第4話 幼心が消える前に
「君、待ってくれないか」
「えっ?」
私だけの力では中指に巻き付く赤い糸の謎は解明できないと思い、RINRIN堂の商業スペースから工房へ行って明夏さんのアドバイスを受けようと考えていました。その最中に真一さんに止められたのです。
「明夏くんに私のことを知られるのは困る」
「どうして? 明夏さんも
「明夏くんはきっと私のことをあまりよく思ってないだろうからな……。そうだ忠継だ。僕はそこにいる彼の叔父に会いたくてここに来たんだった。忠継はここにはいないようだがどこへ行ってしまったんだ?」
「うーん、私も分からないんだ。関東に用事があって新幹線で出かけたって話までは聞いてたけど……」
「そうか……出来れば相談事は忠継に解決してもらいたかった」
「またここに来ればいいよ。いつか分からないけどその内帰ってくると思う」
「君、忘れてしまったのか? 私はお盆中にしか思うように行動が出来ないんだ。しかもお盆は明日が最終日だ」
* * *
──カナカナカナ。
日が暮れてきてそろそろ晩御飯の時間だから帰ると伝えると、明夏さんが家まで送ってくれることになりました。
RINRIN堂から出ると夕日で茜色に染まる空の下で花々が咲き誇る英国式庭園を抜けて、そして松島海岸駅に続く車通りのある県道144号のなだらかな坂道を下っていきます。
大好きな明夏さんと二人きりになれるのは嬉しいことです。けれども今日はそうではありません。
私の背後、右斜め後ろに真一さんがついてきているのです。
「ちょっと、なんでウチまでついてこようとするの!」
小声で真一さんにささやきます。
「ふら?」
「ううん、なんでもない!」
隣を歩く明夏さんが不思議そうな目で私を見てきます。うう……。
「君は今いくつなんだ」
右斜め後ろから語りかけられます。
声を発したくないので、私は後ろに両手を回して真一さんに見えるように十と二を順に指折りしてみせました。
「12歳か、それではこうして話語りできるのは明日までだ」
えっ、そうなの? と、私は真一さんに視線を向けます。
「幼少期の頃にしか見ることのできない
そうなんだ……。
当然出払っている忠継さんにも真一さんのことが見えないから私を介して赤い糸の謎を解くしかなくて、それに明日までがチャンス……。だからこうして私についてこようとするんだね。
「お風呂入ってる時覗かないでね」
と、ポツリと呟いてみると真一さんは「私はそこまで変態じゃない」とフンと鼻を鳴らして不機嫌そうに眉をしかめました。
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