Note 6 核戦争後の日本国防軍
気配はあった。しかし戦闘は本当に突然始まった。
まず、ものすごい数の足音とエンジン音が響いた。そのあと、ものすごい大きさの砲撃音と爆発音が響いた。そして、ものすごい数と大きさの銃声と怒号が鳴り響いた。
戦闘は一日二日で終わるどころではなく、三週間が経っても未だ収まる気配がなかった。
戦闘が始まった日から、実験棟の地下に避難した。地下にも物資は集めていたが、まさか三週間も籠ることになるとは思いもしなかった。
最初は昼夜問わず鳴り響く地鳴りで全く眠れなかったが、今では昼寝ができるくらいには慣れたし、ときどきは外の空気を吸いに出たりもしている。
幸い、実験棟や〈BATiS〉の会社施設がある中心部は戦闘区域からは外れていたので被害はなかった。
一番高いオフィスビルの屋上からは戦闘の様子が見えた。夜、遠く町の外苑部は炎に包まれていた。
「アサルトライフルを探しに行こう」とA.I.R.が言った。「まだ戦闘中で危険だ」と返したが、「戦闘が終わってからでは軍や他のスカベンジャーに先を越される」と言われた。
銃声が鳴り響く中、実験棟から外に出た。知っていたはずの廃墟は様変わりしていた。すでに破壊されていた建物の多くはさらに破壊されていた。駅ビルは上半分が崩壊し、下には吹っ飛んだ電車が突き刺さっていた。道路は瓦礫と砲弾孔でめちゃくちゃになっており、灰になった車列の横では、日の丸が描かれたテクニカルトラックや軍用車両が燃えていた。新鮮な死体、流血と臓物、腕、足、頭が無秩序に転がる戦場には、まだ呻き声も聞こえた。
瓦礫の隙間から行く先を覗くたび、国民拳銃のスライドを引いては弾が装填されていることを確認した。使い方は簡単だ。セーフティはないので、トリガーを引けば弾は撃てる。
新鮮な死体のほとんどは森林迷彩を着た国防軍だった。腕やヘルメットには赤か黄色のマーカーが付いていた。「赤は皇道派国防軍、黄色は亡命政府派国防軍だ」とA.I.R.は言った。
死体を漁ると国防軍の旧式アサルトライフルを見つけた。銃は修理や部品取りのために複数、弾はマガジンにフルロードしてポーチやリュックに仕舞った。
アサルトライフルの他にはプレートキャリアや防弾プレートなどの装備品も手に入った。両足を失い、腕だけで道路を這っていた兵士は、将校用の拳銃と軍刀を持っていたので、それも剥いだ。
呻き声の主を漁る際は、ネイルハンマーで頭を砕いて黙らせた。そうしないと恐ろしくてとても触ることができなかった。国民拳銃は弾がもったいないので使わなかった。
かつてないほどの量と質の戦利品が手に入った。A.I.R.には「持ち過ぎだ」と注意されたが、いざとなったら捨てると返事した。今はとにかく持てる物は持って帰りたかった。
実験棟への帰り道沿い、笑い声が聞こえた。覗き見ると、処刑が行われていた。
赤いマーカーをした皇道派国防軍の連中が処刑をしていた。単に銃殺される人間はまだ運がいい方で、敵性外国人と呼ばれる連中は白人黒人中国人を問わずブルドーザーで穴に生き埋めにされていた。
黄色いマーカーをした亡命政府派の国防軍は最も悲惨で、ある者は吊るされ、ある者は手足を切り刻まれ、ある者は斬首されていた。
生きたまま腹を裂かれ、臓器を抜き取られている者もいた。臓器は医者のような奴が丁寧に梱包していた。拘束され、生きたまま血を抜かれている者もいた。血の入った輸血用バッグは医者のような奴が丁寧に梱包していた。
〈BATiS〉福島実験都市は今、戦場と化していた。それも重武装した軍隊同士の、日本国旗を掲げる軍隊同士の戦闘が行われていた。
まず最初に町に入ってきたのは亡命政府派の国防軍であり、その後の攻勢で優位に立っているのは皇道派の国防軍らしかった。
A.I.R.いわく、中国軍に敗れ、核攻撃により崩壊した日本国防軍は、今や「日本の再興という中身のないイデオロギーを標榜し、自らの正義以外を攻撃するだけの強盗集団でしかない」とA.I.R.は吐き捨てた。延々と続く処刑シーンを覗くA.I.R.は、まるでゴミか獣か畜生かでも見るような目をしていた。
転生後の世界や世紀末化した世界にはゾンビやモンスターと相場が決まっているが、これまでそういった類と出会ったことはなかった。それを残念に思ったこともあったが、今は少し考えが変わっていた。
この世界でゾンビやモンスターに該当するのは人間なのだ。それも、同じ日本人である人間が。
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