第9話 悩み

「秀、お前は本当に勉強をしなくていいのか?」

その日の夜、出前を頼んで置いたと言われ、届いた普通の出前ではない出前に俺達は驚きはしたが、それの美味しさにすぐに夢中になった。

食事を進める中、貴志から勉強の日程を伝えられる。

仕事をしながらの合宿だ。そこは貴志に合わせるしかない。

明日は、仕事から帰宅した夕方から夜まで、次の日は一日休みを取ったとかで休憩を挟みながら勉強、最終日は午前中だけ仕事があるので午後からとなった。

意外にもしっかりと計画を立てているのに、俺はびっくりする。

逆に、それが不服だったのか、秀はゲェと悲鳴をあげる。

その事に対しての質問がさっきの言葉だ。


「俺の希望している専門学校は面接だけだ。学校の成績は悪い方じゃないし、多分内申も大丈夫。どっちかと言えば、天音が心配だな」

「うっ・・・」

「そんなに酷いのか?」

「ん〜俺は中の上ってとこだけど、天音はほぼほぼ下寄りの中の下ってとこかな。それに、まだ進学校を決めていない。そこが一番やばい」

「そうなのか?」

驚いた表情で俺を見る貴志に、俺は何故か申し訳ない気持ちになり俯く。

「将来、やりたい事とかないのか?まぁ、急いで決める事はないが、色んな可能性を見据えての大学選びでも良いと思うんだが・・・」

「貴志、違うんだよ」

「何がだ?」

「まぁ、何がやりたいのかわからないってのもあるんだけど、天音の心配事は別だ」

「別・・・とは?」

「ほら、オメガって社会に出るとあまりいい待遇はされないだろ?就職すら難しいから挫折するオメガは多い。その先がどうなるかも大体決まってる。だからこそ、将来が明確に想像できないんだ。それに、社会に出る前の難関がある。それが大学だ。

いくら徹底的にアルファを教育してとしても、オメガにとっては初めて接触するアルファが脅威でしかないんだ。どんな反応を起こすかわからないからな。オメガの為に作られた法があっても、そこら辺は盲点でしか無いよな」

並べられる秀の言葉に、俺は呆然と秀を見つめる。


秀には事細かにそんな悩みを打ち明けた事がない。俺自身が弱いのだと思っていたのもあったし、性別を気にも留めずに接してくれる秀に、聞かせたくない悩みだったからだ。

対等に接してくれる秀との関係を、こんな悩みで心配かけさせたくなかった。

もっと本音を言えば、秀と対等な友達でいたかった。だから、話せなかった。

それなのに、秀はここまで理解してくれる。

それが嬉しくて涙が溢れる。

「何だよ。何、泣いてるんだよ」

「だって、俺、何も言ってなかったのに・・・」

「何言ってるんだよ。俺達何年一緒にいると思ってるんだ?生まれた時から一緒だぞ?お前が何で悩んでるかくらい、わかってるよ」

秀は笑いながら俺の頭をくしゃくしゃに撫でる。俺は小さな声でありがとうと呟いた。そんな雰囲気の中、盛大なため息が聞こえた。

その声に俺達は貴志へと顔を向ける。

「もの凄い妬けるな。年が離れているし、今まで出会う事がなかったから仕方ないとは言え、天音を充分過ぎるほど理解している秀に嫉妬する」

不貞腐れた様に呟く貴志に俺達は固まるが、今度は優しい笑みを溢して、俺にティッシュを数枚取り手渡す。

「だが、妬ける前に天音にいい友がいてくれた事が嬉しい。アルファ同士はどちらかと言えば、損得で友を作る。肩書と飛び級をした俺には、そんな奴らが群がってくるから秀みたいな友はいない。強いて言えば、岬だけが信頼できる友と言える。秀、これからも天音をよろしく頼む。それから、俺ともいい友になってくれるとありがたい」

貴志の意外な申し出に、秀はニカっと笑う。

「何言ってるんだ?もう友達だろ?」

「そうなのか?」

「そうだよ。友達ってのはいつの間にかなってるもんだ。正式に友達になってくれなんて言うのは貴志だけだ」

秀の言葉に俺は可笑しくなって声を出して笑った。それに釣られたのか、秀も貴志も声を出して笑った。

その夜は、食後もたわいものない話をして過ごした。

とても心地良い時間だけが過ぎていった。

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