速やかな撤退も時には必要なのでしてよ。(ふざけんな)



 悪役令嬢こと、クイーンリゼット・アイラッシュですの。


 私の望みはただ一つ鍛え上げたこの筋肉で王子とヒロイン、他攻略者達を殴りつけ、奴らの悪行の数々もぶちまけて、その信頼を地に落とし婚約を破棄すること。ついでに王子は一人っ子ですが、現王には弟がいて、その弟には子供がいます。私より一つ下なのでその子を王子に祭り上げ、後見人を我がアイラッシュ家が務めること。今後もさまざまな問題を起こすだろう攻略者達とヒロインを私の管理下におくこと。

(一つじゃないんだよな)


 ついつい欲がでてしまいますわ。


 そんな私の望みのためにやるべきことはただ一つ王子とヒロインに恋をさせて恋愛関係を発展させることなんですけども、これが全くうまくいきません。


 ゲームではお前ら変愛のことしか考えてないのでしょうと言いたくなるぐらい簡単にぽんぽんぽんぽん思い合ってくれると言うのに、何故か王子がちっともヒロインに興味をいだいてくれないのです。

(むしろお前に惚れている始末だろう)

 ああ。……そうです。……そうなのです。


 大変気味の悪いことに今王子は私のことを好きになってしまっているのです。今まで私のことなんて虫かなにかだとでも思っていたくせに!!


 最近は毎日私の顔を見てくるかと思えばにやにやと笑いだして大変気持ち悪いです。味方になってくれたゴリ友の話によるとあの女は拳が強いようだがもしかしたら鍛えているのか? ならば筋トレグッズ等を贈ったら喜ぶのだろうか。なんて話してくるのが日課とかでとてつもなく気味が悪く寒気が走ります。

 おかげで王子の顔を見るとおぞましさで意識が遠くなる始末。この事態を重くみて一時撤退し今日は学園をお休みしてしまいました。


 明日からまた通うとして今日のうちにどうやって王子にヒロインと恋愛させるか考えなくてはなりません。

 一体どういたしましょう。


 今思いつくのは王子を襲って倒れさせ、惚れ薬を飲ませた上ヒロインの前に放置することなのですが。

(強引にもほどがある。もはや犯罪だぞ)

 五月蝿いですわ。極力近づかず解決させるにははこれしか手がないのです。王の前でゴリラのようにバナナを食べたり、足元にわざと皮を捨ててすっころばしたり、ゴリラ顔をみせたりしましたけど、ふふふって全てに笑って返してくださったのですよ。気味悪

 なんだったのです。あれは?


(知らない。折角人がいない時間を作ったりしたんだけど、ものの見事に滑ったよな。それどころか群岡が言うにはあいつ俺に気があるんだな。なんて言い出している始末らしいし)

 気持ち悪!

 初めて聞いた時も卒倒しかけましたが、今も気絶してしまいそうになりましたわ。もうその話は二度ととしないでくださいませ。


 鍛錬中はとくに危険でしてよ。

(そもそも鍛錬しなから思考するのもどうなんだ。

 だからお前は筋肉方向に話がむかうんだ。頭はいい筈なのに残念野郎になっているぞ)

 考えながら鍛錬するのは思考が回って良いのですよね。まあ、ついつい筋肉について考えてしまうのは確かですが、でもあれなのです。理由があるのです。

(なんだ)

 貴方の体にいる時は一人だったのでそれなりにしっかり考えて行動に移しておりましたが、今は貴方もいますので好きなだけ暴れることができているのですよ。

 何かあれば貴方が止めてくださいますからね。頼りにしております。

(········ふん。人の話なんて聞かないくせしてよく言うな)

 おやおや。照れていますの。

(照れてはいない……。って、何かうるさくないか)


 あら〜〜。そう言えば……。って、これは、まさか……。チェンジしますわ

(はぁ!? 何だ急に!)

チェンジです。いやな予感がしますの

「お嬢様!! 大変です。王子がいらっしゃいました」

「はあ?」

(え、何で……。誰が来たって)

 王子ですわ。この騒ぎ方。来ないだ王子が来た時と同じだって思いましたの……。チェンジして正解でしたわ。


(ふざけんなよ。こっちは急にかわられてどうしていいか分からないんだが。体がやたらと重いし)

 筋肉の重みですわね。どうです。ずっしりとしていて、それでいてしなやかな私の筋肉は。素晴らしいでしょう。

(動かし方が分からん。普通に動いているつもりだが違和感がありすぎる。俺の体と違いすぎるんだ)

 もやしでしたからね。それよりどうするのです。王子を追い返しますか? 私はそれでもいいのですか。

(だめだろ。仮にも王子にそんなことしたら何を言われるか)


「今まで寝ていたことにして三十分は待たせてくださいな。それからメイド達を呼んできてくださいまし」

(ってお前の口調はこれていいのか?)

 大丈夫でしてよ。ほら。兵士も何も気付かず分かりましたって走っていきます。いつも見ているだけありましたわ。


「お、おい。今のお嬢様いつもと違って何か柔らかくなかったか」

「お前も思ったか。何だあれだ、野性味がなかったな」

 あら?


(はっ。そうか。さっき無駄にゴリラポーズをするのを忘れてしまっていたな。お前はいつも兵士と話をする時はゴリラポーズをしていたのに)

 あらあらあら。そうでしたか? 覚えてませんわ。

(自然にやりすぎて分かっていないだけだろう。

 今度お前がゴリラポーズをしたら逐一言ってやるよ。画面が五月蝿くなること間違いなしだ。ハチャメチャな回数ゴリラポーズをしているからな。

 良く学園じゃしないなって感心しているぐらいだ)

 これでも一応お嬢様がこびりついておりますから。

(はっ?)


 それより早く行きますよ。今すぐ具合悪いふりをしなくては。

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