第6話 沖宮円夏(おきのみや まどか)



 私達がこれから向かうのは海岸から反対方向の道です。


 観光客が行き交う海岸通りと明夏さんが住んでいる不動邸とRINRIN堂の近くにある「松島海岸駅」、そして北に進んで松島町町内にある「松島駅」。


 まず先に自宅から松島駅まで歩いてそこから線路沿いに進み、さらに北の「愛宕あたご駅」に向かいます。


「心なしか先に進めば進むほど中指に巻かれた赤い糸の引き具合がより強くなっていくのを感じる……。ふらちゃん、私の先を行き、何があるのか確かめてもらうぞ。鬼が出るか蛇が出るか」


「怖いこと言わないでよ、もう……命の危機を感じたらすぐ逃げるからね」


「分かってる」


 会話をしながらゆっくり歩いていたので思ったより時間かかったように思います。到着したのが30分以上経った後でした。


 本当に何も無い無人駅です。高い盛土の上に作られ野晒しにされた駅のホームしか無くて、駅舎どころか屋根も無いのです。


 電車が来たと思えば、降りていく人が両の手で数えられるほとしかいなくて、乗客のほとんどが観光目的の松島駅かさらにその先の仙台駅に向かう人しかいないみたいです。


 鉄道のレーンの下には高架下こうかしたというコンクリートトンネルの通路があって、真一さんの中指から伸びる赤い糸がその場所へ引いているようでした。


「うぐっ、糸が肉に食い込みそうなくらい痛いぞ!」


 肉無いのに……? なんて言おうとしたけど口つぐんで、約束通り赤い糸の先に何があるのか私が確かめに行きます。


 トンネルからは何故か茜色の光が差し込んでいて、何か奇妙なものに出くわしてしまうのではないかとドキドキしてしまいました。


「……わっ」


 コンクリートトンネルをそっと覗くと、その先にあるものは夕焼けが沈みゆく見覚えの無い町でした。


 ──カナカナカナ。


 ひぐらしの鳴き声がトンネルの奥底から木霊こだまして私の耳に届いて鼓膜を震わせます。


 思わずサッと振り返ります。こっち側はやはり太陽が燦々と照りつける午前10時の真昼間の世界です。


「真一さん見てよ……夕方の町が見える……」


「えっ、どういうことだいそれは」


 真一さんも私の後ろからそっとトンネルの様子を覗き込みます。


 私も再びトンネルの先を見つめると、先ほどまでいなかったはずの大人の女性が夕刻の世界へと続くトンネルの出口側に立っていて、思わず背筋がゾクリとしました。


 長い黒髪に凛とした瞳、顔立ちが整った綺麗な女性です。音もなく静かにその場に立っていて気配というものを全く感じられませんでした。


 その女性が小さく飛び跳ねたと思うと、スッと夕刻の世界へと吸い込まれかのように、または風景に溶けていくかのように透明になって消え去りました。


円夏まどかさん……? 円夏さんじゃないですか! 待ってください!」


「あっ、ちょっと!」


 真一さんが突然駆け出して、夕刻の世界へと走り去ってしまいました。


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