35.生徒会ミーティング

「優愛の水着が可愛いかな」


(えっ? ええっ!!!!!!!!!!)


 こんな公衆の面前でそんな恥ずかしいことを言われると思ってもいなかった優愛。突然の優斗の言葉に頭が真っ白になりながら言い返す。



「ば、馬鹿なこと言わないでよ!! 冗談でしょ!?」


 顔も真っ赤になりはっきりと動揺が見られる優愛。優斗が肉を焼きながら答える。



「いや、冗談じゃないけど……」


 ルリがすっと優愛の隣にやって来て耳元でささやく。



「あれれ~、優愛はさあ~、男が嫌いじゃなかったの~?? あんなこと言われて嬉しいんだ~??」


「ば、馬鹿言わないでよ!! いやらしい!! 信じられないわ!!」


 そう言いながらもまんざらじゃない表情の優愛。一方の琴音は計子の腕を掴んで小声で言う。



「ね、ねえ、計子ちゃん! 優斗さんはスク水が好きじゃなかったの??」


 苦笑いしながら肉を焼く優斗を見て計子が答える。


「そ、そのはずよ。優斗さんはスク水フェチ。どこで私の計算が狂ったのかしら……」


 優斗の好みをサーチしてやって来た『スク水勢』ふたりは、真っ白なビキニを着た優愛が選ばれたことに少なからずショックを受けていた。



「あ、あのさ……、優愛の水着が可愛いってのは本当だけど、もちろんみんなの水着だってすっごく可愛いから。本当に、いや、目のやり場に困ると言うか」


 はにかみながらそう言う優斗。ルリがにこにこしながらやって来る。



「ありがとね~、優斗ぉ~、可愛いこと言ってくれて~」


「そ、そう言えば、どうして優斗さんだけ水着じゃないんですか?」


 それまで琴音と一緒に一歩離れた場所にいた計子が優斗の前までやって来て言う。一緒にやって来た琴音もちょっとむっとした顔をして言う。



「そうですよ。私達だけ水着でどうして優斗さんはそんな普通の格好してるんですか? 不公平です!!」


「脱がしちゃいましょうか?」


「いいね〜、計子ちゃん。やっちゃいましょう!!」


 計子と琴音はそう小悪魔のような顔になって頷くと、肉を焼いていた優斗の両側へ来て腕を掴む。



「ちょ、ちょっと、ふたりともやめてって!!」


 慌てて抵抗する優斗。そこへ更にルリと言う援軍が加わる。



「観念しようか~、優斗ぉ~、脱いじゃおうよ~!!」


「や、やめてって!!」


 両側を押さえられた優斗の服を、ルリが無理やり脱がし始める。



「ちょ、ちょっと! なにやってるの、あなた達!!」


 余りに幼稚な行為に見かねた優愛が腕を組んでやって来て言う。ルリが優愛に言う。



「あれ~、優斗君に選ばれた優愛ちゃんは~、やっぱり参加できないのかな~?? 相思相愛ってやつ~? きゃはははっ!!」


 そう言いながら抵抗する優斗の服を脱がし続けるルリ。ルリにからかわれた優愛がむっとして言う。



「そ、そんなじゃないわよ!! いいわ、私も手伝ってあげるっ!!」


 そう言って優愛は計子と琴音に押さえられている優斗の、を脱がしにかかる。



「ちょ、ちょっと、優愛!? やめてくれよ!!!」


「うるさいわね!! 観念なさい!!!」



「ゆ、優愛ちゃん、凄っ……」


 上半身だけのつもりだった計子や琴音がパンツを脱がしかかる優愛を見て唖然とする。



「や、やめてくれよ~、マジでぇ~!!!」


 なぜか突然被害者になった優斗の悲鳴が静かな山間に響いた。






「さて、じゃあ、これから二学期の生徒会活動についてミーティングを行うわ」


 散々バーベキューを楽しみ、川で遊び、そして優斗をからかった生徒会女子の面々は、夕方戻ってきた別荘のリビングで今回の重要目的である二学期の生徒会活動についての話し合いを始めた。優愛がひとり不貞腐れる優斗に気付き言う。



「なに、あなた? 何か不満でもあるわけ?」


「いや、別に。さ、始めようぜ。話し合い」


「ふん! 素直にそうなさい」


 結局優愛にパンツを脱がされそうになった優斗が不満そうに腕を組む。優愛が皆に言う。



「まずは休み明けすぐに中学生の学校見学があるわ。特段大きな準備は必要ないけど、中学生達の案内や説明は生徒会が主体になって行うから覚えておいて」


 皆が優愛の言葉に頷く。書記である琴音だけが持参した生徒会用のノートに素早く話の内容を記して行く。



「それから宮北との対戦は10月の体育祭、そして12月頭にある文化祭ね」


 優斗が手を上げて尋ねる。



「体育祭は分かるけど、文化祭でどうやって勝負するんだ?」


 確かに文化祭は何かを競い合うイベントではない。琴音が言う。



「うちの文化祭は姉妹校の宮北と共同開催するんです。二か所一緒に」


「へえ、そうなんだ」


 宮北会場、宮西会場と分かれて行われる一大イベント。両校の交流を促そうと言う昔からの伝統によるものだ。計子が言う。



「その文化祭の最終日に、両生徒会が主体となって何か出し物をするの」


「出し物?」


「ええ、生徒や生徒会はもちろん理事なんかも来て大盛り上がりするイベントなんです。去年宮西は確か、演劇をやってような……」


「負けたけどね」


 優愛が苦笑いして付け加える。



「なるほど。それでその出来栄えを競うって訳だな?」


「その通り」


 ようやくこの学校の流れが分かって来た優斗。何かイベントを行っては生徒会が競い合う。文化祭だろうが盛り上がれば対決となる。優愛が机に手を置いて言う。



「そこでみんなに聞くわ! 今年の文化祭の出し物、何がいい?」


「う~ん……」


 一斉に皆が難しい顔をして唸り出す。ステージで行う催し物ならら何でもいいが、宮北に勝つという条件となるとなかなか難しい。優愛が尋ねる。



「みんな何か得意なものはない? 琴音は?」


「……お料理かな」



「計子は?」


「計算」



「ルリは?」


「笑顔だよ~」


 そう言ってルリがにっこり笑う。

 予想はしていたがほとんどステージで使える物はなさそうだ。優斗が手を上げて言う。



「バンドなんてどうだ?」


「バンド??」


 優斗が頷いて言う。


「ああ、俺前の学校で軽音楽部にもちょっと入っていたんでギターとかできるぞ」


「バンドか……、じゃあ、私ボーカルやるわ」


 優愛が少し嬉しそうな顔で言う。琴音が驚いて尋ねる。



「ゆ、優愛ちゃん、歌なんて歌えるの!?」


「歌? ええ、大丈夫よ。カラオケは得意だから!」


「カラオケって……」


 皆が苦笑いする。優斗が優愛に言う。



「いいじゃん、カラオケで十分! バンドはそのノリが大事だぞ!!」


「そ、そう? じゃあ、私、歌っちゃおうかな?」


 優斗が真剣な顔で言う。



「とは言えギターとボーカルだけじゃバンドはできないから、後はそうだな、最低ドラムとベースは欲しいなあ……、誰かできる?」


 皆が胸の前で手でバツを作る。優愛が言う。



「じゃあ、宮西の軽音楽部からメンバーを借りましょう。私が声を掛けて来るわ」


「だ、大丈夫なの? 優愛ちゃん……」


 急な計画に琴音が心配そうな顔で言う。


「大丈夫。やれば何とかなるわ。12月だから練習もしなきゃね」


「そうだな。バンドをやる以上何度かきちんと練習も必要だし。マジでやらなきゃな」


 優斗も頷いて言う。



「いいなあ~、ルリもなんかやりたいなあ~、ねえ、ダンサーとかダメ?」


「ダンサー?」


 意外な言葉に優斗が尋ね返す。



「うん、ダンサ~!! みんなの横で短いスカートとか履いて踊るの~、ほらこんな感じでパンチラとかありで~!!」


 そう言って座っていたルリは、履いていた短いスカートの端を少しつまんであげて見せる。



「ば、馬鹿!! それじゃあなんか方向性が違うだろ!!」


「パ、パンチラは恥ずかしいな……」


 それを聞いていた琴音が両手を顔に手を当てて恥ずかしがる。


「だから要らないってバンドにパンチラなんて!!」



「曲はどうするのよ?」


「曲? ああそうだな。どんなのがいい?」


 優斗の尋ねられた優愛が少し考えてから答える。



「そうねえ、ありきたりのは嫌かな。斬新なのがいい」


「斬新? それなら俺が入ってた軽音楽部のオリジナル曲でもやる?」


「斬新なの?」


「斬新って訳じゃないけど、ノリのいい曲も結構作ってたから」


「そう。じゃあそれでいいわ。準備しておいて」


「分かった。ちょうど夏休みに一度みんなに会いに行く予定だったんでその時頼んでおくよ」


 それを聞いた計子が優斗に尋ねる。



「え、優斗さん、夏休みに里帰りするんですか?」


 優斗が苦笑しながら答える。


「里帰りじゃないかな。前に住んでいた高校の友達に会いに行くだけ」



「女の子なの~??」


 皆が聞きたかった質問にルリが真っ先に手を上げて尋ねる。


「女の子も少しいるけどほとんど男。今も時々連絡取り合ってるんだ」


「ふ~ん、そうなんだ」



「さ、そろそろミーティングも終わりね。夕飯の支度をしましょう!」


「はーい!」


 優愛の声で皆が夕飯の準備に取り掛かる。

 夕飯はカレー。優斗は昼間ひとりで肉を焼いてくれたので、ほとんど何もしなくて待っているだけとなった。



「ご馳走さまでした!!」


 夕食、そしてその片づけを終えた後は自由時間となる。琴音が優斗に尋ねる。



「優斗さんは、もう寝るのですか……?」


「俺? いいや、ちょっと勉強してからかな」


「勉強?」


 驚く一行が尋ね返す。


「ああ、何事も全力でね。もたもたしてると優愛に抜かれちゃうんで」


 定期試験で学年一位の座を優斗の奪われた優愛が不満そうに言う。



「ふん! 次は必ず私が一番を取るわ!!」


「はいはい」




「さあ、女子は部屋に行きましょう~!! 女の子のお話ししましょう~!!」


 ルリがひとり楽しそうに皆に言う。部屋に行く優斗に琴音が恥ずかしそうに言う。



「あ、あの、優斗さん。おやすみなさい……」


「あ、ああ、おやすみ。琴音」


 それを聞いた琴音の顔がぽっと赤くなる。



「琴音ー、早く行くよー!!」


「あ、はい!!」


 琴音は小さく優斗に手を振ると小走りで皆の大部屋へと向かう。



「さて、いつもの日課だな」


 優斗もひとり個室へ日課の勉強のために向かう。生徒会林間合宿。波乱の夜が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る