8.彼女はいますか?
「あ、あのぉ、もしかして『一本足の疾風』さん??」
赤くて長いツインテール。大きなリボンが可愛らしい美少女である宮北生徒会長の
「ちょ、ちょっと! あなた、この女とも知り合いなの!?」
「いや、俺は知らねえ。知らねえが、向こうは知ってるのかも……」
煮え切らない優斗に琴音が小声で尋ねる。
「あ、あのぉ、『一本足の疾風』ってなんですか……?」
それに同調して計子も言う。
「本当に。いかにも中二病って感じの名前。優斗さん、何かやっていたんですか……?」
「あー……」
何か言おうとした優斗より先に鈴香が皆に言う。
「えー、みんなって、彼のこと知らないの~??」
優愛が答える。
「し、知ってるわ。知ってるけど、それは知らない……」
鈴香が笑って言う。
「そおなの~? じゃあ教えてあげるね、実はぁ、彼は~」
皆が鈴香に注目する。
「秘密で~す!!」
「おい!」
優斗が大きな声で言う。優愛がその優斗に言う。
「あなたいい加減言いなさいよ! 一体なんなの? その変な名前っ??」
優斗が皆に話す。
「ああ、ちょっと前の学校で野球をやっててな。そこで変なあだ名付けられたんだよ」
「優斗様は引っ越したんですね~、通りで」
(優斗様??)
宮西生徒会メンバーがその敬称に驚く。鈴香が続けて言う。
「私、高校野球が大好きで~、一年の時ずっと優斗様の追っかけをしていたんですよ~!!」
(ゆ、優斗の追っかけですって!?)
話がよく分からない優愛が笑顔の鈴香を見つめる。
優斗は野球部在籍は短かったが、言われてみれば確かに毎回試合の時は彼女のような女の子が声を上げていたような気がする。鈴香が優斗の腕に絡みついて皆に言う。
「きゃはっ! 鈴香嬉しい~!! こんなところで優斗様に会えるなんて!!」
優愛の顔が怒りで真っ赤になり、その目つきが険しくなる。そんな視線はまったく気にしない鈴香が皆に言う。
「さっ、皆さんも生徒会室へご案内しますね~!!」
そう言って鈴香に腕を組まれたまま歩き出す優斗を見て皆が言う。
「あ、あなた、一体何をやってるの!!」
「優斗さん、それはどう計算しても浮気……」
「わ~、なんか私とキャラ被ってるぅ~!!」
宮西生徒会メンバーは突然の展開に戸惑うながら、優斗と腕を組んで先を歩く鈴香の後について歩き出した。
「さあ、どうぞ~お入りください~!!」
鈴香に案内されたのは校舎三階にある見晴らしのいい部屋。窓からたくさんの光が入り部屋の中央には立派なソファー。書庫にはきちんと書類やファイルが並べられており、同じ生徒会室でも宮西とはずいぶんと違う。
ずっと優斗と腕を組んだままの鈴香を見て優愛が強い口調で言う。
「ちょっと、十文字!! いつまでそいつと腕組んでるのよ!! 不純異性交遊だわ!!」
腕を組んだままの鈴香がちらりと優愛の方を見て言う。
「私の優斗様ですもん。別にいいでしょ~??」
「良くないわ!!!」
怒鳴る優愛を見て優斗も彼女から離れながら言う。
「おい、もう案内は済んだろ。じゃあな」
「嗚呼っ、優斗様……」
まるで悲劇のヒロインのように崩れながら声を出す鈴香。宮西のメンバーもその下手な演技にため息をつく。そこへ低い男の声が響いた。
「鈴香様、彼らが宮西の生徒会でしょうか」
部屋の隅から現れた長髪の男子高生。黒く長い髪で整った顔立ち。鈴香は彼をちらっと見て言う。
「あら、
そう言って優斗に再び近寄る鈴香。優斗が逃げなら言う。
「何が私の、だよ! 違うだろ!!」
その様子を見た世良が一瞬怒りの表情を浮かべたが、すぐに優愛ら宮西生徒会のメンバーの下に行き、片膝をついて頭を下げて言う。
「初めまして、宮西のお姫様方。わたくし、宮北生徒会の副会長の
そう言って頭を深々と下げる世良。計子が小声で隣にいる琴音に言う。
「なんかキャラの濃い人が出てきましたね……」
「そうですね……」
世良が立ち上がって言う。
「よろしければこの後わたくしと昼食でも。知り合いのフランス料理店で特別に……」
そこまで言い掛けた世良の耳に優斗の声が響く。
「お、おい! お前またくっつくなよ! 離れろって!!」
そう言って再び寄ってきた鈴香を押し戻そうとする優斗。世良はくるりと踵を返すと優斗の元へ歩み寄り、いきなり平手打ちした。
パン!!
「いってえ!! お前、一体何を……」
パアアアアン!!!!
「ぎゃっ!!」
殴られ声を出す優斗。同時に隣にいた鈴香が世良の顔を思いきり平手打ちした。
室内に響く大きな音。世良はそのまま床に倒れ込むようにして座り込み、殴られた頬に手を当てながら鈴香を見上げる。鈴香が腕を組み世良に向かって言う。
「あなたぁ、何考えているわけ~?? わたしの優斗様に手を上げるなんて~、駄犬にはお仕置きが必要ね~!!」
そう言って足を上げ世良の腹を蹴り上げる。
ドフ!!
「ぎゃっ!!」
蹴られた世良が腹部を押さえて蹲る。突然の『お仕置き劇』に声も出せずに驚く宮西のメンバー。優斗が言う。
「おい、お前! いくら何でも酷過ぎじゃ……」
「大丈夫ですよ~。彼は私のイヌ。こうやって可愛がってあげているの~、ね? 世良ぁ、嬉しいでしょ~??」
蹲っていた世良が起き上がり、そして恍惚の表情を浮かべてそれに答える。
「ははっ、鈴香様。この世良康生、幸せの極みでございます」
「……」
優斗や優愛はもうこれ以上何も言う必要がないと思った。
「さて、では宮北と宮西の生徒会交流会を始めましょうか」
大きなソファーに座ったそれぞれの生徒会。宮西のメンバーの正面に、宮北の会長鈴香、副会長の世良、そしてその他の役員である女子高生が数名座っている。優愛が立ち上がり鈴香を指差して言う。
「ちょっと待った!! どうしてうちの優斗がそっちに座っているのよ!!!」
優斗の隣で必要以上に密着して座る鈴香。顔を赤らめながら答える。
「ええ~、どうしてって、私の優斗様ですよ~。一緒に座るのも当然~」
「ば、馬鹿なこと言わないでよ!!」
ソファーに座っていた優愛が立ち上がり、鈴香の隣にいる優斗の腕を掴んで自分の方へと連れて行く。鈴香が言う。
「神崎さ~ん! なんてことをするんですか!?」
「何てことじゃないでしょ! この男は
声を荒げて言う優愛に鈴香が涼しげに言う。
「あら~、愛し合うふたりはいつでも一緒でしょ~??」
「十文字! 誰が愛し合ってるって!?」
さすがの優斗もこれには怒って言う。
「……十文字じゃありません。鈴香と呼んで下さ~い」
鈴香が悲しそうな顔で優斗に言う。
「す、鈴香! 俺はお前と愛し合った覚えはないぞ! そもそも初対面だし」
「いいえ、それは違います~、私は何度もお会いしてますよ~!!」
優斗の追っかけだった鈴香。彼が試合に出ていた球場へは毎回足を運んでいる。不満そうな顔をしていた計子が言う。
「どうでもいいですけど早く始めましょう。時間の無駄です」
優斗が色んな女から引っ張りだこになっているの見てイライラが隠せない計子。椅子に座り直した鈴香が立ち上がって皆に言う。
「じゃあ、これから何度か対戦する皆さんですが、とりあえず自己紹介しましょうね~。ひとりずつお願いしま〜す!」
そう言ってから両生徒会のメンバーが立ち上がって自己紹介をしていく。
皆が簡単に自己紹介を終えて行く中、世良だけがジェスチャー付きで長い話を始めたので鈴香が後ろから蹴りを入れて無理やり終わらせた。そして直ぐに鈴香が手を上げて言う。
「はーい、質問で~す!!」
誰も聞いていないのに自分から手を上げ立ち上がって優斗に言う。
「優斗様ぁ~」
「ん、なんだ?」
突然呼ばれた優斗が鈴香を見つめる。
「優斗様は~、彼女とか居らっしゃるんですか~??」
(!!)
突然の質問。
そこに居た世良以外の女子生徒達が一斉に優斗に視線を向ける。一瞬で変わる張りつめた空気。互いを牽制し合うような静寂。
優斗が頭を掻きながら面倒臭そうに言う。
「何だよ、その質問。全然関係ないじゃんか」
「ちゃ、ちゃんと答えなさいよ!! 質問は答えるものよ!!」
優愛が大きな声で優斗に言う。優斗がはあとため息をついて言う。
「いないよ」
(やった!!)
女生徒数名が小さく拳を作って喜ぶ。その他にも内心で嬉しさを爆発させる者数名。それを聞いた世良が笑いながら言う。
「ああ、モテないクンなんだね。可愛そうに。僕みたいに……」
「うるさいっ! あなたは黙ってて!」
余計なことを話す世良に鈴香が一喝する。そして直ぐに優斗に言う。
「じゃあ、私がカノジョに立候補しますね~!! あ、もう確定かな? このメンバーなら」
そう言って宮西の女生徒を見て微笑む鈴香。優花が顔を真っ赤にして立ち上がって言う。
「ふ、ふざけないで!! 私があなたなんかに……」
「あー、俺な……」
そんなうるさい外野を制するように優斗が話し始める。一瞬で静かになる部屋。優斗が言う。
「俺な、彼女とか作らないんだ」
「えっ? ど、どうしてなんですか……??」
真っ先に琴音が優斗に尋ねる。優斗がちょっと考えてから答える。
「俺、転校ばっかしてたろ? だから彼女とか作っても直ぐに別れなきゃいけないんでお互い辛い思いをさせちゃうから」
「……」
沈黙。
引っ越しなどほとんど経験がない女子生徒達が黙り込む。だが皆が同時に思う。
((でも、それは私にもチャンスがあるってことね!!))
ここに秘密裏に繰り広げられる『優斗争奪戦』の火ぶたが切って落とされた。
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