第11話 友達
結局、その日は夕食までダラダラと過ごした。
秀が起きてきてからは、また出前を取ろうとする貴志の言葉を遮り、冷蔵庫にある物で一緒にご飯を作ろうと俺が提案すると、秀がいいねと賛成し、三人で台所に並ぶ。
家政婦さんが揃えてあったのか、冷蔵庫にはいろんな食材があったが、俺達の腕前は知れているので、オムライスとサラダ、スープを作る事になった。
貴志はオムラスは初めてだと喜び、慣れない手つきで手伝ってくれた。
祭りの日から感じていたが、貴志は時々こうして子供っぽい表情をする。
本来の姿はこうなのかもしれないと嬉しく思う反面、後継者として、優性アルファとして育ってきた貴志を思うと、胸がチクリと痛む。
作り終えて、美味しそうにオムライスを頬張る姿は尚更胸を痛ませた。
「昨夜の話を聞いて考えたんだが・・・」
食器を洗い終え、ダイニングに座るやいなや貴志が口を開く。
「天音のご両親との約束もあるから勉強はしなくてはならないが、勉強は学校の宿題の時間としよう。きちんと宿題を終わらせれば、ご両親も少しは安心するはずだ。だから、明日は予定通り勉強をする。だが、他の時間や今後の時間は、勉強を半分、残りは天音のやりたい事を見つける時間に充てようと思う」
「え・・・?」
「勉強は大事だ。備えておけば、見つかった時に動ける。だが、その前に目的が見つからなければやる気は削げていく。だから、尚更、明確でなくてもやりたい事を見つけるのが一番大事だ。それが、自分の自信にも繋がる」
貴志の言葉に不安からか秀を見つめると、秀はニカっと笑う。
「俺はいい提案だと思うけど?それに、貴志がそう言ってくれるという事は、もし2人が一緒になっても、貴志は天音を家に縛り付けずに、天音のやりたい事を尊重してくれるって事だろ?」
「もちろんだ。俺は天音がそばで笑って過ごしてくれれば、それでいい。狭苦しい世界に閉じ込めるつもりはない。もちろん、後継者の嫁として少し社交会に参加しざる負えない事はあるが、それも俺がしっかり支えていくつもりだ」
「貴志くん・・・」
2人の話に目を潤ませていると、秀がそうだ!と声を上げる。
「なぁなぁ、ここの風呂って大きいじゃん。ジャグジーみたいなのもあってさ、三人でも余裕で入れる」
「・・・・いや、それは・・・」
「何だよ。俺と天音はたまに一緒に入るぞ?」
「・・・何故だ?」
「た、貴志くん、それは子供の頃で、今はたまに一緒に銭湯に行くってだけで・・」
「何だよ?友達なら普通だろ?それに、子供の特権だ。一緒に入りたく無いのか?」
ニヤニヤしながら貴志を見る秀に、貴志は睨みをきかせながら低い声で入ると呟いた。
「貴志って声変わりまだだよな?」
シャグジーに入りながら、秀がポツリと呟く。その問いかけに、貴志はムッとしながらまだだと答える。
「そっか。さっきの凄み、正直ドキリとした。今まで俺もアルファと接触した事ないからわかんなかったけど、あれがきっとアルファの威厳なんだろうな。それが、声変わりしてない前だとすると、その後だと俺、震えちゃうかも」
茶化すように話す秀に、俺もと小さく相槌した。
「友達に威嚇などしない。恋人なら尚更だ。もし、そう感じたならすまない。無意識だった」
「いいよ。ただ、これから成長していく貴志を見ていくのが楽しみだなって思っただけ」
「そうだね・・・きっと凄いアルファになると思う」
相槌を打ちながらそう呟いたが、心の中では少し寂しくもあった。
「俺なんかにはもったいない・・・」
心の中で漏らしたつもりが、声に出てしまっている事に気付き、慌てて誤魔化す。
「ち、違うよ。きっと誰もが振り向くくらいのかっこいいアルファになるって意味だから・・・」
「天音、俺はどんなアルファになろうが、天音を想う気持ちは変わらない」
「そうだ、そうだ。天音、貴志を信じろ。俺にだってわかる。貴志がどれだけ天音を好きか・・・それに、お前は俺の知る中で断トツにいい男だ。逆に貴志が天音を無碍にするようなら俺がぶっ飛ばす」
「そんな事はしない。約束する」
「そうだ。約束してくれ。じゃないと俺が困る」
秀の言葉に貴志が眉を顰める。
「もしかして、秀は・・・」
「それはない」
2人の会話の意味がわからず、俺は何故か秀を睨む貴志と、反してドヤ顔で微笑む秀を交互に見ていた。
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