女の子になりましても、心のゴリラは止められないのです
ゴトゴトと揺れる馬車の中、私は出ていく吐息を止めることが出来ません。首元がきつくてきつくて仕方ないのです。お腹は苦しいですし、肩もどことなく窮屈です。
馬車の中ぐらい首のものを取りたい気分です。
(おい、やめろよ。 メイドの彼女が三時間かけて、普通の女の子に見えるようコーデしてくれたんだ。
それでも俺には筋肉だるまにしか見えないけど)
分かっておいででしてよ。
まったく手間をかけさせてくれますわ。ですが、ゴリラにやられるより、見た目華奢で可愛いく守ってあげたくなっちょうような女の子にやられる方が滑稽で奴らも良い気味と言うものですから。
全員殴りとばすまでは頑張らないと駄目ですよね。
(どっかでばれると思うけどな。
だってお前は行動がゴリラだもん)
あら、私それに関してはいい方法思いついていますわよ。貴方に私の体を動かしてもらえばいいんですわ。
(この俺がゴリラの体、動らせるわけないだろう。)
だからこそいい目くらましになりますわ。今日は必要ありませんけど
そうこう話しておりましたら、学園まで後少しですわね。この三ヶ月、鍛錬のため来ておりませんので懐かしいですわ。相変わらず無駄にぎらぎらしていて権力って感じですわ。
道行く人の筋肉のなさに涙がでそう。
まぁ、他人の肉体にはあまり興味ないからいいのですけどね。兵士以外は。兵士はこの国を守るもの。もしものためにも強くなってもらわねば困りますわ。
だからこそあんな恋愛脳の常春クズを王子直属護衛などと言う位置につけておくわけにはいかないのです。あれにあこがれられても困りますから。
みんなの前でボッコにしますよ。気合こめなおしですわ。
(おう……。がんば)
がやがや、がやがやと学園の中は騒がしいですわ。色々な所で集まってピーチクパーチクさえずってます。周りとの関わり作りも貴族の大切な勤めですので、仕方ないのでしょうが。それでも今日は一番うるさい気がするのは気のせいではないのでしょうね。
ちらちらとこちらを見てくる視線もおおいですし、久しぶりの有名人の登校で沸き立っていると言う所でしょう。
嬉しいですわ。
ギャラリーが増えそう。
(同情する必要もない奴らなんだろうが、ちょっと同情するな)
同情するなら私を応援してくださいまし。
その分ボコりますから。
(いや、ボコんなよ。
その騎士、どこいるのか分かるのか?)
もちろん、あの男なら中庭か食堂あたりで女の子を口説いているころでしょう。そこに王子がいればいいのですけどね。
(? 王子も女の子をくどいてるのか?)
まさかあの人はそんなことしませんよ。私も含めて世の中、全員自分の地位にしか興味がないと思っている人ですから。はっ、ミックスジュースにでもして、そこらの平民にでも飲ませたいぐらいですわ。
そしたら少しは騙されたって泣くものもいなくなるのでなくて、でも他責な民ばかりになっても嫌ですわね。
悪影響の方が大きそうですわ。私がいてほしいのもそれが正しいことだからですからですしね。絶対そんなことはないのでしょうが…….。
王子直属の護衛が王子の傍を離れるなんて本来ならあってはいけないことなのです。そのため二人は同じクラスになっているのです。お傍にはりついて王子を守るのが役目。
だけどあのクズ騎士はクズ王子に言われるまま、王子を一人にしますのよ。言った所でろくに話をききはしないのでもうみんな言いもしませんけどね。
さあ、今日はいてくれるのかしら。
いなかろうとそれはそれでいいのですが、バカさ加減に頭が痛くなります。
(ちなみに俺にはどこにもいないように見えるぞ。
王子って金髪の派手めな奴だろう)
ああ、そうですわね。 いませんわ。
たどりついた中庭、この学園内で唯一ましな場所だと言うのに私の頭は痛くなってまいりました。中庭にいる一番派手めな集団の中には今日のターゲットであるクソ騎士がいるのですが、近くにはあのドハデバカ王子がいません。
どうせその辺で横にでもなっているのでしょう。
一生寝てたら良いのに。
まあまあ、これで口だすことが一つ増えましたね。行きますわよ。
ついでに実況交換いたしますわ。頼みましたよ。
(え、それって交換できるものなのか)
私の中にいるのですから私も同じですわ〜〜。お願いですよ〜〜)
いや、俺ゴリラにはなってないんだが……。
ああ、騎士がこちらに気付いたようだな。でもすぐに目がそらされた。もしかしてお前、嫌われているのか?
(奴らは私のことを高飛車な女と言って嫌っているのですわ。まあ、奴らのことに何度か言ったことがありますからね。
騎士は王子の傍にいるものだ。周りを気にせず魔法を使うのはいかがなものか。教師が生徒によって態度を変えるのは如何なものか、なんてどれも当然のことしか言ってませんけど)
本当クズだな。お前が近付いてくのにどんどん笑みがひきつっているぞ。いい気味だな。周りも気付いて引き始めたが。よく分からんが貴族はそれなりの立場のものには道を開けなくてはならないのか?
それともお前がゴリラだからか
(前者でしてよ)
人がひいて騎士までまっすぐいけそうだな。
もちろんそうするのだろう。
(当然ですわね)
「エン・フタワール様。お久しぶりです」
いくら今の見た目、女の子でもゴリラが淑女のようにスカートの裾を広げお辞儀するのは違和感あるな。
でも勝士の奴はそうでもないのか。ただ話しかけられたのが嫌そうにするだけだ。周りは何が始まるのかって何処となくソワソワしているが。
何となく今こいつは笑っている? 中からだからこいつの姿はちょっと分からん。
ただ手を動かしているのは視界の中に見える。手袋を外して、それをゴミでも見るように見てきた実際のゴミに叩き付けていた。
いい音がした。
少しの間頬に手袋がはりついていたのは笑えた。
周りは何かざわざわしているが、これは何の意味があるんだ? 確かヨーロッパあたりではそれが決闘の申し入れになるとか聞いた事はあるが……。
後手は隠せ。その手はゴリラの手だ。
(あら。ごめんあそばし。
そしてその通りですわ。決闘を申しこんだのです)
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