蛇の脚編 2話
少年は師に破門されました。
彼と彼の愛し子達は師にたくさんの迷惑をかけたからです。
「もううんざりだ。そのトカゲを捨てられないというならば何も教えるつもりはない、さっさと去りなさい。」
少年はトカゲを捨てることを拒みました。
傷つき、弱ったそのトカゲは捨ててしまえばすぐ死んでしまうと分かっていたのです。
少年が去る時、師は少年にたくさんの暴言を投げかけました。
少年は師を怨みはしませんでした。
師は少年に生きる術を教えてくれました。
師は少年に名乗る名前を与えてくれました。
師は少年に人間である術を教えてくれました。
少年は最後に心からの礼を述べ、師の元を去りました。
少年は殆ど目が見えませんでしたが、魔法を使って物を見る術を習得しておりましたので彼の旅は思ったほど辛い物にはなりませんでした。
人里に近づくと少年はトカゲやカエルたちを近くの森や岩場に隠し、町で仕事や買い物を済ませると彼等の元に戻り共に寝る日々を過ごしました。
少年は一所にとどまることが出来ませんでした。
彼の愛し子達はとても独特な外見をしており、人々はそれを見る度悲鳴を上げて逃げ惑うのです。
しかし旅をし、新しい愛し子達と出会うのも悪くないと少年は思いました。
少年はある時異常に気付きました。
遠くの町に火の手が上がっていたのです。
少年は消火を手伝うため町へ向かいました。
しかし町には人の気配がありませんでした。少年は皆避難したのかと不思議に思いました。
町には男がおりました。一人焚火を見つめながらその目に感情はありません。
「男」と表現しましたが正確には男なのかは分かりません、「それ」は人の形をしておりましたが火傷のようにただれた肌に鱗が浮かんだとても奇妙な生き物でした。
「どうしたのですか。おじさん。こんな所に立ち尽くしては危ないよ」
少年は男に言いました。
男は少年の瞳をじっと見ていました。
「目が、見えないのか」
「いや、視ることは出来るよ。僕は見習いだけど魔術師なんだ」
少年は胸を張ります。男は軽く目を見張ったようでした。
暫く、無人の燃える街で二人は話をしました。
魔法の話や少年の旅の話を聞きながら、男は切り出します。
「我の…この姿が恐ろしくはないのか?」
「いや、別に。僕は人間よりトカゲの方が好きなくらいだし。割とイケてると思う」
妙な子供だ。と男は笑ったような気がしましたが、表情の変化はよく分かりませんでした。
「子供。お前人間が憎くはないか?」
少しためらいましたが少年は答えます。
「うーん。そうだね。正直人はあまり好きじゃない。嫌いだよ。」
答えを聞かずとも男には少年の心が、人間への諦めと深い悲しみが分かっていました。
「我と共に君以外人間のいない世界を作る気はないかい?」
「それは嫌だ」
男は固まりました。
少年は首をかしげました。
「それは…何故だい?人間は嫌いなんだろう?…何なら君とトカゲだけの世界を作っても構わないよ?」
少年は何故トカゲの事を男が知っているのか不思議に思いましたが答えました。
「僕と一緒に世界を亡ぼしても。世界に僕とキミという人間が残るじゃないか。そうしたら、僕以外の人間のいない世界を作るなら僕らは殺し合わなきゃいけないんだろう?それに、話してみたら趣味の合う人もいるかもしれないじゃないか。そんなのお断りさ」
男は黙って少年を見ていました。
「おじさん、僕はおじさんと殺し合うより普通に友達になってみたいよ。」
そして少年は笑いました。輝くようなきらきらとした笑顔でした。
「嗚呼、君は…」
男は泣き出しました。ぽろぽろと涙をこぼしました。
「どうしたの?おじさん?大丈夫?」
「ああ、君はまだ我を人というのか。君は絶望を知らぬのか。そうか、」
「大丈夫?おじさん。」
「君は、力が欲しくはないかね」
「う~ん。強くなるって事?そうだね。うん」
男は少年の手を握りました。
「では友達になった証に、君に贈り物をあげよう。」
「その前に自己紹介をしようよ。おじさん、名前は何て言うんだい?」
「私は…魔王というのだ」
「へぇ、おとぎ話に出てくる魔王かい?なんだかかっこいいね!」
「そうだよ。君がコレをどう使うかは自由だけれど、できれば」
「?」
「いや、何でもないよ。目を閉じなさい。今渡すから」
少年は目を閉じました。
「ごめんね」
男は少年に聞こえないほど小さく呟き、少年の胸に掌を当てました。
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