第3話 吾輩とお茶をするのである!
「メルクト……さん」
メルクトに背後から声が掛けられる。リディだ。
「なんだ。小娘」
メルクトの機嫌が悪いのに気付いてリディは眉根を寄せる。ああ、またかと。
リールテールが自慢のは虫類トークの最中にどこかに行ってしまったのだろう。とリディは容易に想像する。
「ハルバニアさんがメルクトさんと午後のお茶をするように、と」
「ふん」
メルクトは足下まである黒く長いローブを翻しつかつかと先を歩く。
「小娘、お前は我輩と茶をして楽しいか?」
「いえ、さほど」
「…………」
メルクトは少し目を細めた。
「娘。我輩が悪かったな」
メルクトが足を止めリディの頭をごしっと撫ぜる。
別にメルクトは罵られたり罵倒されるのが好きなわけではない。
リディは知っていた。メルクトは嘘をつかれるのが嫌いだ。些か過剰なほどに。だから絶対にリディは嘘やおべっかを言わないし使わない。
リールテールの約束は…そのうち考えるとしてもリディはこの城の住人達が好きになっていた。
城主メルクトもその例にはもれない。彼の悲しむ顔を見ることも、今はリディの本意ではない。
「ふふん。いつかは小娘の本意からお茶をご一緒してくださいませメルクト様と言わせてやるからな」
「キモイです。メルクトさん」
お茶は三本ある尖塔の内、一番低いものの最上階でとることにしていた。
なにぶんこの城の周りは魔法で巨大化させた巨木で採光がすこぶる悪いのだ。
アルバトールやカエルには湿度も適当で結構なのだが、少しは日の光を浴びなさいと毎日のお茶が義務づけられた。
電磁気系魔法で動く篭がつくとリールテールと幾人(匹?)かの侍従が焼きたてのスコーンを運び入れるところであった。これも食の一環でメルクトが魔法で調理したものだ。
「わぁ、良い匂い…」
「イツモありガトウごザイます。おジョウさマ」
「ご苦労」
メルクトはリールテールを軽くにらんで乱暴に椅子に腰掛ける。
「旦那様。本日のお友達でございます」
メルクトは椅子から飛び上がるように立ち上がると物凄い勢いで窓際に移動し、カーテンを閉めるとガラスに顔を押し当てた。
「ちょっと、まて」
たっぷり5分はそのまま固まり深呼吸、ゆっくりと席に戻る。
そんな様子を半目で見守る侍従一同とリディの存在などメルクトの視界には入らない。
「で、今日の子は」
「ヘンリエットV2ちゃんです。」
リールテールの横には小さな机と小さな水槽。
そしてメルクトは満面の笑み。
逆にリディは少しだけ嫌そうな苦笑い。
「ちちち、でておいで」
メルクトはお茶の時はいつも「こう」なのだ。
必ず改造は虫類を一緒に連れてくる。
メルクトは菓子や茶に手も付けず水槽の中の可愛いペットと戯れてまた部屋に戻っていく。
メルクトの集中力は5分と持たないがは虫類の事となると人が変わる。
事実メルクトの一日は半分以上実験室で費やされているのだから本当に好きなのだろう。
ただしそれ故にリディはいてもいなくても変わらないのだと思う。
これでリディがお茶を楽しみにしろと言う方が無理という物だ。
リディは美味しいお茶を飲みながら、性格の歪んだ魔術師を横目にそっとため息を飲み込んだ。
「メルクトさんは。ぼ、私とお茶をして楽しいですか?」
陽光を背に渡り鳥が飛んでいく。
「ふむ、お前は面白いぞ。」
「いや、そうじゃなくて。」
メルクトの眼差しがリディを捕らえる。
「我輩は………楽しいぞ」
「何ですか?その間」
「ん?いや、楽しい。うむ。楽しい。」
メルクトは、しかめっ面をほぐしてにっこりと笑った。
「楽しいぞ」
「………普通に笑えるんですね」
「人間だからな」
「なんですか…それ」
リディはなんだか少し恥ずかしくなってしまって、下を向いて黙ってしまう。
魔術師様の笑顔はとても可愛らしい少年のような笑顔だったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます