第13話 俺の未来
翌日、朝から勉強モードに入る。
秀も宿題を早く終わらせたいのか、一緒にノート開き、手を動かす。
貴志は中央に座り、俺達に勉強を教えながらノートパソコンを打つ。
休憩の時に仕事かと尋ねたら、学校の課題だと答えた。
アルファの高校ではほとんど宿題はなく、自主勉学らしい。そして、夏休みの宿題は大抵、論文に似た課題とか。
これも上に立つアルファとしての勉強の一環で、大学や将来を見据えての練習を兼ねた論文に似た課題をする。題材は自由だ。
ちなみに貴志は海外の経済志向について調べているらしいが、俺にはさっぱりわからない内容だった。
それより、俺には今日の宿題ノルマがある。
貴志がいる間にわからないところを把握し、1人でも進められるようにある程度進める予定だ。秀なんか、ほぼ終わらせる気でいる。
おかげで貴志の首は大忙しだ。
右に左に、パソコンに向き合いながら手元の資料を見たり・・・それでも、嫌な顔一つもせずに向き合ってくれていた。
心なしか・・・いや、確実に俺の方へ顔を向ける回数は多いが、すっと耳に入ってくる貴志の声に耳を傾け、貴志の時間を無駄にしないようにノートと睨めっこする。
そうしている内に、本当に天才になったかのような気持ちで書き進めていった。
「天音、これを・・・」
夕方、近くのスーパーに買い出しに出た帰りだった。
貴志が一輪の花を俺に差し出す。それはひまわりだった。俺はひまわりを受け取ると、それを見つめながら小さく微笑む。
「ありがとう、貴志くん。いつの間に買っていたの?」
「さっき、秀と天音が本屋に寄った時に花屋で買った」
「そっか・・・貴志くんはいつもまっすぐに伝えてくれるね」
そう言って俺は貴志へと顔を向ける。貴志は一瞬びっくりした表情をするが、気付いていたのかと微笑んだ。
「母さんが教えてくれたんだ。貴志くんがいつもくれる花には、それぞれ意味があるって。それで、俺も自然と貰うたびに調べてた」
もう一度お礼を言うと、貴志はほんの少し耳を染めて前へと顔を向けた。
目の前にはいつの間にか仲良くなっていた秀と岬さんが楽しく会話しながら歩いていた。その後を俺達も歩く。
ひまわりの花言葉・・・『あなただけを見ている』。
いつの間にか調べなくてもわかる様になっていた俺は、その意味に頬が熱くなる。
無言になってしまった貴志の手をそっと取ると、貴志が慌てて振り向く。
「歳の差って悪い事だけじゃないね。こうして手を繋いでも誰からも注目を浴びない」
「そうだな・・・俺としては少々不服だが、悪くない」
貴志はそう言って微笑むと、繋いだ俺の手を引き寄せキスをする。
「俺は大きくなっても、こうして天音と手を繋いで歩きたい。天音、そうしてくれるか?」
真っ直ぐに俺を見上げ、見つめる貴志を、俺も見つめ返して微笑む。
「そうだね。そうなるといいね」
「天音・・・」
俺の言葉に心底嬉しそうに貴志は微笑む。俺は照れくさいのを誤魔化すように貴志の手を引き、早く帰ろうと促した。
その日は岬さんも一緒にカレーを作った。
夜だけは合宿らしくみんなでご飯を作ろうと決め、それならば、今日は合宿の定番を作ろうと秀が提案したからだ。
やはり慣れない手付きではあったが、貴志が楽しそうに料理を始める。
固形のルーを見て、初めて見たと驚いている貴志を、俺達は笑う。
楽しい時間がただ流れていって、普段は無表情の貴志が満面の笑みを溢しているのを見て、俺は愛おしいと思った。
こうしてみんなと、貴志と過ごす時間がもっと欲しいと欲張ってしまう。
貴志にそう言えば、きっと喜んで時間を作ってくれるだろう。
貴志は俺との未来をずっと描いてくれている。
俺もそうなったらいいと、心のどこかで思ってしまう。
でも、俺には思い描けない。
ほんの少しの先の事でも見えない俺、発情期だって未だに来ない。
もし、このまま来なかったら、後継者である貴志の子を残す事もできない。
何より、貴志が言う『運命の番』を感じる事ができない。
きっとそれが、俺に自信を持たせてくれない原因だ。
貴志の気持ちはちゃんと伝わっているのに、信じる事ができない。
貴志との未来が見えない・・・。
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