第2話 初めては思ったより簡単。

「無口なやっちゃなー。まぁ名前は送られてきた資料でわかるんやけどな。」

失礼な奴だ。

俺は無口ではない。

口下手なだけだ。

変な事をいったらどうしようと思いしゃべれないそれが俺。

好きで喋らないわけではない。

「まぁ、とりあえず職場を案内しよか。」

竜崎と名乗った男は歩き出す。

俺は来世に来た日に働かされるのかとブルーになり足を進める。


「ここが事務室や!」

まず竜崎は事務室に案内した。

机が並んでおり、事務員と思われる人が忙しそうに電話をしている。

事務室というよりコールセンターだ。

「ここは仕事の発注を受けたり、上からの苦情を受けるところや、いつも大忙しなんや。」

ここが大忙しという事は仕事はもっと忙しいんだろうと思えてブルーになる。

「なんや、落ち込んで?ここは嫌か。まぁ、大変やからな次や次!」

竜崎はどんどん進んでいく。

この時ブルーな気持ちになった事が後から物凄く後悔するとはこの如月仁の目を持ってしても見透せなかった。


「次は開発室で~」

竜崎はどんどん職場を紹介していく。

どの職場も大忙しで大変そうだ。

「最後がNEVERの花形。駆除係や!」

駆除係?

昆虫駆除でもする係なのだろうか。

「気になったか??ここはな、悪魔っちゅう世界に悪影響をもたらす奴らを処理する部署なんや。」

悪魔?そんな非現実的な。

いや、転生している時点で非現実か。

「その顔は信じてないな?まぁはじめての奴は大体そうや。なら早速見にいこか。」

竜崎は駆除係の中に入っていく。

俺は行きたくなかったが、行かないという選択も出来なさそうなのでついていく。


私は下級の悪魔騎士のグレーゴルと戦っていた。

戦っているといっても模擬戦だが。

下級なのだから楽勝だろうと油断していたが、

グレーゴルの装甲は固く、私の加護の力では突破できずにいた。

加護それは上から与えられた祝福。

普通の人間が悪魔と戦ってもただ蹂躙されるだけなので上が戦えるように与えてくれた力だ。

だが、こんな下級悪魔にすら勝てないでいる力かと笑うしかなかった。

いや、力が悪いのではない自分自身か...

自分の弱さを認識する。

下級悪魔のグレーゴルが笑いながら剣を持ち上げ近づいてくる。

まさにその姿は昔話に出てくる悪魔そのものだった。

私はその姿に恐怖してしまっていた。

訓練でこのレベルなら本物はどれだけ恐ろしいのだろうと、体が震える。

私は終わりを覚悟した最中。

一つの光が現れる。

その光からは髪を括って剣を持つ勇者のようにただずむ男がみえた。

悪魔もその気配に気付き、私のことなど興味が無さそうに臨戦態勢に入る。

恐怖を抱いた私など何時でも殺せるという事か。

私は悪魔と自分の弱さに怒りを覚え、力を振り絞り叫ぶ。

「そいつの装甲はすごく固い!気を付けろ!」

私はあとから来た男に注意する。

これぐらいしか自分には出来ないことを嘆く。

あの装甲を突破できない自分はただ足手まといなだけだ、悔しいが。


グレーゴルは考える。

なんだこの男は、今まで見てきた男とは違う。

その冷たい目は上級悪魔を思わせた。

いや、こんな男が上級悪魔レベルの訳がない。

そう自分に言い聞かせ攻撃を開始する。

さっきのように攻撃を受け、絶望を与えるといういつもの余裕は無かった。

鎧の耐久に回している魔力を少し剣に回し、一瞬で決着をつけようとグレーゴルは魔力を移動させる。

「この魔力さっきまでは本気ではなかったのか!?」

さっきまで遊んでいた小娘はグレーゴルの実力に驚いているようだがグレーゴル自身にはどうでもよかった。

こいつを仕留めなければ...

グレーゴルの本能がそう告げる。

グレーゴルは本能に従い急ぎ決着を付けようと、襲いかかる。

いつもなら相手の身体が半分になり地に落ち、血の色を楽しむところだったが今回は違った。

これはまだ想定の範囲内だった。

だが、まさか自分の身体から大量の血を見るのは予想外だった。 

反撃は想定していた。

だから攻撃して0.05秒のうちに回避行動をとったはずだ、いや、例え避けれなかったしてもこの出血量はおかしい。

装甲を薄くしすぎた?

いや、装甲の魔力を移動させたといっても一部だけだ、全てではない。

大半の魔力は装甲に回していた。


「何が起きた!?」

私は目の前で起きた行動が理解できずにいた。

あの固かった悪魔が熟練の解体者が鳥を捌くようにあっさりと...

どれだけの力なのか私には理解できなかった。

いやしたくなかった。

私との差は歴然だった。

彼は二激目を喰らわそうと構える。

だが私にはただの死体蹴りに見えた。

あの出血だ、生きてはいまい。

「まてそいつはもう!!」

そういおうとした瞬間悪魔は切られた部分から下を切り離し飛びかかろうとしてくる。

だが彼は読んでいたように切り伏せる。

あれだけの血を出しながら死なない悪魔に驚きながらそれを読んでいた男にも驚きを隠せなかった。


「なんや今使っとるんかい。」

竜崎は駆除係の奥の部屋を見ながらそう言う。

「ここはトレーニングルームや。下級の悪魔やコンピューターと模擬戦が出来る施設や。模擬戦ちゅうても死ぬこともある危険なもんやけどな。」

笑いながら竜崎はそう告げる。

俺はその男がサイコパスに見えたがそんなことどうでもよかった。

もしここで死んだら別の世界に行けるのでは?

俺はそう思い、目を光らせる。

「お、なんや興味があるんか。あの小娘負けそうやし、行ってみるか?危なくなったら助けたる。」

俺は竜崎の提案に首を縦に降る。

「助け不要。」

俺はなんとか声を絞りだしそう告げる。

折角の格好の死に場を邪魔されてたまるか。

「なんや、すごい自信やな?まさか戦闘狂タイプ?」


「似合っとるでー」

俺は早速装備をつけ、準備をする。

「お前さんの祝福はまだ分からんが十中八九外れはない。まぁ頑張れや。」

祝福という聞きなれない単語も聞こえたがそんな事はどうでもよかった。

俺は期待に胸を膨らませながら足を進める。 

入ったら景色は外から見ていたより広く、これもこの世界の技術の力なんだろうかと考えていると。

「そいつの装甲はすごく固い!気を付けろ!」

と先に戦っていた白髪の女性が叫ぶ。

どうやら俺にヒントを教えてくれたようだ。

なんて優しい先輩なのだろうか。

だがそのヒントは不要。

俺はただ殺されるのみ。

だがその時俺の脳裏にある考えがよぎる。

何もせず殺られたらまた自殺扱いになってこの世界みたいなところに送られるのではないか?

それはまずい。

こんなブラックな世界一度で十分だ。

俺はしぶしぶ剣を構える。

戦闘して殺られる。

これだ。

これなら自殺とは判断されず別の世界に送られるだろう。

そんな考えをしていると悪魔が襲いかかってくる。

俺はその攻撃を受けながら剣で攻撃する。

剣など振るったことがないのでおかしな軌道だったが何故か当たった。

俺の身体から出る血を期待しながら見たがそこまででは無かった。

様子見という奴なのだろうか?

俺は悪魔を見る。

悪魔は大量に血を流していた。

あれ!?この悪魔柔らかすぎない!?

さっきの人固いとか言ってたよね?

これじゃあおれ死ねないじゃん!

俺は動揺しながらも次の攻撃を期待しながら剣を構える。

「まてそいつはもう!!」

彼女がそう叫んだ瞬間悪魔が俺に抱きつこうとしてきた。

顔キモッ!

俺は近づいてくるキモい顔に条件反射的に剣を振るっていた。

その一撃で完全に悪魔は停止する。

あれ?これで死ぬはずだったのに


「いやーまさか勝つとは思ってなかったわ!」

室長は大笑いしながら私たちを抱き寄せる。

勝つとは思っていなかった?

どういうことだ?

これだけの力を持った人を送っておきながら...

そんな事を考えていると副室長のリサさんがすごい剣幕で近寄ってきた。

「室長!!新人になにやらしてるんですか!?

まだ調整とか授業とかもまだなんですよ!殺す気ですか!?」

新人!?

私はその事実に驚愕する。

彼の行動は歴戦の戦士のそれだった。

これが新人?

前世でどんな戦いをすればこうなれるのだろうか。

「いやー悪かったってリサちゃん!」

室長は笑いながらリサさんに謝る。

「もうこんな時間だ!」

室長は時計を見て時間を理由に逃げる。

「待てー室長!!」

リサさんは室長を追いかけていく。

いつもの光景に安心しながら私は命の恩人に自己紹介をしていなかったことに気付き、自己紹介をする。

「私は井ノ瀬 八千代だ、さっきはありがとう。頼りない先輩ですまないがよろしくな。」

「如月仁...よろしく」

彼はどうやら多くは語らないタイプのようだ。

「お礼にコーヒーでもおごるよ。」

私は仁の手を握り、カフェまで連れていく。






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