第11話 不動明夏(ふどう めいか)
──カナカナカナ。
私が今いるのは、電灯がついたコンクリートトンネルの中。目の前にあるトンネルの出口の先は夕日が沈み込んで町を茜色に染めています。
でも、さっきの夕刻の世界ではありません。見慣れた民家、商店。トンネルの先にあるものは愛宕駅周辺の風景です。
真一さんが運転しているタクシーの後部座席から光に包まれたと思うといつの間にかこのトンネルの中に佇んでいました。
「ふら! やっと見つけた!」
後ろから声をかけられて振り返ると反対側の出口のそばに息を切らした
「明夏さん……大丈夫!? そんなに息切らしちゃって……」
すぐさま彼の元へ駆けつけます。
「昼頃、愛宕駅に着いた時に……ふらの姿を見たんだ。でもトンネルの中に入ったっきり姿を消してしまって、また何らかの事件に巻き込まれたんじゃないかと……今の今まで探していたんだ」
昼から夕方にかけて町内を走り回って私を探す明夏さんのことを頭に思い浮かべ、大変申し訳ない気持ちになりました。頭を下げて「ごめんなさい、心配かけて……」と謝罪します。
「どうやら無事みたいだな」
「うん」
私はふと明夏さんの手に小さな花束があることに気付きます。菊、キンセンカ、スターチス。お墓に供える花として自宅の花屋で売られていたものです。
「これか、これはお墓に供える物だったけど、もうこんな時間だし今日は諦めるよ」
「ううん、私のせいでこんなに遅くなってしまったんだもん。お墓参りしようよ。それに……今日がお盆の最終日だしね」
* * *
明夏さんが向かう墓地は愛宕駅から少し離れた高台にあって、墓地へと続く坂道を上がっていきます。
「明夏くん、成長して大人びてきたところが出てきたな。顔が
後ろから真一さんがついてきて話かけてきます。でも、今ここで会話をすることはありません。明夏さんに不審がられちゃうから。
真一さんも分かってくれているようで、一方的に話をするだけです。
不意に手を差し出してみせたと思うと中指に巻かれている赤い糸がグイッ、グイッと強く引いているのが分かります。この先にも何かあるみたい。
坂を上がって辿り着いた墓地の周囲には明かりがついた民家が何軒かあるので夕暮れ時ではありますが、怖いとは思いませんでした。
高台にある共同墓地、その下に見える町明かりが仄かに煌めいて見えます。
『不動家之墓』
それは共同墓地の奥の見晴らしのいい場所にありました。
「この墓に眠るのは、僕のご先祖さま、そして父と母。僕に父と母がいない理由を今まで話したことがなかったと思う」
明夏さんが語る父と母が亡くなった経緯に「私はその話を既に知っている」とあえて伝えませんでした。
私に教えたことは明夏さんに内緒にしてほしいと一年以上前に彼の叔父の
約束は──破りません。
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