第37話 伝わる想い
レストランを出て、先に送ってもらった俺は部屋に荷物を置いた後、向かう時は時間がなくて汗を流しただけだったから、お湯に浸かりたくて着替えを持って風呂場へと向かう。
体を洗っている間に溜まったバスタブに入ると、体の力が抜けて全身が緩む。
そして、楽しかったレストランでの会話を思い出し、1人ふふっと笑う。
昔みたいに自然に話ができて良かったと思いながら、いつもより長めに風呂に浸かる。
部屋に戻ると、携帯に着信が何件も入っていたのに気付く。全部、貴志からだ。
何かあったのかと慌てて電話をかけると、ワンコールの途中ですぐに繋がった。
「貴志くん、どうしたの?何かあった?」
「いや、あの、その、これはどういう意味なのか、知りたくて・・・」
「何が?」
「花言葉・・・」
その言葉に、俺は顔が熱くなる。
「そのままの意味なんだけど・・・」
「そ、それは俺に愛想がつきたと言う事だろうか?」
「え?」
「その、この花はアネモネだろう?この花は恋に悲観した花言葉ではないのか?」
そう言われて、俺はしまったと気付く。
アネモネは確かに恋に悲観した花言葉が有名だ。それはギリシャ神話に由来しているからだ。だけど、それは色によって言葉が違う。
俺はその事を先に伝えた後、少し照れながら本当の花言葉を伝えた。
貴志へ包んだアネモネは3色。
「ピンクのアネモネは希望、紫のアネモネはあなたを信じて待つ、赤いアネモネは・・・あなたを愛す・・・」
そう言い終えた後、俺は恥ずかしさのあまり口をつぐむ。
しばらく沈黙が続いた後、電話先から少し震えた声が聞こえる。
「それは・・・もう一度・・・俺の恋人になってくれるという意味か?」
「・・・・うん」
「そ・・うか・・」
小さな声で言葉を残した後、また沈黙が続く。
俺は居た堪れなくなって、声をかけようと口を開くと、耳元に微かに鼻を啜る音が聞こえた。
「貴志くん・・・どうしたの?泣いてるの?」
「あぁ・・・すまない・・・嬉しくて・・・天音、俺を許してくれて・・・ありがとう・・・本当に・・・本当に心から嬉しい・・・」
「・・・・うん。俺ね、本当は離れている時間が長かったせいで、心のどこかで諦め始めてたんだ。きっと、貴志くんは別の人と出会って、もう帰って来ないかもしれないって。それならそれで、貴志くんの幸せを願わなきゃいけない、元恋人ではなく友人として・・・それくらいは、望んでいいんじゃないかと思ってた。
だから、まだ早いかなって思ったけどお店立ち上げる事にしたんだ。
仕事先から打診されてたのもあったけど、俺と母さんの夢背負って、責任も負って自立してく事で貴志くんへの気持ちも変わって、前を向けると思ったんだ」
鼻を啜る音に混ざって、小さな嗚咽が聞こえる。
俺はそのまま言葉を繋いだ。
「実際ね、店の準備を始めたら、貴志くんを想う事はあっても今までみたいに、寂しいとか悲しいとかの感情に執着しなくなってた。だから、きっと大丈夫だと思ってたんだ。でもね、貴志くんが帰ってきてくれた時、正直、戸惑った。
気持ちの整理が着き始めてたし、今さら何だよって気持ちがあったから・・・。でも、貴志くんの話聞いて、何度も会ってるうちに悔しいけど、やっぱり好きなんだと思い知らされた。俺、貴志くんのそばにいたい。いてもいいかな?」
「あぁ・・・あぁ、もちろんだ。俺も天音に側にいて欲しい」
掠れた声で伝えてくれる言葉に、俺は笑みが溢れる。
「貴志くん、一度は解けかけた縁を俺はまた2人で繋いで行きたい。店も開いたばかりだし、貴志くんも帰ってきたばかりで大変だろうけど、今すぐじゃなくていいから、俺と結婚してください」
自然に溢れ出る言葉に、貴志は小さな声ではいと答えた。
それから貴志が落ち着くまで、俺は言葉を囁き続けた。
何度も何度も大好きだよと囁き続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます