第10話 空白の時間を紐解くように
その声に私、運転席にいた真一さんも驚いてしまいます。
後部座席の真ん中に座っていた私の右側に大人の男性が座っていたのです。それは瞬きをしている間に突然現れました。
「あ、きらさん……」
真一さんが運転しながら小さく声を発します。
「何、もう私達仲直りなんて出来ないでしょう。物で釣られるような軽い女なんかじゃありません。約束通り離婚届を提出してもう会うことをやめましょう」
次の瞬きで今度は私の左側に円夏さんが現れました。
あきらさん? と円夏さんの間に挟まれている状況です。
「くっ、相変わらずの物言いだな。俺だってそうだよ。
両隣の二人が顔をしかめながら互いを悪く言い合う姿に私はハラハラしてしまいます。
運転席に座る真一さんの浅く息を吐く音が聞こえてきました。
「なるほど、あの時の再現か。確かあの時俺はこう言ったっけな……。『ほらほらお二人さん。そんな風に悪口言い合わないで、息子さんが作ってくれたプレゼントの箱を開けて中を見てみましょうよ』ってね」
両隣の二人が手に持っていた小さな手のひらサイズのケースを開けました。中には銀色のピカピカに磨かれた装飾の無い指輪が入っています。
「これがあの子が作った指輪なのか……?」
「綺麗……」
二人が指輪を見つめたまま黙り込んでしまいました。しばらくしてあきらさんが円夏さんに語りかけます。
「俺、今の今まで全く思い出さなかったんだが、あの子の名前の由来、忠継が持っていた外国の絵本からとったことを思い出した。その本の名前は……『リングメイカーとガスパール』。その本に登場する妖精の名をモチーフにしたんだった。人の心の輪を紡ぐ、優しさに溢れる人になってほしいと」
「……そうだったね。あの子の誕生日が5月で、名前にメイ(May)が入っているのも気に入った。あなたの
「なあ、俺達はきっとこの先も互いに仲違いを起こすと思うんだ。性格が合わないからな。けれども今まで自分のことばかり考えてた」
「それは私も」
「俺達のためじゃない、今度からは──」
その言葉の続きを確かに私は耳にしました。
その瞬間、キラキラと光の粒が舞い散って私を視界を覆っていきます──。
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