第21話 アリスと小悪魔うさぎ

「か、可愛すぎる・・・」

来るとは知っていたが、突如として現れた貴志の固まった表情に連れられて、俺も固まる。

見られたという羞恥心より、貴志の頭に視線が釘付けだ。

その隣で意味深に笑う秀が立っていた。

「どうよ?俺の準備した物はお気に召したか?」

自慢げに秀は掌を堪能あれとばかりに貴志へと向ける。

俺と貴志は互いに見つめ合ったまま固まっていたが、そばから女子の叫び声が聞こえ我に返る。

「きゃー!!何、この子!可愛い!!」

その声と同時に、貴志は複数の女子にあっという間に取り囲まれる。

姿が見えなくなり、焦る俺と裏腹に秀が邪魔でーすと人並みを掻き分け、貴志を連れ出す。

「この子はもうお手つきなので、無理でーす」

「秀、独り占めなんてずるい!」

「そうよ!それに、この子・・・アルファでしょ?」

その言葉に俺は慌てて貴志の元へと駆け寄る。そのまま抱き抱えると、並ぶ教室の端まで駆け出した。

「天音〜そのまま休憩いいぞ〜」

後ろから秀の声が聞こえるが、俺はただひたすらに人影の少ない場所へと走った。


「ここならいいかな・・・?」

息を切らしながら俺はいつの間にか、校舎裏まで来ていた事に気付く。

「あ、天音。下ろしてくれないか?」

そう言われ、腕の中に貴志がいる事を思い出す。

ごめんねと言いながら慌てて下ろすと、ほんのり耳を赤らめた貴志が来ていたジャケットを脱ぎ出した。

「天音、腰にこれを巻いてくれないか?目のやり場に困る」

俺も釣られて顔を赤ながらジャケットを受け取ると、言われるがまま腰に巻く。

今の貴志とは身長差がかなりある。

オメガである俺は平均より小さめだ。そんな俺のちょうど腰を過ぎたあたりに貴志の頭がある。

それは、膝上丈のスカートから見える太ももに、視線が近い事を意味していた。

「た、貴志くん、午後から来るんじゃなかったの?仕事は?」

「あ、あぁ。今日が楽しみ過ぎて昨日の内にある程度は片付けたから、今日は必要書類に目を通すだけだったんだ。思った以上にそれが早く終わってな」

「そ、そう」

互いに照れくさくてモジモジしながら立ち話をしていると、貴志がふっと笑みを溢した。

「天音が可愛すぎて、柄にもなく緊張してしまった」

「可愛いって・・・俺は嫌だよ・・・恥ずかしいし・・・」

「そうか?でも、本当に可愛いぞ?ただ・・・」

「ただ?」

「スカートが短すぎないか?これでは天音の肌が皆に見られてしまう」

「・・・うん。俺もそう思う・・・男の太もも見ても気持ち悪よね」

「天音、そうではない。たださえ容姿が可愛いのに、この綺麗な足が目に止まれば周りの男連中が大変な事になると言っているんだ」

その言葉に全身が熱くなるのがわかる。

「実際、俺も危ない。それに、俺以外に見られていると言うのも不愉快だ」

怒ったような口調でそう言い放つ貴志が何故か可愛く思えて、天音はふふッと小さく笑った。

「そう言えば貴志くん、なんでウサ耳?」

「あぁ、これは秀が付けろと渡してきたものだ。なんでもアリスとウサギはセットらしい。それに、俺は構わないが、俺の年齢的に俺達は堂々と婚約者と名乗れないから、せめて仲の良い友達程度がいいと秀が言っていたんだ。これならお揃いでなくてもセットで見られるし、天音の立場的にもいいと・・・」

「そう・・・秀には感謝しかないね。実はね、俺、毎日があっという間に過ぎてる事が寂しいって秀に愚痴ったの」

俯きながらそうぼやく俺の手を、貴志が手に取り優しく微笑む。

「寂しいか?」

「うん。だって、もう秋も終わるよ?冬が来て春になれば、秀も貴志くんもいなくなっちゃう・・・寂しいよ。でも、秀が縁が切れる訳じゃないし、俺に何かあったら飛んでくるって、貴志くんもそう思ってくれてるはずだって・・・」

つい言葉を詰まらせてしまった俺に、貴志は掴んで手を優しく撫でてキスをする。

その仕草が、自分もそう思っていると答えている様に見えて、俺は安堵して言葉を繋ぐ。

「貴志くん、俺、寂しい時に寂しいって言ってもいいかな?」

「もちろんだ。逆に我慢しないで言って欲しい」

「うん・・・・ありがとう」

目頭が熱くなるのをグッと耐えながら、小さく微笑んでみる。

貴志は背伸びしながら手を伸ばし、俺の頬を撫でる。

「大丈夫だ。俺は変わらず天音を想っている。決して途切れる事はない。俺も寂しくは思うが、天音を信じている。だから、俺は大丈夫だ」

そう言って微笑む貴志の笑顔が心底嬉しかった。

「さぁ、学校を案内してくれるか?本来ならウサギの俺がエスコートするんだが、天音が普段過ごしている場所を見たい。どんな所で笑い、何を思うのか、教えて欲しい」

貴志は俺の手を引き、歩き始めた。

その後を俺は嬉しそうについて行く。だが、急に足を止めて貴志が振り返る。

どうしたのかと不思議そうに見つめる俺に、一通り俺の全身を見つめた貴志がニヤリと笑う。

「いや・・このまま俺がエスコートして家に連れ帰ってもいいかもしれない。天音のこの可愛い姿を、俺の家に閉じ込めて、俺だけ特権で天音を鑑賞するんだ」

本気か冗談かわからない言葉に、俺は顔を真っ赤にしてダメだと叫んだ。

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