第20話 寂しい

「なんか、一日終わるの早くない?」

俺は秀と帰宅しながらポツリと呟く。

「どうした?急に・・・」

「だって、夏休みが終わったと思ったら、もう学園祭の準備してるんだよ?」

「だな。すっかり秋めいちゃって10月半ばにもなると、朝方とか少し肌寒いもんな。あーっという間に卒業式も来ちゃうんだろうな」

「やめてよ。余計に寂しくなっちゃう」

「結局そこか?」

秀は揶揄うように笑う。俺は膨れた顔で秀を睨む。

「何だよ?素直に貴志に寂しいって言えばいいじゃん」

「・・・言えるわけないじゃん。それに、それもあるけど秀がいなくなるのも寂しい」

「何だよ。俺には言えるのか?」

「秀も俺にとっては大事な人だもん。貴志くんとは違うけど、とても大事な人だもん」

「もん、もんって・・・」

呆れたように笑う秀に俺はボソリと漏らす。

「だって、春になったら俺の大事な人が2人もいなくなるんだよ?寂しいに決まってるじゃないか」

「お前な・・・」

秀は俺の頭をグシャグシャに撫で回す。俺はやめてよと言いながら、その手を振り払う。

「何もこの先会えないわけじゃないし、縁が切れるわけでもない。天音に何かあったら駆けつけるし、それは貴志も同じ気持ちだ。先の心配とか寂しさに負けないくらい思い出を作ればいいし、何なら毎日電話してやろうか?」

「いいの!?」

「ばーか。また貴志に浮気だと疑われる。そうだな、週2くらいは電話してやる」

「週2・・・」

「そうだ。ありがたいと思え。いくら友達だからって週2も連絡してくれるやつは俺しかいないぞ?それに毎日電話して、貴志と時間が被ったら俺が怒られる。たださえ海外とは時差があるんだ。貴志優先は当たり前だろ?」

「そうだね・・・ダメだ。やっぱり寂しい・・・」

「そりゃあ、秋だからだ。そう思っとけ。それより、学園祭は貴志呼ぶのか?」

「うっ・・・」

「何だよ?呼ばないとあいつ悲しむぞ?」

「だって・・・」

いつもなら俺も喜んで誘う。でも、それを渋る理由があった。


ベータとオメガの共学校に本来はアルファは入れない。入れたとしても特別に許可を貰った身内だけで、それでも0〜12歳まで、あとは成人している人と年齢制限されている。

貴志は年齢的に問題ないし、婚約者だからほぼ家族のような者だ。

だが、渋るのはそれが問題ではなく、俺達のクラスの出し物だった。

「あ、貴志?今、電話大丈夫?」

秀の声に俺は慌てて携帯を取り上げる仕草をするが、俺より背の高い秀にはとても敵わない。

「ほら、この前話した学園祭、俺が招待状用意するから来るか?」

「ダメっ!」

「あぁ、天音だけど、いいのか?来ないと一生後悔するぞ?いいのか?」

「ダメったらダメ!」

一生懸命手を伸ばすが、秀はそれをひょいひょいと交わす。そして、口元を隠しコソコソと話し始めたかと思ったら、すぐに電話を切った。

「何が何でも来るってさ」

「・・・言ったの?」

俺は睨みがなら秀に尋ねると、秀はニカっと笑った。

「楽しみにしてるって、天音の女装姿」

その言葉に俺はショックを受ける。

俺達のクラスは普通の喫茶店だ。だが、宣伝とウケを狙って、入り口の受付係を男子だけでクジを引いて、当たった2人は女装するのだ。

そう、俺はその当たりクジを引いてしまったのだ。

そして、もう1人は秀だ。

「俺もメイク頑張って、貴志を喜ばせないとな。頑張ろうぜ、天音」

秀はそう言って声を出して笑った。


二日後、教室で当日着る衣装を見せられ、俺は更にショックを受ける。

「何で・・・なんでっ!?秀は長いチャイナドレスなのに、なんで俺はミニスカートのコスチュームなの!?」

「いや、俺、背高いからチャイナが似合うってなったんだよ。それに、俺がミニ着たらすね毛がやばいだろ?たった一日の為に剃りたくないし」

「でも!これ、ミニすぎない!?これ、アリスなんだろ?アリスってこんなミニ履くのか?俺だって一応すね毛あるんだぞ?」

懇願するように秀にしがみ付き、同意を求めるが、秀は首を振り、信じられない言葉を放つ。

「お前のは毛は毛でも産毛っていうんだ。生えてないのと一緒だろ?」

その言葉に、以前貴志の家で言った秀の言葉が蘇り、怒り任せに秀の肩を思い切り打った。

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