第44話 晴れた日に
あんなに興味を持っていた人達も、俺達の変わらない態度に飽きたのか、二ヶ月くらいでまばらになった。
街で同級生を見かけても、罰が悪そうな表情で俺を避けている。
たまに、店にオメガが来るが、妬みの眼差しは少なく、羨望している眼差しが多かった。その眼差しに俺は苦笑いしながら対応する。
俺が公表した事で、あからさまに面白くない表情をするのは意外にもアルファ達だった。
どんなに身体や頭脳が優秀でも、アルファ一家の南條カンパニーには敵わない。
特に極優性である貴志の足元にも及ばないだろう。
貴志の親戚にも、やはりオメガを下に見る人達はいるけど、貴志を含めご両親はそれを良しとしなかった。
その表れが受け持つ会社や店舗などの経営体制だった。
努力と実力があれば、ベータでもオメガでも受け入れ出世できる。
逆に横柄なアルファは容赦なく切る・・・公表した事でその内情が明らかになって、今では求人の応募者が増えていた。
業務体制やオメガ、アルファの発情に備えた待遇も功を奏している。
その事を何より喜んだのが母と父だった。
「天音、綺麗だ」
白のタキシードに身を包み、頭には花冠、後ろには地面に着くほどの長いベールが付いている。
「貴志くんもかっこいいよ」
俺は微笑みながら、俺とは真逆の黒いタキシードに身を包む貴志に言葉を返す。
海の見えるチャペル、式には貴志の家族と俺の家族、そして秀と秀のご両親。
少人数の式ではあるが、花に包まれた華やかな会場。
俺と貴志は手を取り、花で出来たアーチを潜り、サイドにいる両親達に見守れながら司祭の元へと歩く。
婚約式、世間への公表があってから、貴志の強い希望でたった4ヶ月後と言う速さで結婚式が決まった。
俺は毎度の速さに驚くのと、半分呆れ返っていた。
これからもずっと一緒にいるのに何をそんなに急いでいるのかと、説教したくらいだ。
しょんぼりした貴志はボソボソと言い訳を始めた。
「ずっと待ち望んでいたんだ。いくら婚約したと言っても、2人きりで会う事は難しい。それに、天音のヒートに1人苦しませて、側に入れないのがもどかしい」
そう言いながらも、まだしょんぼりと項垂れたまま話を続ける。
「6年間、俺はバカみたいな時間を作ってしまった。未だに後悔してならない。
それに、本当は出会った5月に挙げたかったがそれも叶わない。ならば、離れる前に俺がプロポーズして天音に了承してもらった8月にと思ったんだ。結局、みんなの・・・俺の親の都合が合わなくて9月になってしまったが・・・」
最後らへんは小さな声になってしまった貴志に、俺はしょうがないなとため息をつきながら貴志を抱きしめる。
「離れた6年は取り戻す事はできないけど、これからは2人でその時間を忘れるくらい濃い思い出を作ればいいんだから、もう後悔も焦る事もしないで」
「天音・・・天音は式を早めるのは嫌か?」
「ん〜嫌ではないけど、貴志くんはなんでも唐突過ぎるんだよ。それに周りが追い付くのが必死だ。だから、時には周りと足並みを揃えなきゃ・・・。でも・・・そうだなぁ、俺も早く貴志くんと2人で手を繋いでデートしたいから、今回は賛成かな」
俺の返事に貴志が嬉しそうに顔を上げる。それを見た俺はふふッと笑った。
「貴志くんの頑張ったご褒美だと思えばいい。俺の為に頑張ってくれてありがとう」
そう言いながら俺は貴志の頬にキスをすると、貴志は満面の笑みを浮かべた。
後から聞いた話だけど、俺を見つけたのは本当に偶然だったらしい。
たまたま風邪を引いた母に付き添って病院に来ていた時に、たまたま定期検診で来ていた貴志が俺を見つけたらしい。
その時、すでに予感はしていたらしんだけど、それから俺の事を調べてオメガだとわかって確信したとか・・・それで、俺に会いに来たのだ。
だけど、本当は一目惚れだったと、貴志はそう言葉を洩らした。
「それでは、誓いのキスをお願いします」
司祭にそう言われ、俺たちは向かい合って互いを見つめ合う。
そして貴志の手が俺の頬に触れた瞬間、そっと目を閉じる。
短く重なり合った感触に胸が熱くなる。
ゆっくりと目を開けると、本当に嬉しそうな顔で俺を見つめる貴志がいた。
その目が俺の事を大好きだと言っている気がして、俺も満面の笑みを返す。
犯罪者になりたくないと小さな男の子を警戒していたあの頃、俺の未来にこんな幸せが訪れるなんて思っても見なかった。
いつでも真剣で真っ直ぐに想いを伝えてくれていたあの男の子は、今では見上げるほどの逞しい少年になり、変わらずにまっすぐに想いを伝えてくる。
俺の最高の夫で、運命の番・・・
俺は貴志の手をぎゅっと握り、笑顔でみんなの元へと歩み出した。
これかもこうして歩いていきたい・・・俺の愛する人と・・・
俺は犯罪者予備軍 颯風 こゆき @koyuichi
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