23.ちょっとエッチな水泳教室

(な、何か思ったよりもきついかも……)


 悠然と赤ビキニに着替える鈴香を前に、計子も持って来たスクール水着に着替え始める。鈴香はその芸術品のような体を一切隠すことなく服を脱ぎ、堂々とビキニへ着替えて行く。一方の計子は苦戦していた。



(あ、汗がすごくて……)


 緊張と不安。目の前には誰もが羨むような極上の美女。そんな彼女と恥ずかしい水着対決をしなければならない。



(しかも私は『スクール水着』だなんて……)


 優斗が好きだと言うのは分かっている。とは言え、やはり学校以外で着るのは普通に恥ずかしい。更に緊張で発汗し、ややサイズが小さめの水着が上手く着られない。



「手伝いましょうか~??」


 見かねた鈴香が計子に言う。



「え、ええ……」


 そう返事した計子の肌にくっつく水着を鈴香がつまんで引っ張る。苦戦した計子だが、鈴香の手伝いもあってようやく水着に着替えることができた。



「なんかさぁ、やっぱりサイズ、合ってないんじゃないの~??」


 胸こそ『まな板』の計子。ただ水着から出たすらっととした手足はサイズ違いの水着と相まって妙に色っぽい。



「そ、そうですね。でも優斗さんがこれが好きだって言うから、我慢して着ます……」


 じーっと髪を纏める計子を見ていた鈴香が頷いて言う。



「まあ、いいですわぁ! さ、行きましょう~!!」


「え、ええ……」


 計子は心底恥ずかしいと思ったがここで引く訳にはいかず鈴香の後をついて歩き出す。



「あ、そう言えば、どうして今日は優斗様とここにいらしたの~??」


 鈴香は歩きながら肝心なことを聞くのを忘れていており改めて計子に尋ねた。計子が不敵な笑みを浮かべて答える。



「それは秘密です」



「やだ~、つまんなーい!!」


 ちょっとむっとした顔になる鈴香。ここに来た理由などすぐに分かるし、それと同時に計子は彼女は決して悪い人じゃないんだと密かに思った。





「優斗様ぁ~!!」


 先にプールサイドに来てひとり座っていた優斗に鈴香が声をかける。

 プール中に響く甘い鈴香の声。しかもその声の主が真っ赤なツインテールに、色っぽい赤ビキニ。泳ぎに来ていた会員、特に男性会員達は一気に彼女へと視線を移す。



「お、来た来た」


 そう言って立ち上がった優斗に、水着に着替えた計子の姿が目に映る。



(えっ……)


 それはいつも見ている地味な計子とは良い意味で変貌した姿であった。

 おさげだった髪は頭の上で団子状に巻かれ、地味キャラの象徴である眼鏡を外し、極めつけは間違いなくサイズ違いであろう『スクール水着』。必要以上に露出した肌に、はっきりと分かる体の凹凸。

 しかも真っ赤になって下を向いて恥じらっている姿は、男子にとって萌え以外何物でもない。



(こ、これは何て目のやり場に困る水着なんだ。いや、それよりそんなんでちゃんと泳げるのか……)


 自分でスクール水着みたいなのがいいとアドバイスしておきながら、そんなことをすっかり忘れてしまった優斗が呆然と計子を見つめる。そんなガン見された視線に気付いた計子が更に顔を赤くして思う。



(み、見られてる。すっごく優斗さんに見られてる……)


 計子は自分をまとったのが薄っぺらい布だけ思うと更に恥ずかしく、それなのに不思議と興奮すら覚える。計子をじっと見つめる優斗に気付いた鈴香がその間に立って尋ねる。



「ねえ、優斗様ぁ~、鈴香と彼女と、どちらが素敵だと思いますか~??」


 ここぞとばかりに赤いビキニに胸の谷間を作ってアピールする鈴香。対する計子も負けじと鈴香の横に並んである意味反則的な水着姿を晒す。焦った優斗が思わず口にする。



「い、いや、俺、今日はと……」



(えっ、名前呼ばれた? 私、勝った!?)


 名前を口にされた計子が顔を上げ笑みを浮かべる。



「わ、私が勝った……」


 同時に鈴香は腕を組み、少しだけむっとした表情で小声で言う。



「本当に優斗様は~、スクール水着がお好きなんですね~」


 全くそんなつもりはなかった優斗。ただ計子が泣きそうな顔で優斗の前にやって来て言う。



「ありがとうございます、優斗さん!! 宮西は、絶対に負けられませんからね!!」



「あ、ああ、そうだね……」


 何だかよく分からないがいつもと違ってハイテンションの計子を見て優斗も頷く。優斗が計子に言う。



「じゃあ、早速練習を始めようか。鈴香、お前も運動? 水泳大会では俺達、絶対に負けないからな!」


 そう言う優斗に鈴香が笑顔で答える。



「はーい、優斗様っ。了解ですわ~!! 鈴香達も負けませんから~!!」


 そう言って小さく手を振り、計子と一緒に練習を始める優斗を見つめる。優斗が言う。




「さて、計子。まずは泳ぎを見せてくれ」


「あ、はい」


 そう言って計子は水中メガネをはめ、ゆっくりと水の中へと入る。



「い、行きます!!」


 そう言って計子は軽快にクロールで泳ぎ始める。



「ほお……」


 それを腕を組んで見ていた優斗が頷いて声をあげる。

 大人しくて運動が苦手に見えた計子だが、予想よりもずっと綺麗なフォームで泳いでいる。



「ぷはっ、はあ、はあ……」


 それでも20Mほど泳いだところで苦しくなって計子が泳ぎを止める。プールサイドまでやって来た計子に優斗がアドバイスする。



「フォームは綺麗だね。ただもっと肩全体で大きく回すイメージで。体ももっと伸ばした方がいい」


「は、はい。はあ、はあ……」


 じっと優斗を見つめる計子。優斗は頷いて着ていた上着を脱ぎ始める。



(わっ、凄い体……!!)


 背が高く引き締まった優斗の体。しなやかな筋肉が均整についており、細くても逞しさを感じる。優斗は水に入ると計子の後ろに回って彼女の腕を優しく掴む。



「腕はね、こうして大きく回して……」


 後ろからまるで抱かれるように動かされる手。計子の耳元でささやくように甘い声で優斗が声を出す。



(やだ、私。何か頭がぼうっとしちゃって……)


 それはまるで心地良い催眠術のような甘い囁き。固く力強い優斗の手がしっかりと腕を掴む。



「計子、ちょっとお腹触るよ」



「え!? きゃっ!!」


 そう優斗が言った瞬間、彼の硬い手が計子のお腹へと回りぐっと持ち上げられる。



「ゆ、優斗さん!?」


 そのまま計の体は水面に浮くような形でうつ伏せとなる。優斗が言う。



「さ、手を回してみて!!」


(はい!)


 顔が水についているので頭の中で返事をする計子。今度は大きく動かしていた足を優斗が掴んで言う。



「足はそんなに動かさないで! このくらい!!」


 そう言って今度はふくらはぎ辺りをぐっと掴み細かく動かす。



(お尻が出ちゃって……)


 優斗がずっとお腹を支えているせいで、計子のお尻がずっと水面から出たままとなっている。しかもサイズが小さい水着。体を動かせば動かすほどどんどん食い込んでいくのが分かる。



(恥ずかしい、恥ずかしいんだけど、どうしてこんなに嬉しいんだろう……)


 身も心も任せると言うのはこういうことを言うのだろうと計子は思った。彼のことをもっと知りたい。ひとり占めしたい。一緒に居るとついそんなことを考えてしまう。



「よーし!! だいぶ良くなった!! じゃあ次は俺が泳ぐから見ていて」


「あ、はい」


 計子はずれた水着を指で直しながらゆっくりと水から上がる。優斗は水中メガネを付けるとすうっと泳ぎ出した。



「うわぁ、綺麗……」


 全く無駄のないフォーム。流れるような動き。まるで水が喜ぶように優斗の横を流れて行く。プールサイドで水に足を付けながらその泳ぎを見ていた計子が思う。



(本当に何でもできちゃうんですね、優斗さん)


 そこへ真っ赤なビキニを着た鈴香が隣にやって来て座りながら言う。



「水泳大会、優斗様も出るんでしょ~?」


「えっ? さ、さあ……」


 知らないふりをする計子。鈴香が笑って言う。



「隠さなくてもいいですわ~、メンバー表はもう頂いていますの」


「そう、でしたか……」


 それなら隠す必要はない。自分も出ることは知っているはず。鈴香がクロールで泳ぐ優斗を見て言う。



「あれに勝てるかしら~、ちょっと苦戦しそうですわ~」


「また勝たせて貰いますから」


 頼もしい優斗を見ながら計子が言う。



「あら、それは一体どちらの意味でしょうか~??」


 計子が手を差し出しながら言う。



「どっちもですよ」


「上等ですわ~!! 私は絶対に負けませんから~!!」


 鈴香は差し出された計子の手をしっかりと握りしめてから、立ち上がって歩き出す。そんな鈴香の形の良いお尻を見ながら計子が思う。



(スタイルでは惨敗ですけどね……)


 計子はクスッと笑いながら泳ぎ終えてこちらに向かってくる優斗に手を振った。

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