幸せはもうすぐそこに! だったはずなのにどうして遠のいていきますの


「というわけですの。分かっていただけましたか」

「ああ。大体は理解した。……理解したんだが……、お前、王子を殴ったのはまずかったぞ」

「え? そうでしょうか?」

(死体と恋は始まらないからな)


 あ、今私達は王子が見える位置に隠れてヒロインが来るのを待っていますわ。その間にゴリ友への説明も終えた所です。

「ああ。お前、前に王子をどこかで殴ってるだろう。その話を良く聞かされるんだが、……どうもその件で王子はお前のことを好きになってるっぽいんだ」

「は? 気持ち悪」

(変態じゃないか。きもっ)


 え? え? どういうことですの。ゴリ友が冗談でも言っているのでしょうか?  ああ、でも真顔ですわ。とんでもない真顔ですわ。

 冗談を言っているようには見えませんこと。

(待て。顔で決めるのは危険だ。群岡は真顔で冗談を言うやつだからもしかしたら)

 そうでしたわね。それで私も何度かやられましたわ。


「冗誰ですの」

「いや、違う。本当に好きっぽいんだ。護衛ってことだから嫌だが一応毎日奴のそばにいるんだが、お前の話ばかりしている。

 あいつは何なんだ。何を考えている。毎日見てても分からん。だから余計見たくなる。あいつの拳は鉛のように痛かった。

 なんてことを頬が赤くなりながら話すんだ。

 わりと気持ち悪いぞ。変なやつだなって思ってる」

「……チェンジ」

「え?」

(嫌だ。断固として断る。変態の話を聞きながらお前のふりとかできん。実況も交代する気はない)

 くそですわ。


 ええ、どういうことですの。クソ王子の性癖はいつの間にそんなに歪んでおりましたの。誰ですの。歪ませたのは。

 ぶん殴ってやりますことよ。


(やめろやめろ。歪ませたのお前だしまた別の奴の性癖が歪んだりしたらどうするんだ)

 はぁ〜、何てことでしょう。というかゴリ友は何て涼しい顔をしているのでしょうか。しまいにはこいつぶん殴りますわよ。

(それは一回やっていい。こいつ本当そう言う所だからな)

「お、ヒロインってもしかしてあれか」

「えっ」

 ついにヒロインが来ましたわ。


「そうですね」

 黒い髪に小柄な体、遠目からでも分かるような大きな瞳。可愛らしいあの顔立ちは間違いなくヒロインですわ〜〜。

(ほう。あれかヒロインなのか、ヒロインの姿はみたことなかったんだが、たしかに小柄で安心するサイズだな。まず筋肉がない)

「筋肉がなくてこわいなヒロインとして大丈夫か」

(あ? ……)


「あら、ヒロインはか弱くて華奢なら方がいいでしょう。守ってあげたくなりますわ。私も女の子は可愛いのがいいです」

(ゴリラなのに?)

「ゴリラなのにか」

「お黙りになって」


 全く。あれだけ騒いでおいてこんな時だけ息を合わせないでくださいまし。余計な会話はせず、ヒロインを見守りますわよ。ほら。もうすぐでバカ王子に気づきますわよ。

 私、わくわくしてきました。


(よくわくわくできるな。百年の恋だろうが終わるんじゃないかって俺はドキドキだぞ。思うにせめて仰向けにしてやるべきだったんじゃないか?)

 細かいことは気にしないのです

「ヒロインやたらご機嫌なんだな」

「え? あ、そうですわね」


 よくよくみたらスキップまでしてご機嫌ですわ。何か良いことでもあったのでしょうか。あら、でも確かここは学園に馴染めずしょんぼりしていたはずですが……。

 まあでも多少の齟齬はあってもおかしくないですよね。

(悪役令嬢がゴリラだしな)


 スキップも小さくてかわいいですわ。と思えば止めてしまいましたわ。もうそろそろ王子が見える位置になりますか。

 どうも何かを探しているようですわね。何かあるのかしら。

 あ、王子がもう見えますわ。

「え。きゃぁああああああ」

「あら? ……盛大な悲鳴ですわね」

「どうしたんだ」

(そりゃあ悲鳴もあげるだろう。転がっているのは死体だぞ)


 あっ。でも近付いてはくれていますわ。おそるおそるではありますが。これで問題ないでしょう。恋が始まります。

(とんだ恋の始まり方だな)


 ほらほら見てくださいまし。心配したヒロインが優しく王子を起こそうとしております。なんて素敵な恋の始まりなのでしょう。

 って、あらあら。

「おい、のっけからキスしたんだが。最近の家庭ゲームってこんなものなのか」

「そんなはずわ」

 あらあら。どういうことでしょうか。ヒロインが王子にキスをしましたわ。出会いのシーンはこんな感じではなかったと思いますが。

 でも、まあ……、


「恋はこれて始まりましたわよね。

 うっふふ。早く二人に恋仲になってほしいですわ」

「……良く分からんが、そうだな」


(いや、むりだろう。群岡もテキトーな返事をしているんじゃない。

 明らかにおかしくて恋とか言っている場合じゃないぞ。どう見ても死体の王子にキスするって普通じゃないぞ)

 そうですか?

(お前は死体にキスするのか)

 ふむ、……でもどうして彼女がキスしたのかは分かりませんわ。 こう言う時は


「死体にキスするのはどうしてなのでしょうね」

 竹馬の友であるゴリ友に聞くのが一番でしてよ。三人寄れば文殊の知恵とも言いますからね。

「……死体愛好家じゃないのか?」

「なるほど。つまりヒロインの行く先々に王子の死体をばら撒いておけばいいのですわね。得意分野でしてよ」

(なるほどじゃないんだが? 何でゴリラに頼った?? ゴリラがゴリラに頼ろうと所詮ゴリラの意見しか出てこないのはわかるだろう。


 後そんな事したら王子まじで死ぬからな)

 そんな大袈裟。 

 あ、ほら王子も目覚めたようですわよ。


(早くないか?)

 ……早いですわね。もう一時間ぐらいは寝ているはずでしたのに……。

 愛の力ですわ。愛の力が王子を目覚めさせたのですわ。ほら。王子。貴方の運命の人でしてよ。はぁ? あら? あらあらあら??

 今王子、近寄るな。この平民がって言いましたか?

「うわぁ。最低な台詞だな。ゲームとは言えこんなこと言って良いのか?」

「こんなことは言わないはずです。私は聞いたこと無い……」


 ああ。ヒロインちゃんが泣きそうですわ。なんてことなんです。あのバカ王子を早く止めないと。


「おい。待て待て」

(ちょっと待て)

「なんですの。この手は。話せですのよ」

「お前が今出ていくとややこしいことになるだろうが」

 ……それはその通りなのですが。でも恋が……。恋が、始まらないのです。王子が恋の始まりをぶち壊してきます。ああ、ほら。お前なんかには欠片も興味がないとか言っちゃってますわ。恋始めなさいよ。


 何がどうなっていますの。ぶん殴ったのが間違いだったのかしら? でもそうしないと王子とヒロインが出会いませんでしたわ……。


 そうこう言っていたら王子が去ってしまいました……。

「何かよく分からんが、もしかしなくも予定外の展開ってやつなのか? だとしたら理由は王子がお前に惚れていることか?

 お前を嫌いにさせるか、それ以上にヒロインを好きになってもらうか。そのどっちかが解決策のように思えるな。

 だけど。

 ……お前みたいな奴を好きになったあとで普通の女を好きになれるのか」

(···········まあ、無理だろうな)

 そんな。そんな酷いことありますか。


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