第10話 慣れ
翌日、貴志を仕事へ見送った後、家政婦さんの掃除の邪魔になるからと言い訳を並べた秀に誘われ、マンション中央階にあるプールへとやってきた。
そう、このタワマンの中央階にはプールと、小さめのジムが完備されている。
貴志から自由に使っていいと言われ、秀は大喜びでプールへと向かう。
受付で貴志に渡されたカードを見せ、貸し出しの水着を受け取る。
プールは片道25mの普通のプールだが、外の景色が丸見えの大きな窓に、傍にある休憩スペースではサービスだとドリンクが出され、俺達は舞い上がる。
2時間ほどで戻る予定が、人がいないのもあって午前中ずっと泳ぎ続けた。泳ぐというよりははしゃぎ続けた。
お腹も空き、部屋に戻ると家政婦さんの昼ご飯が用意されていて、至れり尽くせりの待遇に更に舞い上がった。
昼食後、家政婦から夕食はいらないと聞いているのでお暇すると言われ、2人で丁寧に挨拶して見送った後、今度は貴志が秀の為に用意したというゲームの数々を引っ張り出す。
「秀、流石に遊びすぎじゃない?」
「貴志がいいって言ってただろ?それに、夜からは勉強会だ。今遊ばなくていつ遊ぶ?それに、こんな大画面のテレビでゲームができるんだ。これほど、最高な事はないだろ?」
「そうだけど・・・俺達、こんな贅沢に慣れ過ぎたら・・・」
「天音、考えすぎだ。毎日こうじゃないし、俺達がそういうつもりで貴志と付き合っているわけじゃないって貴志もわかってくれてる。まぁ、甘えてるってのは当たってるけど、貴志にとっても悪い事じゃないと思うんだ」
「どうして、そう思うの?」
「だって、あいつ、今までずっと1人だったろ?それが当たり前みたいな物言いするし・・・友達だって家に呼んだ事もないはずだ。俺達が貴志と一緒にいて楽しいってのが伝わるのは、貴志にとってもいい事だと思う。それに、自分の家が明るいっていいもんだろ?いってらっしゃいとか、おかえりって言ってもらえる事も・・・それに、半分以上は下心だ」
「下心?」
「そう。お前に対する貴志の下心。俺にも天音にもよく思ってもらいたい。だから良くしたい。加えて天音が惚れてくれたら万々歳。その下心を受け取ってやるのも俺とお前の役目だと思わない?」
「でも・・・」
「変に罪悪感なんて持たなくていい。少なからずお前も惹かれてはいるんだろ?想うのは自由だ。手を出すのを我慢できれば」
そう言って笑みを浮かべる秀の肩を、俺は何言っているのだと叩く。
でも、秀の言葉が不思議とすんなり胸に入っていく。俺の不安を削ぎ落とすように、蓋を開けてもいいんだと促すように、ストンと落ちる。
「秀・・・ありがとう」
「おうよ。それよりゲームやろうぜ。このバトルのやつ、一度大画面でやりたかったんだ」
目をキラキラ輝かせながら微笑む秀に、俺は笑いながらそうだねと答えた。
「ん・・・」
体に何か掛けられた気がして、重い瞼を開けると貴志の顔が目の前に見えて、いつの間にか寝てしまっていた自分に気付く。
「すまない、起こしてしまったか?よく寝ていたから、布団をかけようと思っていた」
「大丈夫です。貴志くん、お帰りなさい・・・あれ?秀は?」
上半身を起こし、辺りを見渡すと一緒のソファーにいたはずの秀の姿が見えず、辺りをキョロキョロと探す。
「あぁ。先に俺に気付いて起きたんだが、もう少し寝たいと部屋に行ってしまった。天音ももう少し寝るのであれば、部屋に戻るといい。ここでは風邪をひいてしまう」
貴志はそう言って俺の頭を撫でる。半分寝ぼけているのもあるが、貴志が撫でてくれている手の温もりが心地よくて目を閉じて、うっとりする。
すると、貴志が急に手を止める。
不思議に思って目を開けると、貴志は最初驚いた表情をしていたがすぐにニコリと微笑む。
「そんな顔をしてはダメだ」
「え・・・?」
「そんな可愛い顔をしていると抱きしめたくなる。あぁ・・こんなに悔しいのは初めてだ。何故、俺はまだ子供なんだろうか」
その言葉達を何度も頭の中で再生すると、その意味が見えてきて俺は赤面する。
「本当に天音は可愛いな」
俺と違って余裕な笑みを浮かべる貴志だったが、耳がほんのり赤いのが見えて、俺は鼓動が早くなるのが止められずにいた。
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