13_子どもたちを取り巻く大人たち
今日もお母さんが朝から寝ているから華月も華音も心配で堪らない。
和愛が学校に慣れてきたから哲平は宗田家まで送ってくるのをやめた。通勤も電車にして一人で出勤している。別に何を言われているわけでもないが、オフィスで妙な空気になっては困るからだ。あまりにも哲平は華と仲が良すぎる。経緯を分かっていない新人もこれから増えていく。
和愛は行く途中で宗田家に寄る。そして3人で登校だ。これは変わることが無い。
「真理おばちゃんは?」
「今日も起きれないんだ」
「風華ちゃん、泣いてたね」
「それは大丈夫だと思う。お母さんの部屋にいるから」
日中は茅平の家から時恵お祖母ちゃんが来る。たまに夢お祖母ちゃんも来たのだがかえって困ることになると
ジェイくんが来ることがすごく増えた。ジェイくんはお母さんを思い出すそうだ。赤ちゃんが死んじゃってずっと病気をしていたというジェイくんのお母さん。だから土曜日はほとんど来てくれる。
他はいろんな人が来た。ぶちょーさんまで来てくれた。ぶちょーさんが来ると夕ご飯が凄い! 華音も和愛もぶちょーさんが来ると台所から離れない。いつも腕まくりをして楽しそうに料理を作ってくれるし、たくさんのいいお話を聞かせてくれる。
『野瀬たん』とか『さわじゅん』とか『はま』たちも来るのが増えた。
『野瀬たん』は、お土産がすごい! こっそり教えてくれた。
「お土産は気にするな。お前たちのお父さんに気を遣ってるだけだから。会社でもおっかないからな。何言われるか分かんないんだ。でもな、野瀬たんはお父さんが好きだよ。あのはっきりしてる態度はクセになるんだ」
お父さんは野瀬たんが来ると必ず玄関に行って同じことを言う。
「なんで来たの? 喋んないでね。華月! 華音! 耳塞げ!」
にやにやしながら野瀬たんは返事をする。
「お前さ、絶対に俺をリスペクトしてるよな。照れるな!」
ああいうのを『厚顔無恥』って言うんだとお父さんは言うが、華月が意味を調べてみると野瀬たんのこととは思えなかった。
お父さんはというと、野瀬たんの喋る時に時々くすっとして、慌ててイヤな顔をするから(華おじさん、忙しそう)と和愛は思う。
『さわじゅん』が来ると面白い。途中で椿紗と穂高を『拾ってくる』んだけれど、来た途端に華月と華音と和愛に出かける支度をさせる。
「今日はどこに連れてくんだよ」
「内緒!」
いつもお父さんとの会話はこれだけ。お父さんは『永遠のアホ』と言うのだが、さすがにそれは子どもたちは口にしなかった。それに『さわじゅん』は大人というよりお友だちだ。
『はま』が来ると子どもたちは緊張する。話す内容を選ばなくちゃならないからだ。
前に「穂高は上野の西郷さんに似てる!」と華音が笑った。すると1時間もしない内にありさお姉さんから電話がかかってきた。
『西郷さんに穂高が似てるって? 偉い人に似ているって言われるのはとっても嬉しいわ。でね、なんでその後に笑ったのか教えて欲しいの、華音ちゃん』
「犯人は100パー、あの『スピーカー』だ!」と華父が言ったのだから間違いない。
『はま』には他に、『ビッグマウス』『歩く拡声器』『だだ洩れ』など、誰よりもたくさん呼び名がある。(華父がそう呼ぶ)
『
回数は少ないが、『なかパパ』は『尾高』さんと仲が良くてだいたい一緒に来る。なぜか、この二人にはお父さんも哲平おじちゃんもまるで落ち着いた大人のようにお話をする。なかパパはウチに来る人の中で一番大人の人に見える。この人はたまに華父と哲平おじちゃん二人に『説教』というものまでしていく。
尾高さんは途中から『
田中のおっちゃんは普段は大人の人なのだが、哲平おじちゃんがいると『調子が狂う』のだと言っていた。時々気の毒に見えるほど哲平おじちゃんに遊ばれている。
哲平おじちゃんは誰とお話していてもあまり変わらなくて、華月にはそれもカッコよく見えている。
華月がリスペクトしているのはお父さんの他には、まさなりお祖父ちゃん、ぶちょーさん、哲平おじちゃん、親父っさんだ。ジェイくんはそういうのとは違う。
(ジェイくんって……分かんない。お姉さんはやっぱり裏ボスだ)
仕事は辞めているのに、ぶちょーさんが『ありゃ未だに裏ボスだな』と言っていたのだから。
そして何と言っても大変な騒ぎになるのは三途川の親父っさんが来た時だ。
お米は俵で持って来るし(子どもたちが俵を見たのは初めてだ)、野菜は段ボールが何箱も積み上がる。ジュースやビールも箱に入ったままだし。
ありさお姉さんや莉々おばちゃんたちがどんどんそれを使って料理を作ってくれる。最近は知らないおばさんたちも来るから、子どもたちにはもう誰が誰なのか分からない。
親父っさんに、華父は抵抗する。
「こんなに要らないって! 野菜なんかご近所に分けてるくらいだよ」
「いいじゃねぇか、ご近所さんとそうやってコミニケーションってやつを持つのはいいこった。大家さんにも届けておいたからな」
(『コミニケーション』という発音に子どもたちはいつも笑う)
華父が他にもいろいろ言ったが、最後には怒られてしまう。
「ごちゃごちゃ口答えするんじゃねぇ! おめぇにやるんじゃねぇ、真理恵ちゃんにやるんだ。すっこんでろ!」
だからといって華父はすっこまないのだけど、イチおじちゃんとカジおじちゃんが『まあまあ』と言うとなんとなく仲直りしている。
(お姉さんが裏ボスなら、親父っさんは何ボスなんだろう?)
と、華月には謎だ。
そしてその親父っさんに勝つのは穂高なのだ。
(ってことは、穂高って一番上ってこと?)
そんな2ヶ月ちょっとが続いて、お母さんはすっかり元気になった。遠足には3人分のお弁当を作ってくれたし、急な雨には傘を持ってきてくれる。時恵お祖母ちゃんは相変わらず来るが、まさなりお祖父ちゃんと夢おばあちゃんも、華父が『コースみたいな差し入れを運んで来ないなら来てもいい』とやっと言って来れるようになった。
3人で登校する時。
「面白かったけど、お母さんがずっと寝てるのはイヤだな」
華音がぽつんと言った。
「うん、母ちゃんは元気な方がいいよ」
「和愛、ごめん! 華音、やめろよ!」
「気にしないで大丈夫だよ。父ちゃんは夜中でも華月くんの家に走って行ったよね。母ちゃんの時もこうだったんだなって思った。和愛ね、ずっと父ちゃんには今のまんまでいてほしい。私には一番カッコいいのは父ちゃんなの」
何も言えなくて、華月は和愛の手を握った。校門の近くにいくまでその手は離れなかった。
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