第2話 リングメイカーじゃないの?
午後三時、RINRIN堂店内にあるソファに寝かせられた私は目を開けたままずっと横になっていました。
さっきまでエアコンの冷房が効きすぎてて肌寒いくらいだったからエアコンの風圧が弱めてひんやりしている部屋の中でブランケットをかけて眠るのはなんだか心地が良いです。
熱中症か何かだと思った明夏さんは酷く困った様子を見せましたが、横になれば治るから大丈夫と伝えたことで今の状況になっています。
店は入り口に掛けられている看板がお盆休みでずっと「close(閉店)」になっているのでお客さんが来店することがありませんでした。
ただ一人を除いては……。
「初めて知ったよ。明夏くんにちゃんとした話し相手が出来てたなんて」
ううう、まだいるし……。
明夏さんがカウンターの裏手にある工房に戻ってコンコンコンと指輪の元になる金属を木槌で叩く音が聞こえてきます。
足の先が無い男の人は軽く膝を曲げるような動作をしながらスイスイと滑るように移動して店内に設置されているガラスケースを見回しています。
明夏さんは、どうやら彼のことが見えなかったようです。
「あなたは誰なの? 明夏さんを知っているみたいだけど……」
体にかけていたブランケットから顔半分出して半透明な彼に訊ねます。
「私は
「タクシー?」
「そう。ある凄惨な車両事故に巻き込まれて命を落とし、このような透き通る体になったわけだ。私は幽霊となり今もなお現世に留まっている」
「幽霊、ね……」
私はソファから起き上がるとブランケットにくるまったまま真一さんの周りをぐるりと怪訝な顔をしながら見て回りました。
「なんだね?」
「真一さんってリング……メイカー……じゃないよね?」
「?」
* * *
──リングメイカー。
それは指輪作りの工房に現れるという摩訶不思議な妖精のこと。
彼ら? 彼女ら? どっちなのか判別出来ないけれど、その妖精達は「
西洋の街のおとぎ話に登場する存在ですが、私は……このお店の中で妖精「リングメイカー」を目撃したことがあります。
それは銀の粉をまぶしたような綺麗な羽を生やした手のひらサイズの小さな人でした。
指輪職人の弟子である明夏さんはほんの一、二回しか見たことがないようですが、私は何度も何度も見てしまいます。
『リングメイカーにからかわれてる』
最近になって思うようになったことです。
RINRIN堂の指輪探偵に悩み事を解決してもらうために訪れた相談者と一緒に過ごすうちに、その妖精達は時折、私を摩訶不思議な世界へと
相談者の過去や未来の出来事、誰かが思い描いた空想の物語を妖精達は不思議な力で
それは予期せずある日突然誘われるので、大変困ります。
今回の幽霊との遭遇も妖精「リングメイカー」が引き起こした現象だと思いましたが、あたりを見回しても妖精の姿は見えません。
「真一さんって本当に幽霊なんだ……」
摩訶不思議な妖精もいるんだから幽霊も実在するのかな、なんて、なんだか納得したくないような……そんな気持ちにさせます。
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