1.03 何かとんでもないものが出来たようだ……

 ダンジョンの魔力は十分。ゲーム案も出来ている。あとは建物だな。

 というわけで、さっそく作っていくぞ!


「ハジメちゃん、いきなり建物を建てるつもり? ……大丈夫なの?」

「心配するな、ユイ姉。一気にバーン!とカッコいい建物をドン!って作るからさ」

「うーん、さすがにミニチュアを作ってからの方がいいと思うんだけど……」

『大丈夫よ、ユイ! これだけ自信があるんだから、きっとすごいのが出来るわ!』


「ナビィ、珍しく意見が合うじゃないか! 見てろよ、うおおおお!」


 掛け声と共にイメージを形にしていく。

 <ダンジョンマスター>の能力が建物を形作るサポートをしてくれる。

 俺はただ理想の遊戯場ゲームセンターを思い描くだけでいい。

 そう、簡単だとこの時は思っていた。


 ――あ、あれ? 思っていたよりも細部がわからないぞ。

 ――ええっと、ここがこんな感じで。こっちがああで、こうで……。

 ――ここはどうだったけ? これはちょっと無理がない?


 イメージがぼんやりとしてきて、簡単にしようと建物の形状を修正し始める。

 だが、慌てて修正しようとしてヤバいと思った時には手遅れだった。


 ズン!と音を立てて出来上がった建物は、いわゆる豆腐ハウス。

 しかも、骨組みしかない。ど、どうしてこうなった……。

 ユイ姉は呆れているし、ナビィは口をポカンと開けて呆然としている。


「ハジメちゃん。次はミニチュアから作って、少しずつ完成させましょうね?」

『は、ハジメ? これがバーンとしたカッコいい建物、なの……?』

「……こんなはずじゃなかったんだ。見ないでくれ、みじめな俺と建物を」


 しかし、この骨組みしかない豆腐形の建築物どうしよう?

 放置するにはあまりにも大きすぎるな。ハッキリ言って邪魔だ。

 俺が住んでいた地域の公民館くらいの大きさはあるぞ……。


 うーん、<ダンジョンマスター>の力で移設や追加加工は可能なのか。

 畑を管理してる人のところに持っていって、温室として使ってもらうしかないな。

 透明な板ガラスを骨組みの間に追加で設置して、大型のガラス温室が完成する。

 これで今日の作業はおしまいにしよう。



 出来ると踏んで作り始めたのに、遊戯場ゲームセンターの建築は失敗に終わった。

 俺が落ち込んでいると、ユイ姉がナビィと相談している。


「……うん、そうなの。だから、そういうのって出来るかな?」

『ユイは<マジックマスター>だし、それを能力が手助けしてくれると思うわ』

「それがわかってよかったわ! ありがとう、ナビィちゃん」


 ユイ姉たちは何を話しているんだろ?

 これ以上みじめでいたくない。もう、お家引きこもるぅ……。

 地面に体育座りしてどんよりと凹んでいる俺に手を差し伸べるユイ姉。


「さて、お家に入ろっか? どんな建物にするつもりだったのか、あとでお姉ちゃんにミニチュアを作って説明してみて?」

「うん……」

「落ち込まない、落ち込まない。大丈夫、お姉ちゃんが手伝ってあげるからね!」


 家の中に入ってからも落ち込む俺に、ユイ姉は「どういうのが作りたかったの? ミニチュアで説明してみて?」と言うので、俺はミニチュアを作って説明を始める。

 ユイ姉はひとつずつミニチュアをじっくりと観察して「ここはどういうものにするつもりなの?」と質問して、俺の遊戯場の細かい作りも詳しく聞き出す。


 その後、ユイ姉に「ちょっと考えをまとめるためのノートを作ってくれるかな?」と頼まれたので、俺は言われるがままに<ダンジョンマスター>の力でA4のノートを生み出して渡した。


 夕食までの間、ユイ姉はノートにメモしながら目を閉じてはうんうんと考え込む。

 小声で「あれも必要かな?」「どうせなら……」と、呟いてはメモを増やす。

 たまに、ナビィにも質問して二人で楽しそうに話す姿を見た。


 ユイ姉は俺の遊戯場作りを手伝ってくれるんだよな?

 なんだか俺以上に楽しそうなんだけど、何をどう協力してくれるんだろうか。

 ナビィも関わっているみたいだから、だんだんと不安になってきた。




 翌朝、寝不足なのかあくびをしながら朝食を食べるユイ姉とナビィ。

 朝食を食べ終わって目が覚めたのか、ご機嫌な様子でユイ姉が話し始める。


「それじゃあ、一週間後にハジメちゃんの建物を作りましょうか!」

「急にどうしたんだ?」

『元々はハジメが突然始めたことよ? 何を言ってるの?』


「そうでした……」


 ナビィにツッコまれるとは、一生の不覚……。

 いや、今はそれはどうでもいい。なんで一週間後なんだろうか?

 俺の疑問にユイ姉は説明してくれる。


「ナビィちゃんに聞いたんだけど、昨日作った建物でダンジョン内の魔力をちょっと使いすぎたって言うの。だからね、<世界樹>が放つ魔力が溜まるのを待って、十分に魔力が溜まってから建てようと思うの」


「でも、実際にイメージして建てるのは俺なんだけど……。また失敗するかも――」

「大丈夫。私が<マジックマスター>の力で、ハジメちゃんの能力に少し干渉して、建てたい建物のイメージするのを手伝うよ。たまには、お姉ちゃんを頼って?」


「いつも頼りっきりなんだけど……」

「そんなことはないわ」


 ユイ姉は弱気になる俺の手を両手で包み込み、真剣な目で俺を見つめる。

 相手はユイ姉なのに、突然のことでドキッとしてしまう。

 包み込む手のひらからユイ姉の温もりが伝わって、俺を安心させるようにユイ姉が落ち着いた声で励ます。


「私が出来ないことをハジメちゃんはしてくれるし、困った人を見かけたら積極的に助けようとするハジメちゃんはとってもカッコいいよ」


「そう、かな……」


「たとえ、どんなに失敗しても、この世界にハジメちゃんをはいないわ。だから、安心して挑戦して。ね?」


「うん……」


 言葉を区切って、ゆっくりと馴染ませるように話すユイ姉。

 いつの間にか、包み込まれるようにしてユイ姉に頭を抱かれていた。

 温かい。人の温もりがこんなにもいいものだとは思わなかったな。

 撫でられるのも気持ちいい。強張っていた身体が、心がほぐされていく。


 大丈夫だと言って、肯定してくれる人がいるならまた頑張れそうだ。

 ユイ姉の背中に腕を回そうとしたところで、ナビィが空気を読まない声をあげる。


『話は終わった~? 食後のお菓子出してよ、ハジメ~』


 その言葉に上げかけた腕を止めた。ユイ姉も慌てた様子で俺から離れた。

 離れるユイ姉の温もりと香りに残念だなと思いながら、ナビィにを出す。

 「ピリッとしてて美味しいわね」と平気な顔で食べる彼女を見て、ため息を吐く。


 いい感じな雰囲気も霧散してしまったので、ユイ姉と目を合わせて笑って、今日は何をしようかと三人で話し合う。




 一週間後、ナビィが魔力が溜まったとダンジョンの魔力に太鼓判を押してくれた。

 なので、今日は遊戯場作りに再挑戦する。

 今回はユイ姉がサポートについてくれるので大丈夫のはずだ。

 俺も気合が入っているが、ユイ姉もノート片手にフンス!とやる気を見せている。


 正直、小柄なユイ姉が気合入れてる姿は不覚にも少し可愛いなと思ってしまった。

 あの日、年上の包容力を見せたのに子どもみたいなユイ姉が面白い。

 笑いそうになるのをこらえて、気合を入れ直す。


 今日はリベンジだ。ユイ姉が協力してくれるんだから絶対に成功させる。

 俺は両手で頬をパン!と張って、ユイ姉に声をかける。


「準備はいい、ユイ姉?」

「うん、いつでもいいよ!」


『頑張れ~! ハジメ、ユイ!』


 ナビィも応援してくれるみたいだけど、どうしても裏がある気がしてしまう。

 頭を振って、一旦彼女のことを思考の外に追いやった。

 <ダンジョンマスター>の能力を発動させて、俺は建物を作るぞと意識する。


 能力の発動に合わせて、ユイ姉が俺の背中に手を触れた。

 今回はユイ姉の<マジックマスター>が建物のイメージを担当する。

 だから、<ダンジョンマスター>の権限をユイ姉に委ねてしまう。


 目を閉じて、俺は何も考えない。ユイ姉にすべてを任せてしまえばいい。


 ――ユイ姉なら失敗しない。

 ――たとえ失敗しても、何度だってやり直せばいいんだから大丈夫だ。


 背中に伝わる温もりに安心して、建物が出来上がるのを待つ。



 しばらくすると、ズン!と音を立てて建物が出来上がったのがわかった。

 ゆっくりと目を開けると、思ったよりも大きな建物に目をパチクリとさせる。

 あれ? 俺こんなにデカい建物にするつもりだったっけ?

 後ろにいるユイ姉を見ると、いい汗をかいて満足そうな顔をしている。


 説明を求めようとしたが、ユイ姉に先手を取られる。


「じゃあ、さっそく中を見てくるね! ハジメちゃんもあとで入っておいで~」

「『入っておいで』ってどういうこと!? 何作ったの、ユイ姉!?」


『私もユイについていくから、ハジメは自分が考えた部分を見てくるといいわよ?』


 じゃあねと言って、ナビィまでユイ姉の後ろを楽しそうについていく。

 何がなんだかわからないが、わかるのはユイ姉が欲しいものを作ったということ。

 二人に置いていかれて呆然とするが、出来たものは仕方ないと考え直す。


 今は遊戯場の中を確認しよう。俺は出来たての建物に足を踏み入れた。

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