僕とハミガキ粉
ゆきし
僕とハミガキ粉
僕は毎日、朝と夜に歯を磨く。
今朝もいつもと同じように。
『おーい、おーい』
だれかが呼んでいる。
だけど洗面所には誰もいない。
(確かに声が聞こえたのになぁ・・・)
『おーい!ここだ!』
声が聞こえるほうを見たけれど、歯磨き粉が置いてあるだけ。
「もしかして、歯磨き粉がしゃべったの?」
『そうだ!やっと気づいてもらえた!』
そこには新品の歯磨き粉とぺちゃんこの歯磨き粉。
『俺を使ってくれよ。まだ中身が残ってるんだ。』
どうやらぺちゃんこの歯磨き粉が喋っているみたいだ。
「僕の力じゃ出せないよ。」
『やってみないと分からないだろ、ほら、最後まで使ってくれよ。』
ぼくは一生懸命、歯磨き粉を指で押した。
「よいしょ、よいしょ」
『あと少しだ!』
「よいしょ、よいしょ・・・出た!」
『ほらな!やってみないと分からないだろ』
僕はしっかり歯を磨く。
いつものように歯を磨く。
うがいをして部屋に戻ろうとしたその時。
『最後に1つ、お願いがあるんだ。』
姉が歯を磨きにきた。
その様子を、僕は後ろでそっと見守る。
姉がつかんだのは膨らんでいる歯磨き粉。
だがその歯磨き粉は一瞬でぺちゃんこに。
「もうっ!中身はいってない!」
歯磨き粉のお願いとはこのこと。
最後にイタズラがしたかったのだ。
僕はぺちゃんこの歯磨き粉に空気を入れて膨らませた。
姉は見事に引っ掛かってくれた。
再びぺちゃんこになった歯磨き粉。
僕の方を見て、満足そうに『ありがとう』とつぶやいた。
夜、歯を磨く為に洗面所へ。
そこには1本のふっくらしている歯磨き粉。
ぺちゃんこの歯磨き粉はもういない。
僕は毎日、朝と夜に歯を磨く。
いつも毎日、欠かさず歯を磨く。
この前まではふっくらしていた歯磨き粉。
今はもうぺちゃんこだ。
だけど話しかけてこない。
僕は一生懸命、歯磨き粉を指で押した。
「最後まで使うからね」
ぺちゃんこの歯磨き粉は満足そうに僕を見ていた。
僕とハミガキ粉 ゆきし @yukishi8
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