76.ちょっとエッチな優愛ちゃん
「ん……」
優斗はカーテンから漏れる日差しに気付き目を覚ました。いつもと違う布団に一瞬戸惑うが、すぐに昨夜優愛と一緒に寝たことを思い出す。
「わっ!? 優愛っ」
そして目に入る優愛の満面の笑み。
両手に顔を乗せニコニコとこちらを見ている。
「おはよ、優斗君」
「お、おはよ。起きてたのか?」
いつもとは違い艶のある黒髪をポニーテールにした優愛が答える。
「うん、さっきね。優斗君の寝顔が可愛かったからずっと見てた」
「ええっ、マジかい……」
優斗は両手で顔をパンパン叩く。優愛が言う。
「今日はゆっくり寝たのね」
優斗が時計を見るともう午前七時近い。いつもはもっと早く起床して朝のトレーニングをしている。優斗が答える。
「なんかすごくぐっすり寝ちゃったな……、寝坊なんて久しぶりだよ」
優愛が優斗に近付いて尋ねる。
「え~、どうして優斗君はそんなにぐっすり寝ちゃったのかな~??」
目の前に優愛の笑顔。いつもと違うポニーテールからちらりと見えるうなじがパジャマと相まってこの上なく色っぽい。優斗が焦りながら答える。
「え、な、なんでだろう?? 優愛と一緒だったからかな……??」
「嬉しーっ!!!!」
「うわっ!!」
優愛はそのままベッドで上半身だけ起こしていた優斗にダイブする。そのまま抱き着く優愛。優斗の鼻孔を甘酸っぱい女の香りがくすぐる。
「ゆ、優愛? 何やって……」
「朝の抱擁、それから……」
そう言うと優愛はもぞもぞと優斗の顔の方へと移動し、少し見つめ合ってから口づけをする。
「ん、んん……、おはようのキスだよ……」
(優愛……、可愛い……)
顔を赤くしながらそう口にする優愛がこの上なく可愛い。優愛自身もすべてをさらけ出して全てを預けられる優斗に抱かれてこの上なく幸せである。
――男なんて嫌いじゃなかった
そう素直に思うようになったのはまだつい最近。
忌み嫌っていたのではなく怖かったのだ。また裏切られることが。また捨てられることが。恋人に捨てられ、ある意味親にも見捨てられ、そして病気を前に未来からも見放された。
そんな中、彼、優斗だけは常に傍にいてくれて、こんな自分をしっかり掴んでいてくれた。
(備品、なんて言って冷たくしたのに……)
三百日間もずっと自分の為に。そう思うと無性に目の前の男が恋しくなる。
「優斗くぅん……」
(優愛!!??)
優愛が優斗の顔を両手で挟み、少し強めにキスをする。
(ゆ、優愛?? どうしたんだ!!??)
いつもと違う熱量。優愛から伝わる熱い鼓動。
普通じゃない彼女に優斗がやや困惑する。キスを終えた優愛が優斗の胸に顔を乗せ小さく言う。
「これは優愛のもの。誰にもあげないよ……」
そう言って硬い優斗の胸を指で突きながら微笑む。優斗も優愛の頭を撫でながら小さく言う。
「これも俺のもの。誰にも渡さないよ」
優愛が上目遣いで優斗を見つめ笑顔で頷く。
今のふたりはまるでこの一年で近づけなかった距離を取り戻すかのようにお互いを求めた。
「ねえ、私達のことさ、そろそろみんなに話した方がいいと思うんだけど、どうかな?」
優斗と朝食を食べながら優愛が言う。パンを手にコーヒーを飲みながら優斗が答える。
「ああ、そう言えばまだ話していなかったんだっけ」
「言ってないわよ」
優愛がちょっとだけ呆れた顔をする。優斗が答える。
「いいんじゃない、話しても。別に隠す事じゃないし」
男と女の恋愛観と言うのは違うのだろうか。優愛にしてみれば距離の近い琴音や計子に話すのはそれなりの覚悟を持って言わなければならないこと。優斗が言う。
「じゃあ、明日朝会ったら言っておくよ」
「い、いいわよ! 私が言うから!!」
大切な話をまるで朝の挨拶のようにされても困る。計子は勿論だが、琴音も間違いなく優斗のことが好き。ある意味牽制を込めてきちんと自分から話さなければならない。優愛が言う。
「明日、学校が終わってからファミレスでも行って話すわ」
「ん? そうか。じゃあ俺も……」
「優斗君は来ないで!」
「え、そうなの?」
なぜ自分が行ったらダメのかよく分からない優斗。ふたりできちんと話した方がいいと思っていただけに優愛が断る理由が理解できない。
「あ、当たり前でしょ! 女の子には女の子のやり方ってもんがあるんだから!!」
女の子というより『優愛の場合』と言った方がいいかもしれない。優愛が思わず少し強めに言ってしまったことに気付きすぐに謝る。
「あ、あの、ごめんね。優斗君は悪くないから……」
「うん、分かってるよ。優愛に任せるから」
そう言いながらパンをかじる優斗。優愛が不安そうに言う。
「本当に怒ってない?」
「怒ってないよ」
「本当に?」
「本当」
「本当の本当に?」
そう尋ねる優愛に優斗が少し笑みを浮かべて答える。
「怒ってない。とりあえず、この絶景が見られるうちは怒りたくても怒れない」
「ん? 絶景……??」
一瞬何のことだか分からない優愛。しかしすぐに優斗の視線が自分の胸元にあることに気付いて言う。
「え、え、えっ!? ちょっとなに!!??」
全く気が付かなかったのだが、着ていたパジャマの胸のボタンがひとつ知らぬ間に外れており、優愛の見事な胸の谷間が大胆に露出していた。
「きゃっ!!」
すぐにそれを手で隠し優愛が言う。
「優斗君のえっち……」
そう言いながら顔を赤らめる優愛。
「え、だってそんなのが目の前にあったら見ない方がおかしいだろ?」
「でも……」
「魅力あるから見るんだよ」
「他の女の子のでも見るの?」
「え? あー、見ちゃうかも……」
「だーめー!!!!!」
そう言いながら優愛が立ち上がり横から優斗に抱き着く。そして言う。
「優愛のだけ見て。他の子の見たら浮気だよ」
「え、あ、うん、分かった。頑張る……」
中々難しい注文。優愛の気持ちも分かるが男ならば絶対とは言い難い。優愛が少し下を向き顔を真っ赤にして言う。
「じゃあ、ほら。ちょっとだけだよ……」
そう言って抱き着きながら開いていたパジャマを見せる。
「うっ……」
目の前に真っ白な肌の優愛の谷間が現れる。粉雪のようなきめ細やかな肌。軟かそうで弾力ありそうな大きな膨らみ。優斗の顔も自然と赤くなる。
「優斗君……??」
じっと谷間をガン見する優斗に優愛が声を掛ける。
「優愛、マジで飯どころじゃなくなってきたんだが……」
優愛が少し小悪魔的な笑みを浮かべて答える。
「私の虜にする為だよ~」
そう言ってパジャマのボタンを留める優愛。優斗が苦笑いして答える。
「もう虜だよ」
「ほんとに~??」
「ほんと」
ふたりはそのまま今朝何度目か分からない口づけを交わした。
三月に入り大学受験も大詰めを迎える時期となる。
クラスではすでに合格を決めた生徒もおり、いよいよ高校生活も終わりだと言う空気が流れ始めていた。間もなく卒業式。いよいよ高校ともお別れだ。
「ねえ、あのさ……」
昼食時、琴音や計子、ルリと一緒にお弁当を食べていた優愛が話し掛ける。
「なに? 優愛ちゃん」
箸を持ちながら琴音が答える。
「ああ、あのね、みんなってもう受験終わったでしょ?」
「終わりましたよ」
「終わったよ~」
優愛を含めてみな受験はすでに終えている。あとは結果発表を待つのみ。重くのしかかっていた大学受験と言う呪縛から解放され、ようやく以前の生活が戻って来ている。優愛が言う。
「ちょっとさ、今日の放課後ファミレスにでも行かない?」
「ファミレス?」
琴音が聞き返す。
「うん、少し話したいことがあってさ……」
ようやくか、と皆は内心思った。
優斗がアメリカへ旅立つ日。空港で抱擁し合った優愛と優斗。あれから結局優斗の渡米はなくなったのだが、ふたりの進展については何も報告がない。もやもやする中で受験を終え、ある意味その報告を待っていたのだがようやく話す気になったのだろうか。計子が尋ねる。
「話したいことですか?」
「ええ、大したことじゃないんだけど……」
そう話しながら優愛の頬が赤く染まる。ルリが言う。
「いいよ、いいよ~! 久しぶりにみんなでお茶しちゃお~!!」
こういう時に彼女の明るさはとても有り難い。放課後、優愛を含めた前生徒会女子軍はファミレスへと向かった。
(別に俺がいてもいいと思うんだけどなあ~)
同じく放課後、優愛達が女子だけで帰って行った後に校舎を出た優斗がひとり思う。一年間仲良くして来た仲間だからちゃんと自分の口からも話がしたい。それとも何か自分に聞かれちゃまずい話でもあるのだろうか。
そんなことを考えながら下校していた優斗に後ろから声がかかる。
「優斗様ぁ~!!」
久しぶりに聞く甲高い声。振り向いた優斗の目に真っ赤なツインテールが目に入る。
「鈴香」
「優斗様ぁ、お久しぶりでございます~」
赤いツインテールに大きなリボン。まだ寒いと言うのに綺麗な素足を出した鈴香が現れる。宮西の生徒が下校する中、宮北の制服を着た鈴香はよく目立つ。優斗が尋ねる。
「どうしたんだ?」
「鈴香は優斗様にお会いしたくて参りました~」
「俺に?」
そう答えながら優斗が思う。
(そうだ、鈴香にもちゃんと話さなきゃならないな)
優斗が言う。
「ちょうど良かった。鈴香に少し話があったんだ」
「え!? わ、私にですか!!??」
「ああ」
初めて優斗からアクションを受けた鈴香。想定外の事態に心躍る。
「じゃ、じゃあ、どこかお店にでも行ってお話をしましょう~!!」
「え? いや、別にここでもいいんじゃ……、うわっ!?」
鈴香はそう笑顔で言うと、戸惑う優斗の腕を掴み強引に歩き始めた。
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