第38話 向けられる視線
次の日、秀から良かったなと短いメールが届いた。
きっと、貴志が報告したんだろうなと思い、俺もありがとうと短い返事をした。
携帯を見つめながら、今までの事を思い出す。秀には沢山迷惑をかけた。
いつか、秀にも大事な人ができた時、俺もこうやって応援してあげたい。
もっと、しっかりしなきゃな・・・そう思いながら、自分の頬を両手で叩いた。
一週間後の店の休日に貴志が両親を連れて、家に訪れた。
よほど嬉しかったのか、すぐにでも結納したいと申し出たからだ。
「この度は本当に息子がご心配をかけました」
会って早々、貴志の父親が頭を下げる。何事かと慌てる俺達に、母親が口を開く。
「私達、てっきり2人で話し合っているものだと思ってて、向こうに行っている間、連絡を取ってなかったというのも、ついこの前聞かされたんです。どうりであんなに楽しみにしてたのに、なかなか話を出さないから、ずっと不思議に思っていたんです」
申し訳なさそうな顔をするご両親に、俺は苦笑いをする。
「それが、突然、すぐにでも婚約したいと言ってきて・・・急にお時間作って頂いて本当に申し訳ない事ばかりです」
「大丈夫ですよ。私達よりご両親が忙しいんですから、気になさらないで下さい」
慌てる父に、何度もすみませんと2人は溢した。
「早速ですが、今日は事前にお話したように結納を簡潔に済まして、改めてお披露目の場を持ちたいのですが、参加頂けますか?」
貴志父の言葉に、俺達家族は急に緊張した面持ちではいと答えた。
「マスコミは一切入れずに、身内と会社の重役だけを呼ぶつもりです。なので、天音くんの顔は公表される事はないのですが、以前の件もありますので確実にという断言はできません。その代わり、深見家の安全は万端にします」
重々しい話に顔が引き攣る。
きっと以前と同じ様な事が起こる。沢山の視線を向けられるはずだ。
「正直怖く無いとは言えません。でも、周りからの視線は、貴志くんと離れている間も大なり小なりありました。その度に、家族や秀に支えられてきました。
その中で俺も少しは強くなったと思います。それに、逆に公表する事で俺は堂々と貴志くんの隣にいる事ができます。貴志くんを支えられる年齢にもなりました。
まだまだ周りに支えてもらう事が多いと思いますが、俺はこの先何があっても貴志くんの隣にいたいです。貴志くんとやり直すと決めた時に、覚悟は決めました。
俺は大丈夫です」
力強く答えた俺に、貴志は目を潤ませ、ご両親は優しく微笑んでくれた。
会場の手配などは南條家に任せ、俺達家族は身内の招待状と、当日テーブルに飾れらる花のセッティングを頼まれ、仕事しながらも両親を交え何度も話し合いをしていた。
それと言うのも、貴志が一ヶ月後という脅威のスピードで日取りを決めたからだ。
正直俺は、嬉しさ半分と呆れ半分だ。
そんな中でも、貴志は頻繁に家へと通ってくれていた。
時には嫌がる秀を誘って、早朝に花の仕入れに付き合ってくれたり、店仕舞いの手伝いに来たり、何かと理由をつけては店の手伝いをしていた。
このままでは倒れるんじゃ無いかと心配する俺を他所に、今まで1人で辛い思いをさせてきたから少しでも力になりたいと言い張っていた。
そのうち、また俺のヒートが来て店を臨時休業した。
貴志は心配して一日に何度も電話をよこすものだから、俺はついに声を荒げる。
「こう言う時くらいちゃんと家に帰って休んでよ!何度も電話きたら俺も休めないじゃないか!」
弱々しい声でも、俺が本気で怒っているのを察した貴志の落ち込みは、秀へと向かう事になり、ヒート明け、秀から恨みつらみのメールが届いた。
ヒート期間と別に一日余分に休みを取っていた俺達家族は、貴志に連れられて会場となるホテルに案内された。
一番広い会場があるフロアは安全対策で、全貸切になっている。
当日は立食になるが、食事が並べられるテーブルとは別に20個くらいの小さなテーブルが並べられる。
親戚同士や会社の重役などが集まれば、自然にあいさつが交わされる。
その時に飲み物などを置けるように用意されている。そのテーブルに小さな花籠を飾るのが俺達の仕事だ。
本当は会場全体の花をやりたいけど、人手のない小さな店にはこれが手一杯だ。
その代わり、以前勤めていた花屋を紹介した。
そこならチェーン店だから応援で人手もある。オーナーには凄い感謝されたけど、俺としても安心して任せられるから一石二鳥だ。
会場の雰囲気を見ながら花籠の大きさなどを母と相談していると、貴志から提案を受ける。
それは、花言葉を交えた花籠はどうだという提案だった。
彩りや豪華さなどだけを考えていた俺と母は、きょとんとした顔で貴志を見つめる。
俺達を心から祝福して欲しいという願いを込めて、テーブルには感謝や縁を繋ぐという意味合いの花にして欲しいという事と、互いの両親、俺と貴志、秀に胸元に飾る花を俺に選んで欲しいという貴志の希望でもあった。
それに貴志は言葉を足す。
「俺達は出会った頃から花言葉を通して想いを伝え合ってきた。だからこそ、花言葉に拘りたいんだ」
俺と母はその言葉を聞いて、素敵ねとその提案を笑顔で引き受けた。
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