第4話 大人びた子供

それから二日後の夜、貴志はまた自宅へとやってきた。

部屋のドアは開けたままで、少しだけ俺と話したいと両親に許可を貰う。

俺は気まずさを抱えながら、部屋へと案内する。貴志は部屋に入ると辺りを見回す。

「この前はゆっくり見れなかったが、素朴でいい部屋だな」

「ありがとうございます」

相変わらず敬語で話す俺に、少し寂しそうな表情でため息を吐きながら、貴志は腰をおろした。

俺もテーブルを挟んだ向かい側に腰を下ろすと、貴志は徐に頭を下げた。

「この前はすまなかった。天音の事を想うと気が急いてしまった。だが、この前言った通り、俺は天音の心ごと欲しいと願っている。だから、もう一度やり直させてくれ」

俺は少し罪悪感を感じ、頭を上げるように促す。

貴志はゆっくりと頭を上げると、俺をまっすぐに見つめる。

「俺は幼少から大人に囲まれ、厳しい教育を受けてきた。そのせいもあってか、同じ年頃の気持ちがわからない」

「同じ年頃・・・それは俺も含まれますか?」

「そうだ。俺が今まで付き合ってきたのは皆、40を超える大人ばかりだ。それに、俺は今、高校に通っている。となれば、天音も同じ年頃だろう?」

「あ・・そ、そうですね・・・」

「天音、俺は恐らくあと2年もすれば最初のラットが来る。あの後、病院で調べてもらった。どうやら俺は何でも人より早いらしい。2年後と言ったら俺は留学中だ。だから、天音が誘発される事はない。だが、少なからず俺からもフェロモンは出る。だから、一度、天音にもどの抑制剤が合うか病院で検査してもらえないだろうか?もちろん、費用はこちらで出す」

「発情期もまだの俺に、そんな事をしても意味があるんですか?」

「俺が世話になっている病院はオメガに特化した専用科もある。そこで色々調べてもらって、天音の体質に合う抑制剤を処方してもらう。確かに発情期はまだであれば、必ずしもそれが効くかはわからないが、少しは対策になる。天音・・・」

貴志は俺の手に自分の手をそっと添える。

「天音が年齢の事をとても気にしているのはわかる。俺も天音を犯罪者などにはしたくない。だが、俺には時間がない。留学は元々決まっていたし、何より向こうでの大学に通う事でアルファとしての学業を全て終わらせる事ができる。つまり、結婚の承諾が貰えるのだ。天音と出会えたからこそ、俺は留学をして堂々と天音と結婚したい。だからこそ、時間がないのだ。天音の心配事を少しでも減らす為にも検査を受けてほしい。そして、対策を備えた上で俺と向き合って欲しい」

切実な眼差しを向けられ、俺は心が揺れる。


顔に幼さはあるものの、整った顔立ちに綺麗な一重瞼。

子供とは思えない大人びた口調に考え方、どれも既にアルファとしての風格を備わっている。

きっと、数年後には俺とは比べものにならないくらい背も伸びて、誰もが羨むアルファの男となるだろう。

だが、そんな男が変わらず劣性オメガと結婚したがるだろうか。

絆されてその気になって捨てられれば、俺はどうなる?

オメガは一度噛まれれば、他の人とは番えない。

今はそれを解消できるプログラムがあるとは聞いたが、それにはとても苦痛を伴うとも聞いた。

何より問題は年齢だ。もう少し近かったら・・・オメガ法が出来てからは未成年への性的問題もかなり厳しくなった。

だからこそ、もしもの時が起こった時が怖い・・・俺の頭の中は色んな考えで渦巻く。

いつの間にか俯いていた俺に、貴志は寄り添い、俺の顔を覗き込む。

「そうやって天音が俯く事を、俺の手で取り除いてあげたいんだ。今の俺は天音を見上げる背であり、年齢だ。だが、それも拭える程の愛を注ぎたい。俯くのであれば、そのまま俺を見下ろして見つめてくれないか?」

「俺は・・・俺は君がいうような運命的な物を感じれない。それは、この先も変わらないかもしれない。俺は欠陥品のオメガだから・・・」

「欠陥品などではない。天音は愛らしい。今まで発情も匂いも気付かなかったのは俺と出会う為だと思えばいい。俺がもう少しフェロモンが出るようになれば、天音にも届くはずだ。だから、それまでは心を向き合わせて欲しい。本能より先に、俺と心を通わせて欲しい」

「でも・・・」

「あまり気を揉まなくていい。努力は俺がすればいいのだから・・・いや、しなくてはいけないな」

貴志はそう言って微笑む。それでも俺は返事が出来ずにいた。

貴志は俺の手の甲にキスをすると、急にニヤリと笑う。

「俺が襲う分にはいいのか?」

「え?」

「だから、天音が襲うと犯罪になるのであれば、俺が襲う分には問題ないだろう?まぁ・・・今の俺のサイズでは満足しないだろうが・・・」

一瞬何を言われたのかわからなかったが、いつまでもニヤニヤと笑みを浮かべる貴志を見ながら、言葉を理解すると顔が熱くなる。

「それでも未成年どころか、子供としたら犯罪だろ!?」

そう声を荒げる俺に、貴志は可愛いなと声を出して笑った。

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