美術館でのデート
今日はランハート様との美術館デート。我が家に現れた時から、ランハート様が格好良すぎて倒れてしまうかと思ったのだけれど、倒れてしまってはランハート様を拝めない、と気合で乗り越えた。
美人は三日で飽きるというがあるらしいのだけれど、それは嘘ね。もしくは、ランハート様の美はそこらの美人とは格が違うという事かしら。
ランハート様をうっとりと見惚れている間に美術館に着き、さて、絵の鑑賞にと歩き出した時に、ランハート様が腕ではなく、手を差し出された。
あら?
ランハート様?と思っていると、「手を繋いでも宜しいですか?」と声が降ってきた。
(聞き間違いではないわよね?)
私がランハート様を見つめると、少し照れた様子で、「嫌でなければ」と付け加えられた。
(っしゃああ!!!喜んでええ!!!)
勢いよく手を握りそうになったのだけど、そこは、ぐっと我慢をして、「ええ・・。嬉しいです」とゆっくり手を差し出した。
エスコートの延長のような手繋ぎや、少しの間、私を支えるのかどうかの微妙なラインの手繋ぎはあれから何度かあった。
が。
こうやって、直接聞かれて、手を繋いで歩いた事は無い。
「ソフィー様の手はやはり小さいですね」とランハート様は照れたように笑って私の手を優しく握ると、最高に凛々しい手ですっぽりと私のちょっと汗をかいてしまったかもしれない手を包んでくれた。
(はああ!手に心臓が移ったようだわ)
ドンドコドンドコと、手から鼓動が聞こえて来そうで私は驚いてしまった。胸も煩くドキドキしているのは分かるが、手もなぜかドキドキしている。
なんて不思議なのかしら。
そんな事を思っていた私だから、絵画をぽーっとしたまま、ふわふわと空中を歩くように鑑賞し、ランハート様の手ばかりに気を取られて、何一つ絵画の事が頭に入らず、微笑みながらランハート様と巡り、「休憩を」と、美術館内のカフェに入った所で手を離されて意識が戻った。
美術館のカフェは落ち着いた雰囲気で、私達の様にカップルでお茶を楽しむ人達や、女性同士でケーキを楽しんでいるご婦人達がいた。私達は窓際の真ん中の目立つ席に通されたのだけれど、周りとは距離があって、少し高い位置のとても良い席だった。
「ソフィー嬢、疲れていませんか?」
手が離された事を寂しく思っていると、ランハート様が少しはにかんで聞いてきた。
「ソフィー嬢。私の手は不快では無かったでしょうか?大丈夫でしたか?ははは、実は緊張してしまって、汗をかいてしまいました。ソフィー嬢の手は小さくて柔らかくてとても可愛らしいですね」
(ランハート様の手汗なら大歓迎ですわ)
「恥ずかしながら、手を繋いで歩きたいなと、ずっと思っていたのですよ」
「まあ」
心の声が出ない様に手で口元を抑えた。そんな私をランハート様は優しく微笑んで、メニューを開こうとする私の手をそっと触ると、耳を少し赤くしていた。
(はい!最高!何この人!なんでこんなに恰好良いの?仕草が可愛くて、声も素敵なんて、神?神様?ああ、神様なんだわ)
「んっうん。私は紅茶とスコーンにしようかな。ソフィー嬢は決まりましたか?」
「私も同じものを。・・・ランハート様の手はとても大きくて逞しくて、素敵ですわ。私も実は緊張していました」
「私の手は平均的な男性の手だと思います。ソフィー様は背はすらりとされていて、手も可憐でそして小さいのですね。また一つ、素敵な事が知れました」
「あの、可憐だなんて。手を繋ぐ事、とても嬉しかったので、ランハート様が宜しいのなら私もまた繋ぎたいです」
スコーンとお茶を注文して、恥ずかしながら私がそう答えると、ランハート様は自分の手をジッと見てから私の手を取ってご自分の手と合わせた。
「私もまた繋ぎたいです」
ランハート様は合わせた手を握られると、ゆっくりと離した。
(きゃあああああ!!!)
(手が小さくて不便だと思った事はあったけれど、今日ほど、手が小さくて両親に感謝したい日は無かったですわ!)
楽器を弾いて指がもう少し長ければ、と思った事は何度あったことか。
(なんなの?なんなの?手を繋いで、握られるとなんて、なんかこう、威力がすごいですわ。ランハート様の色気が駄々洩れですわ)
ああ。このために神様は私の手を小さく作っていたのだろう。いや、ランハート様であれば、きっと私の指が長くて、手が大きくても、きっと優しく褒めてくれるのだろう。
そんな風に思っていた為、私は頬を染めて恥ずかしがってしまった。
カフェでは私達の周りが顔を抑えたり、祈りを捧げたりしていたけれど、私も女神様に感謝の祈りを捧げていたので、熱心な信者の方の気持ちは凄く分かってしまったのだ。
ふわふわとした気持ちでカフェでお茶をし、その後も二人で手を繋いで美術館を周った。
そして、庭園を眺めてからランハート様が屋敷へと送って下さろうとしたのだけれど、馬車に乗り込む時も私は手を離さなかった。
「あっ」
本当にわざとじゃなかったのに、そのまま手を握っている事に気付いて恥ずかしくなってしまった。
(このままじゃランハート様が座る事が出来ないのに、なんてことを)
目の前の席に座ろうにも私が手を握ったまま引っ張るようにしてしまっていた。
「ご、ごめんさい。ランハート様。その、離れたくないと、思ってしまって」
慌てて手を離し、隠れるように顔を手で覆ったが、ランハート様が動く様子が無かった。
「・・・ふー・・・」
ゆっくりと息を吐かれる音が聞こえた。
あきられた?はしゃぎすぎてはしたないと思われたのかしら。
どうしよう、と思っていると、私の隣の席がグンっと沈んだ。
「ソフィー嬢、隣であれば繋げます。手を繋いでも宜しいですか?」
手の隙間からゆっくりとランハート様を見ると、すぐそばに目元が赤くなったランハート様の顔があった。
はい、好き。
何、この格好良い人。天使?神様?いや、物語に出て来る英雄の様だわ。
「嬉しい・・・」
思わず、差し出されたランハート様の手を両手で握ってしまった。
「っ!!」
ふふふ、少し硬くて、私より肌が焼けていて逞しい手を両手でスリスリと触る。
はあ。こうやって、両手で包んでしまえばもうランハート様の手を独り占め出来るわ。
「ふふ。大きくて、逞しいですわ」
笑ってしまって、ランハート様を見ると、ランハート様の目がいつもよりも少し大きくなって私をじっと見ていた。
「あっ。申し訳ございません」
手を繋ごうと言われたのに、手を撫で回してしまったわ。これは変態なのではなくて?
どうしよう、嫌われてしまったかしら。
慌てて手を離した手を、ランハート様にガシっと握られた。
「ソフィー嬢、手を繋ぎましょう」
「え、宜しいのですか?」
「ええ。でも、出来れば、こうやって、繋いでいていいですか。ソフィー嬢に手を触られると、私の抑えが効かなくなりそうです」
「え、ランハート様?」
「ああ、なんでも、ん、うん。すまない。出してくれ」
ランハート様の言葉に私はまだ馬車が出発していないことに気付いた。
ドアはいつのまにか閉じていたけれど、従者達に聞かれていたと思えば恥ずかしくて仕方がない。ランハート様がドアを軽く叩き、外に声を掛けるとすぐに馬車が動き出した。
私は顔が赤くなってしまっているでしょうね、と、反対の手で押さえると、私の様子にランハート様が「ふっ」と笑われたのが分かった。
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