第43話 紡ぐ日々

「天音、綺麗だな。馬子にも衣装ってか?」

茶化すように秀が俺を肘で突く。俺はその手を振り払って、秀の少し曲がったネクタイを直す。

「どっちが婚約者なんだか・・・」

後ろから貴志が不貞腐れた声で、俺達に声をかける。

黒いスーツに身を包み、背筋を伸ばし立つ貴志の姿に俺はにこりと笑う。

今日は、互いのご両親と2人の共通の友人で仲介役としての秀が混ざって、記念撮影をする。

この写真がそのまま雑誌に掲載される。

こちらから出す情報以外に取材は一切受付けない事、過度な接触や情報掲示にはそれなりの対応をするという条件付きだ。

広いスタジオで緊張の面持ちでそれぞれが立ち位置につく。

俺と貴志が前に置かれた椅子に座り、その両サイドの椅子に互いの母親、母親の後ろには父親、その間に秀が立つ。

父親達は母の肩に手を置き、秀は俺と貴志の肩に手を置く。

貴志は俺の手を取り、手を繋ぐ。

俺の膝に置かれたもう片方の手の薬指には、昔、貴志からもらったリングが、貴志の指にはサイズを直したお揃いのリングがあった。

カメラマンの合図に俺達は笑顔を溢した。


雑誌の発売と同時にテレビなどでも報道が始まった。

テレビ関係者にもあの条件は伝えられているので、取材の問い合わせや記者が来ることはなかったが、野次馬のような人達がちょこちょこと現れていた。

その中には客になりすまし、店内に入り込んでくる者もいたが、そこは警備兼従業員の2人が見張りを怠らず、写真を撮ろうとする輩には盾になって対応をしてくれた。

貴志からは一時間毎に大丈夫かと連絡が入り、秀からは有名人になった気分だと連絡が入った。

秀は一度会社に入ってしまえば、中々外に出る事はないので送迎だけ警備が付いた。秀の家族にも離れた場所からの警備が付いている。


公開をすると決めてから、貴志も含めて秀の家族にご挨拶に行った。

怪我をさせてしまった謝罪と、お礼の為だ。

病院に担ぎ込まれた際、一度、貴志と貴志の両親とで話し合いが持たれたようだったが、俺も一緒に改めて挨拶に行った。

その際に公開する件と、今後ありゆる事の話、その対策まで話し合った。

秀の家族は昔から親しくしていたが、この日ばかりは緊張した。

でも、元々明るいご夫婦で、面倒見が良く、本当に秀のご両親だなと思うくらいとてもいい人達で、怪我させた事を責めて立てるのではなく、俺達の婚約を祝ってくれた。

「秀が決めてやっている事だ。もう成人したし、親がとやかく言う事ではない。

それに、こうやって誠意を込めての謝罪と、今後の対応をしっかりしてくれるんだ。ありがたいと思ってるよ」

秀の父親がにこりと微笑みながら話す。その隣で、母親が笑顔で頷く。

「昔から天音ちゃんと秀を見てきたからね。2人が互いに大事な存在だと認め合っているんだもの。2人の身の安全をちゃんと確保できているのなら、何も心配はないわ。それに、天音ちゃんは私達の息子も同然よ。

その天音ちゃんが幸せになれるのなら、喜んで協力するわ。それから、2人の息子達が大事に思っている貴志くんの事も、これからは息子のように接するつもりよ」

2人の温かな笑顔に、俺は嬉しくて目がうるうるしてしまう。

そんな俺を秀が泣くなよと頭を撫でてくれた。

俺は本当に幸せ者だ・・・。


報道があっても俺達は何も変わらない日常を徹底していた。

堂々と振る舞う事で、臆しないという意思表示でもあった。

もう周りの目や言葉に、俺は負けない。

俺の周りにはこんなに素敵で温かい人達で溢れている。

その人達を守りながら、時には守れながら俺達の毎日を紡いでいくんだ。

秀が言っていた様に、俺は世界一幸せなオメガなのだと胸を張って言いたい。

今までのオメガ差別、母が受けてきたた傷、劣性であるが故の弱さ、全部を覆すんだ。

大好きな人達に囲まれて、愛する人のそばで・・・。



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