第12話 友達として
「どうして断言できるのだ?天音の可愛さに、長年一緒にいて気付かない訳が無いだろう」
「ないね。無いったらない」
言い合いを始めた2人にオロオロしながら、何の話?と口を挟むと勢いよく貴志が俺に顔を向ける。
「秀が天音を好きだという話だ!」
「えっ!?」
「だから、それは無いって」
「何故だ!?」
「待って、俺、余計にわからない」
「そうだぞ、貴志。勝手に俺の気持ちを決めるんじゃない」
「では、断言できる理由を言え」
「えー・・だって、俺達は幼馴染で友達だ。友達を超えた大親友だ。確かに庇護欲とか独占欲はある。天音を可愛いと思う気持ちもある。それは恋に近い感情かもな。だが、大きな理由がある」
「・・・なんだ?」
「好きな人には触れたいとか、キスしたいとか思うだろ?俺は天音に対してそういった感情は一度ももった事がない。それは断言できる」
「・・・何だろう。そこまで断言されると、告白してないのに振られた気分だ」
胸を張った秀の言葉に、俺は何故かがっかりする。
「・・・天音はどうだ?」
「えっ!?お、俺もないよ。でも・・・秀とはずっと一緒にいたい。もちろん友達として。それくらい俺の人生には秀がいつも一緒だったし、大事な幼馴染で親友だと思っている」
「どちらにせよ、ライバルである事には変わらないのか・・・」
珍しくしょげる貴志に、秀が元気出せと肩を叩く。
「貴志はこれからの年月を一緒に過ごせばいい。そうしている内に、俺が知らない天音を知れるかも知れないだろ?そうなるように天音に寄り添えばいい。だけど、天音が悲しむ時は俺はそばで寄り添うし、困った事があれば全力で力を貸す。それが親友ってもんだ」
「秀・・・・」
「まぁ、これからはそれはお前の役目だけどな」
そう言って、また貴志の肩を叩くと、貴志は顔をあげる。
「もちろんだ。任せてくれ」
「あぁ。ここから先は極力お願いしたいが、もし天音が俺を頼って来た時は、俺が守るからな。それが、どういう意味かわかるよな」
「あぁ。そんな事がないようにしてみせる」
「えっと、さっきから急に話逸れて2人だけの会話になるの、やめてくれる?俺にもわかるように話してくれないかな?」
「男として、友としての秘密の話だ」
「そうだ。天音は知らなくていい」
何故か2人が意気投合している事に、だったら2人の時に話せよとブツブツ言いながらジャグジーから出ると、腰にかけてあったタオルが落ち、俺の尻が丸出しになった。
それを見た貴志が慌てて顔を背けるが、それを見た秀はひねくる様な声で笑いながら言葉を発する。
「ほらな。俺は天音の裸見て、鼻血なんて出さない。せいぜい、やっと毛が生えそろってきたな、くらいだ」
「秀っ!」
急な秀の暴露に、俺は居た堪れなくなって顔を赤くしたまま風呂場を出た。
オメガは普通の男性と違って中性的だ。
成長過程も一般男性とは違う。薄い体毛、付かない筋肉に既に止まった身長、一緒に遊び回っているのに何故か黒くならない肌、顔付きも・・・付いている物も幼い。俺にとっては何もかもがコンプレックスだ。
顔の火照りが治らないまま、俺は1人着替えてリビングへと向かった。
風呂から出てから三人でゲームを始めたが、俺は一日遊び回ったせいで、コクリコクリと船を漕ぐ。それを見た秀が今日はお開きにしようと声をかける。
俺は賛成と言いながら立ち上がると、眠気からか足元がふらつき、倒れそうになった所を秀と貴志に支えられた。
無論、支えると言っても、秀が腕を掴み、背の低い貴志は腰を両手で支えている程度だったが、その姿が可愛くてふふっと声を出して笑う。
それが気に入らなかったのか、貴志はブツブツと文句を言うが、それを宥める様に秀が口を挟む。
「そのふらつきじゃ階段登るのは危険だ。貴志がいつもみたいにエスコートしてやれ」
「それもそうだな。天音、俺の手を掴むといい」
そう言って差し伸べた手を、俺は素直に取り歩き出す。
階段を上り切ると、秀は大きな欠伸をしながらおやすみと声をかけて部屋へと入っていったが、貴志は俺の部屋の前で足を止め、真っ直ぐに俺を見つめた。
俺がどうしたんだろうと見つめ返していると、貴志がにこりと微笑む。
「俺は生えそろってなくても、気にしないぞ。むしろ、可愛いと思う。ちなみに俺も生え始めたばかりだ」
そう言って、俺の手にキスをしておやすみと言い、下へと降りていく。
その後ろ姿を、何を言われたのかわからない状態で見つめていると、隣の部屋から秀の爆笑する声が聞こえ、みるみる自分の顔が熱く火照っていくのを感じる。
「もぉー!秀が悪い!」
そう大声で叫んで部屋に入り、頭から布団を被った。
恥ずかしすぎる!!
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