第42話 決意
退院して自宅へ戻ると、様変わりした雰囲気に俺は驚く。
そばで迎えにきた貴志から色々と説明を受ける。
まず、変わったのが店の入り口だ。
以前あった門は、店を開業する時に取っ払った。
お客さんが入りやすい雰囲気にする為、入り口扉はガラス張りだったが、予算の都合上、手動で開け閉めする扉だった。
だが、今はあったはずの壁が取り壊され、入り口全体がガラス張りで自動ドアだ。
防犯的にはこの方がいいとの説明だった。
万が一、何かあった時に外から見られる事で通報に繋がる。
そして、レジにあるボタンで開け閉めを手動にでき、シャッタも降りる。
俺は呆けながら貴志の説明に耳を傾ける。
レジ横のボタンはいくつもあり、それはすべて監視カメラの物と、緊急用の通報ボタンだった。
監視カメラは客から見えないように入り口に2箇所、店内に3箇所、教室用のフロアに4箇所、計9個だ。
緊急用ボタンは一つ押すだけで、監視カメラを管理する警備会社、警察、貴志の連絡先に連絡が行くようになっていた。
極め付けは2階に上がる階段にセキュリティーが付いた扉が付いたこと。
暗証番号でしか扉が開かないようになっている。
そして、ボディガード兼従業員がまた1人増えた。
「貴志くん・・・これはやりすぎでは・・・?」
少し・・・かなりドン引きの俺に、貴志は足りないくらいだと声を上げる。
「天音の提案を受け入れたんだ。これくらいしないと俺は心配でたまらない」
そう言いながらしょんぼりする貴志に小さくため息をついて、わかったと答える。
「俺の提案を受け入れてくれてありがとう。きっと大丈夫だから・・・俺も家族も秀だってこんなに守れられてるんだから」
俺は項垂れている貴志の頭を撫でながら、本当にありがとうとまたお礼を言った。
退院前・・・
秀が先に退院した後、俺は急に暇になった事で、今回の事をあれこれ考えていた。
そして、退院二日前に秀と両親、貴志を病室に呼び出した。
皆がソファに座ったのを見届けた後、俺は徐に口を開く。
「俺、顔を公表しようと思う」
俺の言葉に皆の驚いた表情と視線が一気に集まる。
「いろいろ考えたんだ。このまま公表しなければ、多少バレる事はあっても平穏な日々が送れる。でも、それじゃあ、またあの人みたいにコソコソと狙ってくる人が現れるかもしれない。その事で、俺だけじゃなくて両親や秀、来てくれるお客さんに迷惑や危害が加わるのは嫌だ。俺は一番それが怖い」
俺の話に皆が黙ったまま耳を傾けるが、貴志が異議を唱えた。
「天音の気持ちはわかるが、また天音があんな目に遭うかもしれない可能性を上げる事には賛成できない。何より俺が嫌だ」
「貴志くん・・・」
「お前と秀が目覚めない間、俺がどんな気持ちだったかわかるか?大事な友人を、愛する人を失くすかもしれないと思うと恐ろしくてたまらなかった。それだけ、秀も天音も俺の人生の一部になっているんだ」
貴志の言葉を後押しするように、父が口を開く。
「そうだね・・・私達もその間は気が気じゃなかった。天音を守って怪我をした秀くんや秀くんのご両親にも申し訳ないし、正直、母さんと話し合ったくらいだ。今までの事やあの日の事を含めて、このまま天音を南條家に行かせる事が果たして正しいのか、本当に悩んでしまった。お前は私達のたった1人の大事な子供だからね」
「父さん・・・」
父の言葉に誰もが口を閉ざし、沈黙が続く。
だが、唐突に秀が口を開く。
「俺は天音の意見に賛成です」
その言葉に今度は秀へと視線が集まる。秀はまっすぐに俺を見つめる。
「天音は強くなる決意をしたんです。俺や家族を守る為に・・・。それは貴志を守る事にもなります。それだけ貴志を想い、堂々と一緒にいたいと言う決意です。
貴志がいない間、近くにいた俺がよく知っています。天音が今まで周りにどんな事を言われ続けていたか。その度に隠れて泣いていた天音をよく知っています。
それが全て天音が劣性オメガだからだと言う事に繋がっている。
だけど、俺は天音は何一つ他の人に劣る所はないと思っています。劣性云々の前にオメガだって幸せになれると、天音が堂々と公表すればいい。その事で周りから妬まれても、何一つ恥じる事はない。俺は天音を応援する」
秀のまっすぐに向けられる視線と、言葉に俺は涙が溢れてくる。
「貴志、公表するにしろ、しないにしろ、お前は万全に天音を守る事は不可能だ。お前もボディーガードだって四六時中一緒にいれるわけじゃないからな。なら、お前が出来る事は全てして、あとは天音を信じろ。俺達を信じろ。天音が俺達を守りたいように、俺も天音のご両親も、そしてお前も一緒に天音を守る。それじゃ、ダメか?」
諭すような言葉で貴志へと秀が視線を向けると、貴志は意を決したように力強く頷いた。
それから貴志が慌ただしく準備したのが、この結果だった。
秀と秀のご両親にはセキュリティーが万全なマンションが手配された。
流石の秀もやり過ぎだと咎めたが、天音を守って怪我した事へのお礼と謝罪、そして大事な友人を守るためだと説得され、渋々了承した。
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