20
美味しいケーキと、焼肉と、「首を突っ込むな」と頑なな遠野さんへの不服を腹に収め、僕は帰路に着く。
遠野さんは「念のため」と、ドヤまでの道に付き添ってくれる。
二人で、駅から少し離れた公園を歩いていると、中年くらいの男性が、若い警察官に声をかけられている現場に遭遇した。
「――私は怪しい者ではありませんよ」
怪しくない人は絶対に言わないセリフ。
「じゃあ先程男性に声をかけた目的は? 見たところ知り合いなどではないでしょう」
「未来を占って差し上げようとしたのですよ。お悩みのご様子だったもので」
それはかなり怪しい人だ。占いというものは、求められてはじめて与えることができるもの。悩んでいない人に他人からのアドバイスなど響くわけもなく。
――この人くらいの凄腕にかかればそんなこと関係ないのかもしれないけれど。
「こんなところで何やってるんですか、大原さん」
「おぉ、幸太郎。こんなところで出会うとは何たる偶然」
若い警察官は僕を見、そして僕の少し後ろにいる遠野さんに目線をやり、あわてて敬礼した。
「幸太郎さん、お知り合いですか?」
「ええ、まあ、そんなとこです」
「なるほど」
遠野さんは頷き、それから「私から注意しておきますよ」と言うと、若い警察官は「わかりました。では失礼いたします」と敬礼した。遠野さんも敬礼で返す。
「彼の仕事を無駄に増やすところでしたよ。感謝します。幸太郎、そちらの方は?」
職務質問を受けていたというのに、呑気なものだ。
「こちらは遠野さんです。最近トモダチになりました」
大原さんは何が可笑しいのか、くくくと笑いを堪えながら、遠野さんに「幸太郎がお世話になっています」と保護者じみた挨拶をした。
「私は大原と申します。幸太郎とは数ヶ月前まで一緒に仕事をしていましてね」
「占いのお仕事ですね。――この辺りは客引き行為と見なされると罰金を徴収されることもあるので気を付けてください」
「それはそれは、存じ上げず申し訳ございませんでした。ご指摘ありがとうございます」
陳謝のポーズを取りながら、大原さんは僕と遠野さんの顔をまじまじと見つめた。
「ところでお二人共、何かお困り事があるのではないですか?」
出た。大原さんのコールドリーディングがはじまる。もしかすると大原さんの話術で、遠野さんの固い意志をなんとかできるかもしれない。
「え、あぁ、まぁ……」
「ほう。それはお二人だけでは解決できそうにない……ような、難しい問題ですね?」
「えぇ……あ、いえ、大丈夫です」
何かを察したらしい。僕の期待も虚しく、ぴしゃり。手強い。
遠野さんは少し屈むようにして僕と目線を合わせた。
「幸太郎さん、危険を感じたらすぐに俺に言ってください。君のことは必ず守る」
「は、はい。ありがとうございます」
あまりの真っ直ぐな視線と肩を叩く手の力強さに驚き、思わず素直に答えてしまった。
ドヤのほど近くまで送ってくれると、「では」と遠野さんは来た道を反対方向へと帰って行った。
どこからか、音痴な鼻歌が聞こえてくる。ふと姫路さんの顔が思い浮かんだ。
遠野さんには申し訳ないと思いつつ、やはり何もせずにいるなんてできない。
「大原さん、ちょっとボスのところまで行きません?」
「これまた奇遇。ちょうど私も、用事を思い出したところでね」
大原さんは、週刊誌で芸能人のゴシップ記事を読んでいるときと同じニヤつき顔で頷いた。
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