74.生徒会記念撮影

「ねえ、ルリ。放課後って時間ある?」


 学校の教室。お昼を食べながら優愛がルリに尋ねる。ルリがピンクのポニーテールを振りながら答える。


「え~、あるようなないような~」


 ふらふらと体を揺らして答えるルリ。一緒に食べていた琴音と計子にも尋ねる。



「ふたりは? 時間ある?」


「放課後ですか? 私は少しぐらいなら構いませんが……」


「あるよー! なになに、何するの??」


 慎重な計子。好奇心丸出しの琴音。優愛が答える。



「あ、うん。新生徒会の子がね、仕事で相談があるってのと、色々お話がしたいそうなのよ」


 優愛が昨晩、新執行部副会長の宮内から届いたメールを思い出して言う。同棲している優斗は了承済み。時間があるなら琴音達にも来て貰いたい。



「いいよいいよ! 久しぶりに生徒会室に行きたいよね~!!」


 琴音が嬉しそうに言う。ルリも計子も頷いて応える。


「じゃあ、放課後に生徒会室集合ね」


「はーい」


 元生徒会メンバーが手を上げて答える。優愛は頷いてそれに応えつつ、少し離れた場所で他の男子と一緒にお昼を食べている優斗をじっとと見つめた。






「神崎先輩ーーーーっ!!!」


 放課後、久しぶりにやって来た生徒会室に入った瞬間、甲高い声が響く。金色のポニーテールをした副会長の宮内が満面の笑みで優愛を迎える。


「お疲れ様です、先輩!!」


 まるで数年ぶりに対面した愛犬の様に優愛に密着して挨拶をする。やや困惑した優愛が少し後ずさりしながら言う。



「分かったから、座って」


「はい!」


 優愛の言葉ですぐに椅子に座る宮内。

 テーブルには新たに書記と会計らしき女の子ふたりが座っている。会長の爽やかイケメンの井上は既に立ち上がって皆のお茶を準備している。哀れなその背中を見て優斗がすぐに手伝いに行く。



「すみません、上杉先輩……」


 気のせいか少し痩せたような気がする。


「気にすんなって。俺も昨年のこの時期は結構滅入っていたからな」


 前生徒会の会計処理が杜撰で『三月の地獄』を味わった会計報告。救世主である計子が参加してくれたから良かったものの、あの時の苦労は今でも忘れない。お茶を手伝いながら優斗が尋ねる。



「上手くやれてるの? 副会長さんとは」


 井上が首を振って答える。


「それが全然ダメで……、まるで彼女が生徒会のリーダーみたいになってしまってるんです。はあ……」


 優愛の場合はそもそも生徒会長だったから良かったが、彼女と同じタイプの宮内が黙って人の言うことを聞くとは思えない。優斗が哀れんだ顔で言う。


「苦労しそうだな……」


「もうしてます……」


 やつれた顔でお茶をトレーに乗せた井上が、集まった新旧生徒会メンバーにお茶を出す。女子軍は今取り組んでいる会計の話で盛り上がっていた。



「本当に先輩達の処理が適切で大変助かっています!!」


 会計らしき女の子が頭を下げて言う。優愛が笑いながら答える。


「そうでしょ、そうでしょ? 優秀なうちのメンバーにかかればあの程度の会計などあっと言う間。その都度その都度気きちんと計上していくのがポイントね!」


 計子に全振りし、全く会計などやっていなかった優愛が偉そうに語る。



(去年のこの時期は『終わらなーい!!』っと言って泣きそうな顔してたじゃねえか)


 優斗がそんな優愛を見ながら内心ツッコむ。計子も勿論呆れ顔である。それを聞いていた琴音が宮内に言う。



「宮内さん、凄いね。なんか優愛ちゃんみたい」


 何も考えずに言ったその言葉。優愛を神のように崇める宮内にとってはこの上ない褒め言葉である。興奮気味に答える。



「そ、そうですか!? 嬉しいです!!!!」


 顔を紅潮させ喜びを体で表す宮内。興奮のまま皆に言う。



「あ、あの、実は来月にある『三年生を送る会』なんですが、その祝辞は私がやろうかと思っています!!」



「え?」


 在校生代表として皆の前で話すスピーチ。

 それは生徒会執行部、特に初めて行われる全校生徒の前でのイベント。その重要なスピーチは生徒会長の役目と決まっており、昨年も勿論優愛がそれを務めた。宮内が言う。



「素晴らしい神崎先輩達を送る会なので、私が絶対やらなきゃいけないと思うんです!!」


 尊敬する優愛が来たことでいつもより更にヒートアップする宮内。在校生代表と言ういわば生徒会長の仕事まで奪う勢いである。これにはさすがの井上も黙ってはいない。



「宮内さん、それは生徒会長の仕事です。そのスピーチが僕が……」


 そこまで言った井上を宮内が睨みつけて言う。


「なに? なに? なに? この私が神崎先輩のお祝いを述べる役目をあなたが奪うって言うこと?」


「い、いや、そう言う意味じゃ……」


 圧倒的な圧で対峙する宮内に井上が既に逃げ腰となる。宮内が優愛に尋ねる。



「神崎先輩も生徒会長だからってなんかに挨拶されるのは嫌ですよね?」


 優愛が頷いて答える。


「そうね。無能な男なんて全く存在価値が……」


 そこまで言った優愛の目にじっと自分を睨みつける優斗の姿が映る。声には出さないが大きく口を開け『ダメ!!』と言っている。優愛が慌てて訂正する。



「あなたやりなさい!」


 そう言って優愛が井上を指差す。


「え?」


 指名された井上が驚いて優愛を見つめる。



「これは代々宮西で受け継がれてきた伝統。最初の生徒会イベント。会長がきっちと挨拶しなさい!」


「は、はい!!」


 井上が敬礼のポーズでそれに答える。はしごを外された形となった宮内が小さな声で言う。



「か、神崎先輩……??」


 優愛が答える。



「これは会長の仕事。あなたは副会長だからしっかり彼を支えなさい」


 そう言いながら確認するように優斗を見つめる。頷く優斗を見て優愛の表情が安堵に変わる。宮内が言う。


「せ、先輩がそう仰るなら……」


 少しだけ不満そうな顔になった宮内だがすぐに笑顔に戻って言う。



「じゃあ、頑張りましょうか!!」


「おー!!!」


 新生徒会が手を上げて声を出す。




「上杉先輩、上杉先輩!!」


 会が続く中、会長の井上が上杉の元にやって来て小声で尋ねる。


「あの、一体どうやったら彼女と上手くやれるんですか?」


 心から困った顔を死体の上に優斗がアドバイスする。



「じゃあ極意を教えよう」


「極意? それは聞きたいです!!」


 井上が優斗に近付いて聞く。



「彼女を、ことだ」



「は?」


 予想もしなかった言葉に井上が呆然とする。


「せ、先輩は、その、愛したんですか、神崎先輩を……??」


「ふふふふっ……」


 優斗が不気味な笑みでそれに応える。


「せ、先輩! ふざけないでくださいよ!!」


「ふざけてなんかないよ、だ」



(えっ……)


 優斗の真剣な顔を見て一瞬固まる井上。




「優斗さーん!! みんなで写真撮ろうって! 来てくださいよ~!!」


 そんな優斗と井上に琴音が声を掛ける。何でも記念に新旧生徒会メンバーで記念撮影をすることになったようだ。優斗が井上に言う。



「さ、主役はお前だ。隣に副会長さんを指名しろ」


「あ、はい!!」


 優斗に言われ井上が皆の中央に向かう。驚く女子軍をよそに井上が副会長の宮内を隣に移動させる。宮内が言う。



「嫌です! 私は神崎先輩と一緒に写るの!!」


 それを聞いた優愛が宮内の隣に移動して言う。



「ほら、私はここに来てあげるから、さ、撮るわよ」


「先輩~、ありがとうございます!!」


 そんな優愛の隣には勿論優斗。皆に見えないようにこっそり手を繋ぐ。



「じゃあ、撮るわよ~」


 スマホの設置をしていたルリが体をくねらせながら皆に言う。そしてボタンを押すと駆け足で皆の元へ戻る。



 カシャ


 スマホから小さな音が聞こえる。ルリが小走りでスマホを確認に行く。



「どうだろ~、ちゃんと撮れたかな~??」


 確認した生徒会の写真。皆いい笑顔で写ってる。ただじっとスマホを見ていたルリが少し考える。



(う~ん、とってもいい写真なんだけどぉ~、撮り直した方がいいのかな~??)


 皆の笑顔の写真。

 素晴らしい写真なのだが優愛と優斗がふたりだけ見つめ合っている姿を見て、ルリはどうしようかとしばらく考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る