53_子どもたち あれこれ -3(そして)
「大学卒業と同時に結婚だなんてさ、あの二人新婚旅行の後そのまま仕事するって言ってるんだ。ホントに海外の写真撮って記事書いて生活して行けんのかな」
「高校卒業と同時に結婚したお前らに言われたくないんじゃないか?」
譲の言葉に苦笑いする。待てなかった、お互いに。華月も和愛もお互いを欲した。母は反対したけれど、周囲に助けられて2人は結ばれた。
明後日は風華の結婚式だ。中山有と夫婦になって中山風華となる。兄としては自分のことは棚上げで心配になるのも当然だ。とにかく華月は風華を可愛がった。華音を華に例えるなら曼珠沙華だ。艶やかで潔く危険な赤。手折るなら覚悟が必要だ、真正面から向き合うという。
けれど風華は秋桜だと華月は思う。風にそよいでそれほど目立たず、けれど振り返りたくなる。心が和む。
(風にそよぐ華。風華、名前の通りだな)
有との愛情がいつの間に育っていたのか、誰も知らなかった。文学少女の風華は自分で書くようになり、詩で小さな賞を取った。両親もまさなりお祖父ちゃん、夢お祖母ちゃんも風華は小説家にでもなるんじゃないかとよく話していたものだ。
それが大学2年になる頃、エッセイや旅行記事なんかを書いてそれなりの雑誌に載った。それから時々旅行をすると記事を書いて雑誌社に送るようになっていった。
有の趣味は中学から始めたカメラだ。高校では部活の写真部で自分で現像することを覚え、自分の部屋を改造して本格的に写真家を目指し始めていた。
写真などで生活が成り立つわけがないと言う両親と喧嘩。家出して北海道で撮った子熊の写真を写真雑誌に投稿して評価された。両親を説得して大学も関連する学科を専攻。
雑誌記事の写真を撮るためにライターとの打ち合わせに呼ばれて、相手が風華だったのはほんの偶然。けれど若い二人が目指す方向は同じだと分かり、そこから行動を共にするのは当たり前になっていった。
結婚するのは愛というより夢が同じだからだという二人に、周囲は多少危ぶんだが、まさなりと夢は理解した。大事なことだと。
華音はあれこれ恋愛や人間関係のトラブルを起こした末に、自分に籠ってしまった。それをやっと脱したきっかけは、絵画の世界。超愛の家に自分のアトリエを持ち、そこで違う世界を描いている。いまだに独身。結婚は考えていない。昂はつき合いはしたが別れて大学の後輩と結婚した。
穂高はITの解析に進んだ。家から独立し、コーノソリューションズという会社に入社。いつライバル社になるか分からないから滅多に実家には帰らず、仕事に打ち込んでいる。社長の名前は河野諒という。
双葉はパティシェを目指し、たまにジェイを試食係にしている。もちろんジェイは喜んで実験台になっているが。
椿紗は証券会社に入社。3つ年上のやり手と結婚し子どもを一人授かったが儲け主義の夫と上手く行かず、今親権争いをしている。
陽南子は父親っこで、自宅近くの衣料品店で働いている。
野瀬進。父からITを学び、ホテルマンに。その後映像の世界に飛び込み、これも違うと、塾講師。今やっと建設業界に定着し、その中でインテリア設計士の1級を取る勉強をしている。目指すはインテリアプランナーだ。2度離婚し、現在独身貴族を謳歌中。父の頭痛の種だ。
そして華月、和愛、譲。華月は譲と共に植物医科学を学んだ。和愛は違う大学で自然環境の保全、砂漠化問題に取り組む。
大学1年で長女
BIUとは、非営利団体で多国籍に所在地を置き国連にも認められたオンライン国際教育団体だ。自宅で働きながら専門的な勉強が出来る。
翌年に長男
譲も途中からBIUを経て、今は3人で立ち上げた緑化運動のプロジェクトをBIUで得た知人たちと共に働きながら運営している。これは後に大きな団体に発展していき、メンバーの在住国に支部を置くまでになる。
「華おじさんの病状は?」
譲は47で倒れた華父が心配でならない。
「頑固だからね、戦ってるよ。仕事手を抜く気無いし。状態としては安定してるんだ。とても白血病には見えないよ。今は長命の人だってかなりいるから8割その可能性があるなら上等だってさ。それより見栄っ張りだから髪の心配ばっかりしてるよ」
父を失うのではないか、それが眠れないほど不安で堪らなかった。だから次男に華生と名付けた。
退院して幾らも経たない内に出社を始めた父を哲平、ジェイ、たくさんの仲間たちと一緒に何度となく制止し、言い争った。
『なに言ってんのさ、死ぬときは死ぬんだよ。事故で死ぬヤツだっている。俺は俺の人生を生きてる。それでいいって。俺さ、
そう言って、華は鮮やかに笑った。そんな華が『美しい』と華音はひたすら父の姿を描いている。
千日紅の華言葉は「不死」、「不滅」、そして「色褪せぬ愛」。
「不死とか不滅とか。どんだけ生きる気だっつーの」
華月もそう言って笑えるほどになった。『時』は味方になってくれさえすれば万能だ。
だから緑が絶えないように頑張る。そうすれば父も生き続ける。そうやって守っていきたい、いろんなものを。
華は周囲の悲痛な思いを跳ね返すように、何度かの入院をしては太々しく会社に戻った。
大滝副社長の引退と共に哲平は副社長となったが、華は「健康上の理由」という屁理屈を元に部長に留まった。はっきり言って部長は激務だ。現場から離れたくなかった。会議はたいがい蹴り飛ばす。『会議の時間になると眩暈がするんだよな』と哲平は苦笑した。
「お前、いい口実を見つけたな。俺なんか危ない所で会議に殺されるところだった」
蓮はジェイが怒るほどに笑顔で華にそう言った。
「付き合ってらんないからね、あんなお喋り。俺は哲平さんと違って口で生きてるわけじゃないから」
隣に座っている哲平が肘で華を小突く。
「お前の減らず口はどうなんだよ。この前も役員会でお前の捨て台詞をもみ消すのに大変だったんだぞ。たまに会議に出るとお前の存在が厄介だ」
「だから引っ張り出すなっつーの。マジ、入院してる方がマシ」
風華の結婚式は本人たちの希望もあり、慎ましいものとなった。中山が一番泣いた。よくぞここまで育ってくれたと。
「お前がいて俺は幸せだ。風華、有を頼むよ」
タキシード姿の有の肩に手を載せて、中山は写真を撮ってもらった。生涯の宝物として。
愛されて育った子どもたち。時に大きな壁が立ちはだかっても、周囲の存在そのものが支えになった。
華と真理恵。哲平と千枝。超愛と夢。ぶちょーさんとジェイくん。まさなりお祖父ちゃんとゆめお祖母ちゃん。そしてたくさんの大人たちの物語。
華父と哲平は誇らしげに語った、ぶちょーさんとジェイくんの愛の物語を。二人とも口を揃えて言う。
『人が人を愛すればいいんだ。生き物が生き物を愛するんだよ。そしたら本当の平和が生まれるんだと思う。俺たちはそこまで行けそうにないけどな』
これからどんな愛を生んでいくのだろうか。永遠に子どもは『可能性』を生み続ける命の塊なのだろう。
――「華月と華音の初恋物語」完 ――
(番外編『三途川一家の優しい面々』へ続く)
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