たことないものしかねえぞ……」

「んだんだ。遊べと言われても何をどうすればいいのかわかんねえだよ?」

「お父さん、あれなにー?」


「まあ、待てよ。順番にな。よし、子どもたち。あそこにあるものを取ってこい!」


 大きな声で子どもたちにテーブルの上にある携帯機を持ってこさせる。

 携帯機の中にあるゲームは文字が読めないだろう子どもたち向けのものにした。

 ブロックを積み上げるゲーム、いわゆる落ちものゲーだ。

 一列揃えることで、その列が消える。ルールが簡単だからすぐに楽しめると思う。


 ――列じゃない、行だってツッコミは受け付けないぜ!


 ルール説明を終えたら、子どもたちは初めて触るゲーム機にすでに夢中だ。

 しかも、このゲームにはスコアを記録して掲示板に登録する機能がある。

 数字を教えるいい機会だと思ったので、十進数の表も作った。

 あとは桁が多いほど偉いと言えば、とりあえずは理解してもらえるだろう。


 子どもたちは誰もが掲示板のランキング上位を目指して真剣にプレイしている。

 名前もゲームを通して掲示板に登録されるようにしてみたのだ。

 自分の名前の文字も覚えられて、数字も覚えられる。

 勉強もできるんだから、親からすれば一石で三羽も四羽も鳥が落とせるんだぜ!



 ちなみに、ランキングはある程度の時間でリセットされるようにしている。

 リセットされるごとに、子どもたちはみんなランキング上位を目指す。

 これを繰り返すことで、父親は子どもから軽く眼を離すことが出来る。

 それでも出来る限り親の近くで遊べるように携帯機にしておいてよかったと思う。


 念のため、遊戯場専門のメイドと執事のゴーレムも用意してみた。

 見た目も美男美女なので、何かがあってもその容姿だけで黙らせることが出来る。

 子どもたちをそれとなく監視しており、気配り上手で問題があればすぐに動く。

 たとえ子どもが癇癪を起こしても、宥める育児スキルは高めに設定済みだ。




 ――すべての人類には少なからず魔力が宿っている。


 以前に、ナビィからそう説明された俺はそれを利用して、個人データの保存を行うことにした。


 子どもたちが使っているゲーム機にも本人認証のために各々の魔力を保存することによって、ここではどのゲーム機からでも個人のデータを呼び出すことが出来る。

 名付けて『どこでもデータ呼び出し機能』だ!

 これはどのゲームにも搭載している異世界ならではの便利機能である。


 ちなみに、ゲーム機の持ち出しは出来ないようにしてある。

 警報がなるから気をつけてくれよな。




 さてさて、いよいよ父親たちの番だな。

 子どもはゲームに夢中で、ゴーレムたちが簡単なお菓子や飲み物を提供している。


「旦那のおかげで子どもたちの面倒を見る手間が省けて助かったぜ……」

「だよなあ。さすがにただジッとしていろだなんて言うわけにもいかなかったしな」

「んだんだ。オラも子どもたちに申し訳なくなるだ」

「それで、俺たちにも何かあるんだろ? 子ども用のを見るだけで期待しちまうぜ」


「期待していいぜ? 大人ならではの熱くなれるものを用意したつもりだからな!」


 俺は自分でハードル上げていると思ってしまったが、大丈夫だと言い聞かせる。

 そして、大人たちをとあるテーブルに誘導した。

 テーブルの形は楕円形で、よくポーカーに使われる見た目をしている。

 だが、大きさはそれなりにある。これを四人用と八人用と用意した。

 そして、最大の特徴は中央に見下ろせる闘技場があることだろう。


 俺は大人たちに向かって説明を続ける。


「これは四人、または八人で対戦するゲームで、最終的に一人だけが勝ち残れる」


「ほお、遊びの中で戦うっていうことか」

「子どもの面倒見ながらでも出来るならいいな」

「オラにも出来るだか?」

「ただ戦うってだけじゃ面白くねえかな。木剣で殴り合うのと変わらないぜ?」


「そう言うと思って、順位に応じてポイントをつけるようにしたんだ」


 このポイントを集めることで景品と交換できることを大人たちに説明した。

 景品の中には酒だったり、お菓子だったり、美容関係のものがある。

 温泉施設の美容関係のものは数量限定にしているため、今後はこのポイントでしか手に入らないようになっている。


「げえっ! 負け続けたら、嫁さんのために通うことになるのかよ!」

「嫁と子どものためにも頑張ってみるかな?」

「オラは気になるあの子のために頑張るだ!」

「へえ、酒があるのか。それは嬉しいねえ」


「ついでに、観戦で貯めたポイントを賭けることも出来るようにしてみた。今までの戦績の勝率で賭け金の倍率も自動で調整されて、配当も自動で計算される」


「戦う必要はあまりないが、負けたら結局自分で戦って稼ぐ必要があるのか……」

「うーん、俺は堅実にポイントを貯めるのが性に合ってるな」

「オラは自分で戦って、誇れる強さを手に入れるだ!」

「賭けまであるのか。これは病みつきになりそうだな。んで、肝心のゲームの内容はどうなんだい?」


 よしよし、食いついたな?

 ギャンブルはどうかと思ったが、金銭を賭けるわけじゃないから大丈夫だと思う。

 ゲームの強さで女性が惹かれてくれるかは謎だが、あの人には頑張ってほしいね。

 ここまで来れば、あとは軽く説明して実際にやらせてみた方がいいだろうな。


 さあ、お前たちも俺が愛したゲームの異世界版の虜になるがいい!

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