77.ファミレスの告白
「いらっしゃいませ!!」
優愛率いる前生徒会女子軍がファミレスに入る。
長身でピンクの色のルリ、茶色のボブカットで大人しく見えるのに巨乳の琴音、おさげで地味っぽく見える隠れ美少女の計子、そして艶のある黒髪を靡かせる美少女優愛。入店と同時に店内にいた男達の視線が一斉に彼女らに向けられる。
「こちらへどうぞ」
ファミレスの店員の案内でテーブル席へと移動する。
「良かったですね、空いていて」
「そうね」
実はこのファミレスの前に、琴音が探して来た学校近くにあるお洒落なカフェを訪れていた。だがあいにくの満席。仕方なしに当初の予定通りファミレスにやって来ていた。
「どう計算してもコスパの良さではファミレスが一番でしょう」
「そうだね」
計子の言葉に琴音が頷いて答える。ルリがメニューを見ながら言う。
「どうする~? ドリンクバーいっちゃう~??」
「そうね、ゆっくり話したいからそれがいいわ」
優愛もメニューを見て答える。琴音が嬉しそうに言う。
「あとは、この『コロコロポテト』頼んじゃうね! これ美味しいんだから!!」
食べるものに興味深々の琴音。メニュー表を興奮気味に見つめる。そんな琴音とは対照的にテーブルの水をひとくち口に含んだ計子が優愛に尋ねる。
「それで、お話って何でしょうか?」
その言葉に皆が優愛の顔を見つめる。
「うん……、あのね……」
強気で負けず嫌いの生徒会長。男子生徒から畏怖され独特の生徒会を作り上げた神崎優愛。その彼女が顔を真っ赤にし、下を向きながら小声で言う。
「ゆ、優斗のことなんだけどさ……」
辛うじて絞り出す声。周りの人の声、雑音に揉み消されてしまうようなか細い声色。琴音が優愛を覗き込むように尋ねる。
「なに? 優愛ちゃん」
そう尋ねる琴音の顔、そして計子の表情は険しい。対照的にルリだけが笑顔になって言う。
「なになに?? なんなの~??」
優愛がゆっくりグラスに入った水を飲む。そして言う。
「わ、私さ、あのぉ、ゆ、優斗と、その……、ちょっと、つ、付き合うことになって……」
「……」
ここに居る全員が分っていた事実。ようやく本人の口からその言葉を聞くことができた。ルリが手を合わせて喜びを表す。
「わ~お!! 凄いじゃん、凄いじゃん、優愛~!!」
優斗のモテっぷりは宮西なら誰もが知るところ。さらに『恋人作らない宣言』をした優斗を落としたとなればある意味快挙でもある。計子が無表情で尋ねる。
「優斗さんは特定の人を作らないんじゃなかったんですか?」
「う、うん。そうだったみたいだけど……」
優愛が困った顔で答える。自分もそう聞いていた。だからこのような結果になるとは正直想定外だった部分もある。優愛自身としては優斗への想いをそのままぶつけただけ。それ以降は自然と今の形になった。
優愛の目に下を俯きながら肩を震わす琴音の姿が映る。
「琴音……?」
計子が琴音の肩に手を乗せ、声を掛ける。
「琴音さん? どうしました……?」
(泣いている……??)
皆が琴音から微かに聞こえるすすり泣きに動きが止まる。目を赤くした琴音が顔を上げ小さく言う。
「私ね、優斗さんのことが好きだったの……」
琴音の告白。
そんなことは皆知っていた。分かりやすい琴音。彼女が最初から優斗に気があったことなどルリですら気付いている。優愛が言う。
「琴音……、その……」
「分かってたの。優愛ちゃんと優斗さんが仲が良いってのは……」
琴音の目から涙が流れる。
「空港で見ちゃってから、ずっと苦しくて……、気がおかしくなりそうになりながら過ごして来て……」
そこまで聞いた優愛が逆に尋ねる。
「え? 空港で見た??」
(琴音っ!!!)
皆が一斉に心の中で琴音の名を叫ぶ。
空港での優愛と優斗の抱擁。あれは絶対見なかったということにしておいたはず。あの自分勝手な鈴香でさえ何とか約束させた秘密事項を、琴音は動揺のあまりつい口にしてしまった。優愛が琴音に尋ねる。
「ねえ、琴音。空港で見たって、何を見たの?」
逆に尋ねられる立場になった琴音が涙を拭いて答える。
「優愛ちゃん達……」
あ~あ、と言った表情で皆が琴音を見つめる。優愛が言う。
「ええ!? それって、まさか私と優斗君のこと……!!??」
琴音が無言でうなずく。
「か、隠れて見てたの?? と言うか琴音、空港来てたの??」
さすがに耐えきれなくなった計子が琴音の代わりに言う。
「神崎さん、琴音さんだけはないわ。みんな見てたんだから」
(え!?)
みんな、それはまさかここに居る全員なのか。優愛が尋ねる。
「じゃ、じゃあ、琴音も計子も、ルリもあれを見てたって訳……??」
『あれ』が何を差すのかは皆分かる。ルリが明るく言う。
「見ちゃったよ~! こっちが恥ずかしくなるぐらい~!!」
「う、うそ、そんな……」
「十文字鈴香さんも一緒でした」
抑揚なくそう話す計子。優愛の顔が真っ赤に染まる。
「し、信じられない……、そんな覗き見のようなこと……」
その言葉にカチンと来たのか、計子が言い返す。
「空港なんて場所で、あんなことする方がおかしいです。私達は隠れて見たのではありません。目に入ってしまったのです」
見つけたのは偶然だが、途中から隠れていた計子。だがそんなことはもうどうでもいい。計子がテーブルにあった炭酸を一気飲みしてから言う。
「私も言います。山下計子も優斗さんが好きでした!!」
突然の告白。
驚くルリとは対照的に、琴音は『やっぱりね』という表情。優愛は『ついに言ったか』という顔をする。琴音が苦笑いして計子に言う。
「うん。ずっとそうだと思ってた。計子ちゃんもそうだよね」
「私も思ってましたよ。琴音さんもそうだって」
「ぷっ、ぷぷぷっ……」
そう言って笑いだすふたり。優愛が言う。
「わ、私は違うんだからね。あいつが勝手に……」
「うそ」
「それは嘘ですね」
「うっ……」
秒でバレる嘘をついた優愛にふたりがツッコみを入れる。優愛が大きく息を吐いて皆に言う。
「結局みんな優斗君のことが好きなんだね」
「そりゃ、あれだけの男の子だもん。気にならない方がおかしいよ」
涙も止まった琴音が少し笑顔になって言う。計子も続けて言う。
「私は最初から言ってましたよ。優斗さんほどの魅力的な男性はいないって」
今となってはその言葉に素直に頷かざるを得ない優愛。そんな優愛がルリに尋ねる。
「そう言えばルリは違うんだよね?」
「私~?? うん、違うかな~」
掴みどころのないルリ。続けて言う。
「優斗は確かに魅力的だと思うけどぉ、ちょっとタイプじゃないか~」
意外な顔をした琴音が尋ねる。
「どんな人がタイプなの?」
「えー、そうだなあ、年下」
「年下?」
聞き返す計子にルリが笑って答える。
「そうだよ~、まあ誰でもいいんだけどね~」
「何よ、それ」
呆れた顔をする優愛にルリがぼそっと言う。
「私には自由がないから~」
「ん? 何か言った、ルリ」
ルリが首を振って答える。
「何でもないよ~、気にしないで~」
笑ってそう答えるルリを見て、再び話題が優斗の話となる。琴音が真剣な顔をして優愛に言う。
「優愛ちゃん」
「な、なに?」
真剣な表情に思わず構える優愛。琴音が言う。
「今は優愛ちゃんの勝ちでいい。でも、そのうちきっと私が貰うから」
大人しい琴音にしては珍しく強気の発言。圧倒的不利な現状にもかかわらず自分に言い聞かせるような強い言葉。計子も頷いて言う。
「私の計算でも我儘な神崎さんでは、もって半年。その後、優斗さんは自由になる予定です」
言いたいことを言われた優愛がむっとして言う。
「な、なによ、それ!? 勝手に決めないでよ!! 私達は、私達は……」
「優愛ちゃん達が、なに……?」
止まった言葉を聞き出そうとする琴音。優愛の頭の中に浮かぶ優斗との甘い同棲生活。だがそんなことは恥ずかしくて口が裂けても言えない。
「わ、私達は、その、仲良くやってるわ……」
なんとも間の抜けた表現となった優愛の言葉。琴音が右手をグーにして優愛に差し出し言う。
「優愛ちゃん、勝負よ。負けないから。それ以外はお友達ね!」
「うん、分かったわ!」
そう言って優愛も同じく右手をグーにして差し出す。計子も同様にグーにした右手を突き合わせて言う。
「私も負けないわ」
「上等よ」
そう答えた優愛が笑い出す。琴音も計子も同じくクスクス笑う。ルリが笑顔で言う。
「じゃあさあ~、春休みに行く卒業旅行だけどさ~、優斗も誘っちゃう??」
「あっ」
すっかり忘れていた。
優斗がアメリカに行くと聞いていたのであえて彼には話していない。ルリが手配してくれていた卒業旅行を皆が思い出す。琴音が言う。
「いいね、いいね! 優斗さんも一緒に誘お!!」
「で、でも確か温泉旅行だったはずでは……、それよりまだ間に合うのかしら?」
少し恥ずかしそうに言う計子にルリが答える。
「大丈夫だよ~、全然間に合うから!!」
「優愛ちゃんはいいの?」
「うっ……」
すっかり忘れていたのだが、正直一緒に連れて行きたくない。美女揃いの女子軍。優斗がどんな誘惑を受けるのか考えたくない。ルリが尋ねる。
「いいよね~、優愛~??」
「わ、私は……」
そう答えようとした優愛達の耳に、店内に響く甲高い声が聞こえる。
「優斗様ぁ~、どうぞお好きな席へ~!!!」
「え?」
振り返る一同。
そこには真っ赤なツインテールに大きなリボン、宮北の制服を着た鈴香と一緒に店内に入ってくる優斗の姿があった。
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