34.誰の水着が可愛いですか?

 夏休み。生徒会の合宿としてやって来た桃山家の別荘。

 部屋割りでひとり開かないドアと格闘していた優斗に、背後からやって来たルリが開けてくれそのまま部屋の中へと押しやられる。ドアを閉め、口を塞がれた優斗にルリが体を密着して尋ねた。



「優斗はさあ~、一体誰が好きなのぉ~?? 私達の中でさぁ~??」


(うがうぐがあ……)


 優斗が塞がれていたルリの手をどけて言う。



「お、おい、ルリ! なにするんだよ!!」


 ルリが優斗に体を密着させたまま体をくねられせていう。



「え~、だってさあ~、優斗の好きな子って誰なのかな~、って気になっちゃって~」


「い、いやだから、俺はそう言う特定の女の子は作らないって言ったろ?」


 ルリが揺れるように体をくねらせる。その度に甘酸っぱい女の香りが優斗を包み込む。



「でもさあ~、琴音や計子ちゃんはず~っと優斗のこと見てるしぃ、優愛だって優斗が来てからなんか様子がずっと変だし~、あれれ~、それとも優斗君はルリちゃんのことが気になっちゃうのかな~??」


 そう言って今度は優斗の顔に自分の顔を近づけるルリ。ふわっとしてシャンプーの香りがするピンクの髪が優斗に触れ一瞬体が固まる。



「そ、そんなんじゃないって! 俺は生徒会を一生懸命やりたいだけで……」



「ねえ~、ルリ~!! どこいったの~??」


 優斗がそう言った時、ドアの外から優愛の声が響いた。ルリが人差し指でちょんと優斗の唇に当ててから言う。



「残念~、時間切れみたいね! はいは~い、優愛ぁ~!!」


 ルリはそう笑顔で言うと閉められていたドアを開け、廊下を歩いていた優愛に手を振る。



「ルリ、何してたの!?」


「え~、優斗君が部屋の使い方分からないって言うから、教えてたの~」


「そ、そう。あいつ馬鹿だから、何も分からないんだよね」


「うふふふっ……」


 優愛がドアのところでぼうっとする優斗に向かって言う。



「あなた、早く荷物片づけてリビングに来なさいよ! これから買い出しに行くんだから!!」


「あ、ああ……」


 優斗は気の抜けた返事をするとそのまま部屋に入り荷物を片付ける。



(一体どういうつもりだったんだよ、ルリのやつ……)


 未だに体に残るルリの甘い香り。柔らかい肌の感触。優斗は荷物を片付け皆が待つリビングへと向かった。




「じゃあ買い出しは男の優斗と料理が上手な琴音のふたりね。残りは川でのバーベキューの準備。いいわね!」


「了解~」


 昼は川でのバーベキューとなった。買い出し班と準備班に分かれてお昼の準備をする。琴音と優斗が自転車に乗って少し離れたスーパーへ買い出しに行く間、残った優愛達は川沿いにバーベキューセットを準備して待つ。



「ねえ、先にちょっと泳いじゃおうか?」


 あらかたバーベキューの準備を終えた優愛がルリと計子に言う。



「いいね~、まだ優斗達帰って来ないし、いこいこ~!!」


 ルリもそれに両手を挙げて賛成する。


「も、もう水着に着替えるんです……?」


 唯一それに賛成しない計子が顔を赤らめて言う。頭にはサイズ違いのスク水。優斗には見せたいものだが、最初からあれを着て振舞うのはやはり恥ずかしい。優愛が言う。



「何言ってるの? 食べたり泳いだりしてみんなで遊ぶんでしょ? 今回は慰労会。変に遠慮しなくてもいいわ」


「え、ええ……」


 遠慮はしていない。恥ずかしいだけ。



「じゃあ、着替えて来るわね。行くよ、ルリ」


「了解~!」


 ルリが敬礼のポーズで優愛と別荘へと入って行く。



「ど、どうしよう……」


 ひとり残った計子が軽快に歩いて行くふたりの背中を見つめた。





「結構遅くなっちゃいましたね!」


「そうだね、急いで戻ろう!」


 買い出しに出た優斗と琴音。ある程度買い物を決めていた優斗に対し、優柔不断で動きが遅い琴音が足を引っ張り予定より遅くなってしまった。

 自転車で全力で漕ぐふたり。汗だくになって別荘に帰って来ると、予想外の光景が目に入った。



「お、おい、お前ら、何やってんだ!?」


 そこには川沿いでバーベキューセットの準備を終えた優愛達が、夏のビーチで使うようなチェアーに寝そべり寛いでいる。

 しかも全員水着。ルリはピンクのビキニに、優愛も真っ白なビキニ。計子はいつものサイズ違いのスク水を着て帰って来た優斗に気付き顔を上げる。



「遅いじゃないの!! 何やってたの!!」


 サングラスをかけ、まるでどこかのリゾートにでもいるような優愛。真っ白な肌にそれに負けないぐらい清楚な白のビキニ。背は低いが意外と大きな胸に優斗が一瞬生唾を飲む。



「ご、ごめん。結構買い出しに手間取っちゃって……」


 原因は琴音がもたもたしていたから。琴音が言う。


「ごめんね、優愛ちゃん。私が色々迷っちゃって……」


 優愛の隣で同じく大きなサングラスを掛けていたルリが起き上がりふたりに言う。



「そんなこともういいわよ~。お腹空いたよ~、早く食べよ~!!」


「そ、そうだな! 分かったすぐに取り掛かる!」


 優斗はそう言うとバーベキューに火を入れ、買って来たばかりの肉や野菜を網の上に乗せる。皆の姿を見た琴音が少しむっとして優斗に言う。



「ゆ、優斗さん。私も着替えて来ますね!」


「あ、ああ」


 既に火をおこし食材を焼いていた優斗が返事をする。



(わ、私だけ水着じゃないなんて不公平だよ!! 優斗さんに見て貰わなきゃ!!)


 琴音は以前計子と買いに行ったスク水っぽい水着に着替えて戻って来る。



(結構恥ずかしいわね……、こんなのは子供の頃以来かしら……)


 別荘の部屋で水着に着替えた琴音が、鏡の前で自分の姿を見る。

 ビキニを着た優愛やルリに比べると随分と地味である。太ももこそしっかり出てはいるが、あまりにも地味なので逆に恥ずかしくなるレベルだ。



「でも優斗さんがこれが好きだって言うのなら……」


 とは言え可愛らしさではビキニに到底敵わないし、いやらしさでもサイズ違いの計子に劣る。


「どうしよう……、もうちょっとお尻とか食い込ませた方がいいのかな……」


 琴音はひとり鏡の前で水着と格闘し始める。





「おーい、焼けたぞ!!」


 優斗の声にお腹を空かせた優愛とルリがよだれを流しながらやって来る。


「遅いわよ! 早くしなさい!!」


 皿をもってまるで犬のように立つふたり。優斗がそれに焼き立ての肉や野菜をのせて行く。



(ふ、ふたりとも凄いな……)


 優斗はバーベキューに夢中で気付かなかったが、改めて見ると優愛とルリの水着姿がとても魅力的なことに気付く。


 背は高くない優愛だが、均整の取れた体で細くなく太くない足や手が健康的だし、それに似合わないぐらい意外と胸も大きい。白いビキニが清楚さを上げ、黒い艶のある黒髪がとても色彩的にも合っている。

 対するルリも背が高いモデルのようなスタイルで、優愛同様に胸が大きい。風に揺られるピンクの髪に同じくピンクのビキニがとてもよく似合うし、意外と小さめのお尻はマニアにとっては眼福ものだろう。



「あ、あの、私もお願いします……」


「け、計子……」


 そして後からやって来たのが赤メガネでおさげの計子。

 いつも通りサイズ違いのスク水を着ており、やはりいつも通りお尻に水着が食い込んでいる。よく目を凝らせばお尻全体が見えそうだ。恥ずかしくないのか知らないが、本人はそれを直そうともせずずっと顔を赤くしたまま。

 胸こそ平らだが小さい水着のせいで肌の露出が多く、いつもながら妙ないやらしさがある。



「あ、あの、優斗さん……」


 名前を呼ばれて振り返った優斗の目に、水着に着替えて戻って来た琴音の姿が映った。


「琴音……」


 彼女の着てきた水着は、地味なまるでスクール水着。計子とよく似たタイプだがサイズが小さいことはない。ただ純粋で真面目、そして胸の大きな琴音が着ると見た目以上にいやらしく感じ、また彼女が恥ずかしがって下を向いている姿が更にある意味興奮を誘う。

 琴音は優斗からの強い視線を感じ、恥ずかしながらも心の中で小さくガッツポーズする。



(やった! 優斗さん、じっと見てるよ!!)


 琴音はまるで心の中まで見透かされるような優斗の視線を感じ、小さな声で言う。



「あ、あの、優斗さん。そんなに見ないでください。恥ずかしいです……」


 見て欲しい。なのに見て欲しくないと言う。自分で言いながら女と言うのは本当に良く分からない生き物だと思う。



「あっ、ご、ごめん。水着、可愛いなあって思って」



(え!)


 琴音はそれを聞きやはり優斗は『スク水フェチ』なのだと確信する。



「ちょっと! もっと肉、焼いてくれる?」


 ルリと座って肉を食べていた優愛が空になった皿を持ってやって来る。



「あ、ごめんごめん! 今、焼くよ」


 計子や琴音の水着に見惚れていて手元が留守になっていた優斗が慌てて肉を焼き始める。優愛と共にやって来たルリが慌てる優斗を見て言う。



「あれ~、優斗はもしかしてみんなの水着に見惚れていたとか~??」


「え? い、いや、そんなことないよ……」


 明らかに動揺している優斗。これだけの美少女揃いの女子高生が、それぞれの魅力を引き出すような水着を着て目の前にいるのだから目を奪われない方がおかしい。脂汗を流しながら必死に肉を焼く優斗にルリが言う。



「ねえ、優斗ぉ~」


「な、なんだよ! 今、肉焼いてて忙し……」



「この中で誰の水着が一番可愛いかな~??」



「え?」


 優斗は肉を焼いていた手を止め、ゆらゆら揺れながらそう尋ねるルリの顔を見つめる。隣にいた優愛が慌ててルリに言う。



「ちょ、ちょっとルリ! 一体何を聞いているの!!」


「優斗く~ん……」


 そんな優愛をルリが無視するように優斗に言う。



「みんな可愛い、なんて白けた回答はダメだよ~」


(うっ……)



 意外と鋭いルリ。

 正直みんな可愛いと思っていた優斗が一瞬固まる。

 琴音は少し離れて同じスク水仲間の計子の腕を掴み、優愛はルリの横で泣きそうと言うか不安そうな表情を浮かべている。ルリだけがなぜか不気味な笑顔で優斗を見つめている。


(ちゃんと答えなきゃならない……)


 みんな可愛いとか、適当に胡麻化すような空気ではない。それをやったら優斗の男と言うよりは人としての品を疑われる。心を決めた優斗が口を開く。



「優愛、かな……」



(え!?)


「みんな可愛いと思うけど、優愛の水着が一番似合ってるかなって思うよ」



(え、ええっ!!!!!!!!!!)


 期待はしていたが、あまり予想していなかった優愛の顔が一気に真っ赤に染まった。

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