蛇の脚編 1話
あるところに魔術師がいました。
魔術師には家族がありませんでした。
魔術師には友もありませんでした。
魔術師は独学で魔術師になりましたが、致命的に才能がありませんでした。
しかし魔術師は諦めませんでした。
毎日鍛錬に励み、工夫を凝らし、書物を漁り、魔術師は努力で立派な魔術師になりました。
暁のフィルチェ、賢者ガンドルフなど、彼の元をたくさんの弟子が巣立っていきました。
魔術師はある年、とうとう長い歴史を持つ王国に召し抱えられることになりました。
歳をとり、魔法の力は更に弱まっておりましたが長年の功績が認められたことを彼はとても喜びました。
王宮に行くと白衣を着た男が彼を出迎えました。
男は彼に王国の繁栄のために魔術の根源を探る研究に協力してくれと頭を下げました。彼は男の研究に協力することにしました。
鍛錬の時間も、遠く離れた弟子達との交流もそぞろに、彼は男の研究の協力に没頭しました。
彼は知りませんでした。男が彼と調査していたことは既に彼が来る前に明らかになっていたことを。
彼は知りませんでした。研究と称した話し合いなどが彼の信用を得るためだけに用意されたことなど。
「魔術師様。どうかお願いがあるのです」
「君の頼みなら協力しよう」
男の願いはドラゴンの復活でした。
魔術を生み出したとされ、大陸から姿を消したドラゴン。
魔術師への頼みとは発掘作業により発見された、そのドラゴンの遺伝子を魔術師に移植したいという物でした。
男は昔、高い魔力を持った人間に細胞を移植し疑似ドラゴンを作る事に成功していました。
しかし、魔力制御を知らなかった人間は暴走によってすぐに死んでしまいました。
男は求めていました。ドラゴンに耐えられる魔力を持つ、知力の高い検体を。
魔術師は検体になりました。
男は失敗についての説明はしませんでした。
男は魔術師の操る高度な魔法の数々に成功を確信していました。
しかし
細胞を移植した結果、魔術師の姿は火傷のようなただれと鱗の浮き出たトカゲもどきになっておりました。
魔術師の魔力ではドラゴンへ完全に変化を遂げるには足りなかったのです。
男は魔術師をばけものと呼びました。
男は魔術師を殺そうとしました。
魔術師はドラゴンの遺伝子によって別な生き物に進化していました。
魔術師は、魔王になりました。
魔王は男の命を抜き取りました。魔王は男の心を読み取りました。
人間であったときは知り得ませんでした。そんなこと、できるはずもありませんでした。
しかし、彼はそのやり方を「知って」しまいました。
彼は知りたくありませんでした。人々の魔術師への嫌悪など。
彼は知りたくありませんでした。人々の魔術師への憎しみなど。
彼は狂ってしまいました。
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