蛇の脚編 8話

魔王は王様の中で目を覚ましました。しかしガラス瓶に詰められたように身動きはできません。

王様は歳を取りました。

魔王は知りました。

王様の恐怖を。


王様は子供をもうけました。

魔王は知りました。

王様の喜びを。


王様は民に償いました。

魔王は知りました。

自分の奪ったものの重みを。


魔王は次の王様の中で目を覚ましました。

しかし変わらずガラス瓶に詰められたように身動きは取れませんでした。

魔王は見守りました。王様の人生を。

王様は苦しんで死にました。


やがて時間が過ぎ、気付くと魔王は王様の娘、姫の中にいました。

魔王は少しだけ動けるようになりました。

すると不思議なことに姫は魔法が使えるようになったのです。

魔王は見守りました。姫の人生を。

姫は苦しんで死にました。


また時間が過ぎると今度は魔王は王子の中にいました。

魔王はまた少しだけ動けるようなりました。

すると王子は少しだけ魔王の記憶を話します。

王子は苦しんで死にました。


ある時は王妃の中で、またある時は王様の中で、魔王は目覚めました。


魔王は理解しました。

王様の血族の命と魔王の命が世代を重ねる毎に解け合っていました。


魔王は遠く聞いていた、少年が王様に言った言葉を思い出しました。

呪い


少年は王様の血族から魔王が復活するように仕向けたのです。

魔王は少年になり老爺になり少女になり老婆になり少女になり、様々に変化していきました。魔王が入った王族は必ず苦しんで死んでいきます。


魔王はやがて姫の身体を自由に動かせるようになりました。

しかし、魔王は姫の身体を奪いませんでした。

まだ、ガラス瓶の中から世界を見つめていました。


血が絶えても、また世代が変わる毎に魔王自身も苦しみを伴っては次の器に引き継がれました。

王の血筋の者もやがてそれを理解していったようでした。


魔王はガラス瓶の中からこの国を見守りながら眠りました。

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