かげおくり

はなも散った花壇のうえに

かげを見ました。

かげというには色味があって

正しくないかもしれません。

黄色い服を着ているから

男の子か 女の子かはわかりません。

男の子でも女の子でもいいように

って生まれてくる赤ちゃんのために黄色い服を買う人がいるよう

だけど

それは私の母でした。


月影に 照らされて

曼殊沙華

足を引き摺る

どっしりとした 私の影


少し離れたジャングルジムで

かげは遊んでいました。

かげというにははっきりしていて

正しくないかもしれません。

顔は鉛筆でぐるぐるに塗りつぶされていて

でも笑う口元は見えるのです。

月に伸ばす手は白いのです。


月影が 揺らめいて

レクイエム

俯いた先に

ぼんやりとした 私の影


街灯の照らす出口のほうに

かげは歩いていきました。

かげというにはずっしりしていて

正しくないかもしれません。

ひまわりが大きく描かれた

ワンピースを着ていて

麦わら帽子をかぶっている

少女の姿でした。


月影が 遠のいて

薄ら雲

消えないように 影を見て

カウントダウン


10

  9

   8

    7

     6

      5

       4

        3

         2

          1

振り返ったかげは

私の顔をしていました。

私の足元に

影はありませんでした。



                          吉岡実の「影絵」によせて

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